退職代行の業者
5月ころは退職代行の業者を取り上げるニュースが割と多かった印象です。
夏になり、新卒が入社して退職したくなって退職代行業者を利用する繁忙期は終わったのでしょうか。
退職代行の業者ができること
退職代行の業者(会社)は、退職希望の人から依頼を受けて退職したい勤務先に電話をして退職の意向を伝える業務をしているようです。
退職代行の業者が、依頼者の退職の意向を電話で伝えるメッセンジャーの業務をするのに留めているのは、弁護士法や行政書士法の違反の犯罪にならないようにしているためと考えられます。
有給の消化とか退職日の調整のような「交渉」を退職代行の業者が勤務先としてしまうと、退職という雇用契約の終了の事件について代理をしたということが明確になってしまうので、退職代行の業者はそのような交渉はできず、一方的なメッセンジャーをする他ないのです。もしそのような交渉をしたとすれば、電話交渉した退職代行の担当者とその交渉をさせていた代行業者の経営者等は弁護士法違反の犯罪をしたということになりかねないからです。
では、代理ではなく、法的には単なる使者(メッセンジャー)として退職の意向を伝言することを事業として行うことが弁護士法違反にならないのかというと、これはこれで疑問があります。
使者としての業務は「その他の法律事務」(弁護士法72条)に含まれるとも考えられるからです。
その点で、電話で退職の意向を伝えるだけの事業でも、少なくともグレーな領域にあるのではと考えられます。
伝言に電話を使うのは、退職の文書を退職代行の業者が作成してしまうと、権利義務に関する書類を作成したということで行政書士法違反の罪に問われるおそれがありますし、その他の法律事務をしたということで弁護士法違反の罪に問われるおそれもあるからだと考えます。
(ビジネス的にも、電話で短時間で退職代行の依頼を処理すれば効率よく利益を上げることができるのでしょう。)
退職代行から電話がきたら
退職代行から電話がかかってきた事業者は、その電話をきちんと録音しておきましょう。かかってきた電話を録音するのは違法ではありませんし、相手方に録音していることを知らせる必要はありません。
退職代行がどういう権限で何の用件で電話をしてきたのかを、退職代行からの電話を受けた側はきちんと確認しておくべきです。
退職代行の業者が使者としてどのような委任を受けたのか、委任状の提出を求めて確認するという対応もあり得ます。
退職代行の業者は何を伝えているのか
退職代行の電話は、依頼者の退職の意向を伝言するというものなのでしょう。その退職の意向というものは、法的にどういうものになるのか不明確な場合があると考えられます。
従業員が退職をしたい時に勤務先に申し出るのは、退職願(労働契約の解約の合意の申し込み)と解約の意思表示の2パターンが考えられます。
このような退職願の場合は、勤務先が承諾した場合は退職(労働契約の終了)となります。
解約の意思表示の場合は、民法に基づけば2週間の経過で労働契約の終了となります。(この2週間の期間については就業規則で変更できるのかという法的な問題があります。労働者に不当に不利な期間の定めであればそのような規則は無効とされるおそれがあります。)
退職代行の電話がきた後の対応
従業員が退職代行を利用するのは、従業員に問題がある場合と、勤務先の側に問題がある場合が考えられます。
勤務先の問題というのは、勤務先がブラック企業で従業員を使い潰して辞めさせてくれないという場合やパワハラやセクハラで従業員が苦しめられていて自ら退職の手続きができない状態に陥った場合などが考えられます。
従業員か勤務先かその両方に問題があったにせよ、退職代行を利用したということであれば退職の流れを変えるのは難しいでしょう。
そうなると社内の手続きに従って、退職の手続きを進めざるを得ないと考えます。
後々困るのは、従業員が退職の手続きが進んだ後になって、自分は退職代行に依頼していない等と言い出して、退職を撤回しようとする場合です。
面倒な事態にならないように、退職代行を伝えてきた従業員からは書面できちんと退職の意思を確認しておく必要があります。
退職代行を使ってきた従業員の対応に悩むのであれば、弁護士に相談・依頼して処理を進めるのが適切だと考えます。
なお、退職代行を使ってきた従業員が何故、退職したのかについて思い当たることがないかについて当該従業員の同僚等から聞き取りをして、勤務先側に問題が無かったのかを調査しておく必要があります。
ハラスメント等の職場の問題が残っているなら、退職した当該従業員だけの問題ではなく、勤務を続ける従業員や将来その職場に入る従業員にも関わるからです。
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