小指1本分の余裕
昔は良かった、と過去を美化するのは好きではないのですが、最近、本屋で働いていた頃のことをよく思い出します。
本好きな自分にとって、書店員の仕事はとても楽しいものでした。気の合う同僚と、本に埋もれる幸せな毎日。
でも、書店員としての短いキャリアの中で、今も役に立っていることって、正直、あまりないかもしれません。
やたら出版社の名前に詳しかったり、紙で、きれいにブックカバーを折ることができても、実生活で必要とされることはほぼないのです。
ひとつだけ、役に立っていることがあるとすれば「小指1本分の余裕」ってやつでしょうか。
新米書店員だった頃。
「本は本棚にきっちり揃えて入れてね。
沢山スペースが空いてると、本が倒れて落ちたりすることもあって危ないから。
かと言って、ぎゅうぎゅうに詰めすぎると、取り出すときに本が傷んでしまうから、小指一本入るくらい余裕を持って。」
上司は早口でそう言うと、自分が整理した棚の端っこに小指を差し込んで見せてくれました。ちょうど小指一本入る隙間が、そこにはありました。
なるほど、小指一本分の余裕があれば、ストレスなく本を取り出せるし、棚に不自然なスペースもできないから、本がきれいに見える。
書店業界の常識なのかは定かではないですが、私が勤めていた書店では一つのルールとなっていました。
(書店員が棚の前で小指をピンと立てていても、それは仕事のためで、恋人いるぜアピールではないのでご注意ください。)
それはさておき、小指一本分の余裕というけれど、人生もそれくらいの余裕は欲しいもの。
余裕綽々で生きれたら、気分は良いかもしれませんが、周りからはいけ好かない奴だと思われるかもしれません。ギリギリでいつも生きていたいわけじゃないけれど、夢中になれることがあるほうが、人生は面白い。
かといって、何もかも欲張って詰め込みすぎると、しんどくなるのも確かなこと。ぎゅうぎゅうに詰まった本棚のように、いざというときに身動きとれなくて、誰かを傷つけてしまうかもしれません。
少しの余裕、スペースが欲しい。
ハンドルの遊び部分、食事なら腹8分目。
ちょうど本棚に小指1本分の余裕を持たせるように。
そう思うと、最近の私の生活は、親指2本分くらいの余裕はあるなと反省します。好きな仕事があり充実している一方で、怠惰で非生産的な時間も長すぎます。
大好きな南部煎餅を食べながらダラダラと漫画を読む時間があるなら、もう少しやることがあるだろうと思います。
さて、そんな私の本棚。
最近めっきり整理を怠っているので、小指一本分の余裕どころか、並んだ本の上に本を乗せる始末です。(これは、本が傷むから書店業界では絶対やってはいけないこととされています。)
親指2本分👎👎の怠惰な時間を、まずは本棚の整理にあてるのが良さそうですね。