真夏のスイートポテト
先日作った天丼の余りの、さつまいも。
そろそろ食べないと、と思ってる間に、ものすごく暑くなってきて、食べる気が失せてきた。
さつまいもは、つくづく夏が似合わない野菜である。秋が旬だから当たり前なんだけど、それにしてもである。
うだるような暑さの中では、さつまいものほくほく感は無力だ。不快と言っても良いかもしれない。口の中の水分が全部持っていかれる。ていうか、単純に熱い。
やる気のない私は、やる気なさげに聞いてみた。
「さつまいもがあんだけど、なんか食いたいもんある〜?」
夫は言った。
「スイートポテトにアイスのっけて食べたい」
…て、天才か。笑
私と付き合い始めた頃、夫は食に興味がなかった。大根とかぶの違いもわからない男だった。
それが今はどうだろう。
私ですら思いつかい素晴らしいアイデア。
さすが我が夫、立派な食いしん坊になったもんだ。これもひとえに私の教育のおかげだ。
(そんな大層なアイデアか?というツッコミは置いといて。私は彼の成長に感動しているのです。)
よし、そういうことなら、美味しいスイートポテトを作ろうではないか!
気合いを入れた私は、余計なことを思いついてしまった。せっかくなら、すごく丁寧にスイートポテトを作ってみよう。こういうシンプルなお菓子ほど、丹念な作業がものをいうのだ。
まず、さつまいもを柔らかくする。
大抵レンジを使うが、今日は丁寧に作るから蒸し器を使う。蒸し器の方が甘味が増す気がするのだ。
皮を剥いて輪切りにし、水に晒してあくを抜く。10分ほど経ったら、蒸し器に並べる。蒸し器の底に水を張り、水からゆっくり蒸しあげる。
これだけでも結構時間がかかる。レンチンなら10分もかからない工程だ。でも、ゆっくり蒸し上げたさつまいもはすごく甘そうだ。
続いて、熱いうちにさつまいもをつぶす。マッシャーでつぶすだけでもいいが、今日は丁寧がテーマだから、裏漉しをしよう。
この裏漉しが、思わぬ落とし穴だった。
まず、私が持っている濾し器はサイズがおかしい。
小学生のときに買ってもらった、小学生サイズの濾し器。まさか嫁入り道具になるとは思わなんだ。
異常に小さいので、とても使いにくい。網目の面が狭いから、ちょっとずつ濾していくしかない。もちろん力もいる。
本日の気温は37度。
正真正銘の猛暑日。
台所にエアコンがあるとはいえ、暑い。手を動かしていれば尚更。額から汗がじわっと滲み出る。けれど、手を休める暇もない。
あれ…?
少しづつ困惑が心に広がっていく。
あれ…スイートポテトってこんなに大変だったっけ?暑いし…こんな真夏にスイートポテトなんて、なんで作ってるんだろう…もうやめちゃうか…手も痛いし…暑いし…なんで汗だくでスイートポテト作ってるんだ…
垂れ流れる汗のごとく、じわじわーと後悔の念が湧いてくる。
けれど、引き返すのもなんか負けたようで悔しくて、ひたすら裏漉しを続けた。
しまいには、さつまいもが冷めて固くなってきたので、レンチンして裏漉しする始末(結局レンジ使ってるし)
全ての裏漉しを終えた時は、サウナにでも入った後のような汗。私はととのっていないが、さつまいものキメはととのった。
ここからの作業は比較的楽で、バター、砂糖、生クリーム…と順番に混ぜていけば良い。蒸して甘味が増したからだろうか、味見してみると、とても甘い。砂糖の分量を減らした。
苦労して裏漉ししただけのことはあって、生地もなめらかでふわふわだ。
さらに、火にかけて水分を飛ばし、丸めやすくする。手で形を整えて、卵黄を塗り、オーブンで焼いていく。
完成。
なんでだろう…ここまでの苦労とは裏腹に、洗練されてない見た目。野暮ったい。
ケンミンショーか、日本列島ダーツの旅で、地元の人が作ったお料理はこちらですっていうVTRにでてきそうな、いかにも田舎風の出来栄えだ。
そんなだけど、味はもちろん良い。
これだけ手間がかかったのだから、美味しくないわけがない。
すごく甘いけど、さつまいもの自然な甘さで、滑らかで、口溶けがよくて、最高に美味しい。
手間をかければ必ずしも美味しい、というわけではないけれど、手間をかけないと出せない味、というのは必ず存在すると思う。
しかし、私は誓った。
もう、真夏にスイートポテトは作らない。