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「誰が言っとんねん」に気付かせてくれた美容室の池田さんと、コリス。

 昨日、うん年ぶりに美容室へ行った。そこで大きな気付きを得たので書き残しておきたい。

昼スナで出会ったカメラマンさんと角打ちのママが勧めてくれた美容室。ふたりの髪が素敵すぎて、いいないいなと言っていたら、「BENTONY STUDIO」の池田さんのところに行っておいで!と教えてくれた。その場でインスタをフォローして、ちょっと遠いな……とそのままだった。

「いつか行きたい」の「いつか」は不意に訪れた。

一昨日夜、寝る前にインスタを開くと、「明日開いてます!」とストーリーズが流れてきた。「明日行くしかない」と思いメッセージを送った。

福岡・六本松駅から歩いて数分のところにある2階建の建物の2階が美容室だ。1階は展示スペースとなっていて、時々、アーティストの展示イベントを開催しているそうだ。

伸び切った髪を切るのでもなく、染めてもらう。伸びてくる白髪を自分でちょちょっと染めているうちに、もう何年も経っていた。コリスが私に言う。「ママの髪、まだら」。生え際を染めつつ、残りの染料を適当に後ろの髪にも塗りたくっていたため、黒髪と茶髪がまだらになっていた。正面から鏡を見て、見えるところだけ染まればいいとのスタンスだった。

髪を染めてもらいながら、池田さんと話す。
池田さん「美容室行かずにどうしてたんですか?」
私「伸びてくる白髪だけ染めてました」
池田さん「いつもセットしますか?」
私「いいえ、一つに結んで、帽子かぶってます」

話しながら、自分のことなのに、なんだか悲しくなった。

その会話の後、池田さんにコリスのことを話した。
「9歳になる娘がおしゃれに興味がなくて、髪が長いからアレンジしようか?と聞いても、一つ結びしかしないんです。帽子がかぶりやすいからって」「髪を切るのもママでいいって。美容室にも行かず、まだ私が散髪してるんです」

コリスのことを話していて気が付いた。
それ、私じゃない?
まさか、コリス、私の真似してる?

コリスの身近なひと、それは間違いなく私だ。美容室に行かない私は、コリスの前で「美容室」って言葉を発したことがないのではないか……。美容室帰りのルンルンな姿を見せたことがあっただろうか。コリスは、そもそも美容室を知っているのだろうか。髪を切ってくれるプロがいることを知っているのだろうか。

「誰が言っとんねん」

私を見ていて、おしゃれに興味が湧かないのではないか。髪は一つ結び、外に出る時は帽子。髪染めも家でちゃちゃっとすます。

コリスは私の鏡だった。

美容室の大きな鏡に映る自分を見て、あちゃーと恥ずかしくなった。池田さんもすかさず、「誰が言っとんねん……ですね」と突っ込んでくれた。

ほんと、「誰が言っとんねん」。

このままでは、いけない気がしてきた。ひとつ気付いたら、他にも見えてきた。おしゃれより機能性。2パターンを着まわして、あったかソックスを履くコリス。それも私やん。悪いことではないのだけれど、若人の楽しみを45の私が奪っている気がした。

こうなってくると、コリスに言ってることの大半は、「誰が言っとんねん」な気がしてきた。「ひとは鏡」を、大きな鏡の前で学んだ。

 池田さんには、美容師のキャリアの築き方や独立について、多様化している働き方と、未知の世界の話をたくさん教えてもらった。同世代くらいで、スマホがなかった時代の話でも盛り上がった。

「ラブレターって曲、もう生まれてこないでしょうね。今曲を作る世代はラブレター書かないから。ラブレター、よかったな。それより昔は、詩を詠んで気持ちを伝えていたんですもんね」とか。話は、四方八方へ広がっては、鏡の前に座る自分に戻ってきた。

鏡を見ることから逃げてきたのかもしれない。ふと、気付く。

強制的に鏡の前に座らせられる美容室での時間を避けていた。「鏡を見ること、毎日写真を撮るのがいいらしいですよ」池田さんは言った。歳を重ねるごとに、鏡を見る時間は減っていた。自分に手間をかけなくなっていた。なるほど、自分を見ることから、まず始めよう。

身体から地続きの髪を、なぜこんなにも放っておいたのだろう。もっとケアしてあげたらよかったと、丁寧に髪を扱ってくれる池田さんを見て感じた。

ボサボサのまだら髪が、きれいになっていく様を見ていると嬉しくなった。この喜びをいつかコリスにも感じてもらいたい、そう思った。

 美容師さんは、すごい。美容室もすごい。自分ひとりでは感じることのできない喜びを与えてくれる。いつしか忘れていた髪をきれいにする喜び。「2カ月後、またお会いしましょう」と池田さんは言った。

お店なので、もちろんお客さんに来てもらわないと商売にならない。でも、お客さんは通うことで髪も気持ちも心地よくしてもらうことができる。当たり前のことなのだろうけど、長いこと忘れてしまっていた気持ちを思い出すことができた。

これからは、髪も労りながら生きていきたい。書いておかないと、またズボラしてしまいそうなので、ここに記す。

池田さんが登場するnoteがあったので載せておく。一緒にBENTONY STUDIO を立ち上げたアーティストの先輩は、福岡を離れ東京に行かれたそうだ。池田さんは、美容師であり、場をつくるひとでもある。六本松で見つけたもと倉庫のこの建物を改装し、一回をアーティストたちが作品を紹介する場や、面白いことをしていきたいと語っていた。

今は美容師も自分で店を持たず、店舗の一角を間借りして営業することもできるそうだ。池田さんは、自分の「場」を持ち、雰囲気をつくることも大切にするひとだった。改めて「場」をつくるっていいな。


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