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インスタントコーヒーの味を知る
コーヒーには少しだけこだわりがある。詳しくはないものの、日常的に飲むコーヒーもあれば少し贅沢したい時に飲むコーヒーもあり、味や香りの違いもわかっているつもりだ。
ここ数年で日常的に飲むコーヒーはキーコーヒーに落ち着いた。お米や牛乳のように「キーコーヒーを切らさないように」といった感じで買い続けている。
基本的にコーヒーは毎朝飲むので、前日の夜に豆を挽いてコーヒーメーカーに水と一緒にセットしておき、朝起きたらスイッチを入れてコーヒータイムを始める。
そういった暮らしを毎朝しているので、朝起きた時にキーコーヒーを切らしているとテンションが少し下がってしまう。習慣というのは恐ろしい。
しかし、先週出張で神奈川のホテルに泊まったところ、ホテルのコーヒーがインスタントコーヒーだった。フロントの近くに「ご自由にお持ちください。」といったスペースがあり、そこでアメニティと共にインスタントコーヒーが置かれていた。それを部屋まで持ち込んで自分でケトルでお湯を沸かして飲むスタイルだ。
インスタントコーヒーしか飲めない翌朝のことを想像すると、あまり気分が乗らなくなってしまった。美味いコーヒーを待ち侘びずに眠ってしまうと寝起きも悪くなりそうである。
しかし、実際に翌朝インスタントコーヒーを飲んでみたところ、これが非常に美味しく追加分をフロントまで取りに行って結局3杯も飲んでしまった。
もちろん、ちゃんと豆を挽いて飲むコーヒーの方が香り高くて美味しいが、そういう問題ではなくインスタントコーヒーならではの良い意味でチープな味わいが気に入ってしまったのである。どうやら美味しいものを楽しむだけでなく「違いを楽しむ」という便利な感性を持ち合わせているらしい。
こうして、連泊だったそのホテルでの滞在では2日連続でインスタントコーヒーを楽しむことができた。次の出張も同じホテルにしようと思っている。
簡単に調べてみたところ、どうやらインスタントコーヒーは加藤サトリという日本人の化学者が1899年に発明し、第一次世界大戦でアメリカ人の従軍時に使用されて爆発的に普及した歴史があるらしい。日本では1960年にコーヒー生豆の輸入が自由化されたこととスーパーマーケットの誕生が重なったことで、世間一般への普及に繋がったようだ。
第一次世界大戦と日本の高度経済成長期に普及したのは、どちらも時短とリラックスを求める環境だったからのように思える。従軍の戦士も企業戦士も、豆を挽いてドリップしている暇はなかったのだろう。そんな環境でもインスタントコーヒーならばお湯で溶かせばすぐに飲めるしゴミもでない。
これからも基本的にはキーコーヒーをコーヒーメーカーで淹れる暮らしが続くと思うけれど、戦士の様に忙しくなってしまった時のために、インスタントコーヒーを少しは常備しておいてもいいかなと思った出来事だった。