データドリブンを我が身で学ぶ
みなさんは健康診断の受診結果をしっかりと確認していますか?
多くの人は自分が気になっている項目だけ(体脂肪とかγGTPとか)しっかりと数値を確認し「異常なし」の回答を手にして安心ができたら、もうそれ以上細かく内容を確認していないのではないかと思います。
もちろん僕もそういった傾向はあるのですが、既往歴を持っているので一般的な成人男性に比べると敏感に結果をチェックしている方だと思います。
例えば、血液検査の結果を一度しっかりと確認するだけですぐわかりますが、一度の採血で取得できる情報は数十個以上にもなります。凄まじい情報量なのです。
それら貴重な情報の山をスルーしてしまうのはもったいないと考えることもできます。近代の医療は「治療から予防へ」と考え方もシフトしており、それは医療を提供する側の努力だけではなく一般市民側が意識をしなければ成り立たない方針です。
そのために必要な重要指標が羅列された診断表を目の前にして、「異常なし」という安心を得られるシンプルな回答だけを貰って満足するのはもったいないです。
「データドリブン」というビジネス用語があります。主に経営に関わる場面で使われますが、現場のスタッフにも使われます。
データドリブン経営とは、経験や勘ではなく「データをもと」に経営における様々な判断・意思決定を行うことです。客観的なデータを基準とすることで、より迅速かつ的確な判断が可能になります。
病院や健診センターが提供してくれている健康診断の結果はまさにデータドリブンであり、そのデータをもとに経験豊富な医師が助言をしてくれます。医療におけるデータ情報は難しいものばかりなので、用語解説も含めそのデータから客観的に自身の健康状態を理解していくこととなります。
僕は20代の前半に胃がんに罹り胃を全摘出しています。そのため、本来は食事の際に胃が生成してくれる栄養素を取得できないケースがあるため、健康状態のチェックを欠かすことができません。
とはいえ、人生は多忙であり、時には薬を飲み忘れてしまう時期もあります。そしてそういう時は急に体調不良になるわけではなく、だんだんと緩やかに栄養素が不足していっているので、自分の経験や勘では「大丈夫そうだ」という気持ちになりがちです。
そして忘れてしまった時に身体がだるくなってきて、異変に気づきます。休日に読書をしてもすぐに寝落ちしてしまい、口内炎がなぜかたくさん発生し食事をするのも辛くなってきたことがあります。
そこで健康診断の出番です。
採血を終えてその結果が書かれた用紙を見ながら、医師の説明を受けます。
栄養素の項目が100個近く羅列されていますが、素人にはさっぱりわからない数値ばかりです。医師曰く、このなかで注目すべき要素は「葉酸」と「鉄分」と「ビタミンB12」とのことでした。
貧血の時に鉄分が不足しているというのは割と常識的な知識だったので対策をしていましたが、葉酸とビタミンB12についてはあまり考えていませんでした。その後1週間、葉酸とビタミンB12の薬を飲み続けたところ、僕の貧血の原因は葉酸でも鉄分でもなく「ビタミンB12」の不足だということがわかりました。
胃を切除している人が欠如しやすい栄養素は鉄分とビタミンB12で、これらが不足すると極度の貧血に見舞われてしまいますが、これらを食事だけから摂取することが難しい身体の構造なのです。
ビタミンB12が身体に吸収されることで、骨髄が血液を生成してくれるようになります。そしてそのビタミンB12は、食事をする時に胃から分泌される要素と結合して腸に送られて身体に吸収されます。僕にはその胃がないので、基本的に食事からビタミンB12を摂取することができない、だから骨髄が血液を生成してくれない、という仕組みだったのです。
こうして僕の貧血はビタミン剤を飲むだけで治るようになりました。思えば手術してから数年は実直にビタミン剤を飲み続けていたものの、元気になってから忙しさに負けていつの間にか飲まなくなっていたことを忘れていたのです。
不調の時や不安になっている時に、人は感情が高まって冷静な判断ができなくなります。この貧血の対策に「気合が足りないんじゃないか」と判断して過ごしていても、一向に治らなかったことは明らかです。
こういった時こそ、人はデータに頼って冷静で客観的な意思決定をすべきだと思います。
経営だけでなく、「データドリブン」は日常にも大いに役に立つんですね。