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僕はよく泣く|その涙の理由
タイトルの通りですが、僕はよく泣きます。と言っても、感情が豊かだったりドラマチックな日々を過ごしているわけではありません。
これは若いころに使用した抗がん剤治療の副作用のひとつで、涙を抑える機能が働かなくなってしまったからです。
当時に比べるとだいぶ良くなりましたが、左目だけは未だにやたらと涙が出てきます。
涙が出るタイミングは主に食事の時で、スープやみそ汁をすするためにお椀を口もとに近づけますが、その際に汁物から出でくる蒸気に左目が刺激され、涙がどっと流れてくることがあるのです。
スープの温かさが心に沁み入っているわけではなく、みそ汁のおふくろの味にノスタルジーを感じているわけでもないのです。
映画やドラマではドラマチックな展開の時に役者が涙を流すシーンが多くあります。その涙のおかげで、観ている側も共感がしやすく、もらい泣きをしてしまうこともあります。
これは人々が「涙」を感動や悲しみの象徴として捉えているからで、そのため涙を流している人を見た瞬間に「あの人は悲しい感情が現れているんだ」と即座に気づいて共感ができるのだと思います。
しかし、涙の理由は何も感情だけではなく、抗がん剤治療の副作用のように極めて科学的な理由であることも事実です。
確かにタマネギを刻んでいると涙が出てくる現象は多くの人が経験したことがあるはずで、泣いているから感情的であるとは限らないことは誰もが本当はわかっていたことです。
仕事や人間関係で辛いことがあった時に「泣くことでストレスを解消する」という話を時々聞きますが、今までその感覚がさっぱり理解できずにいました。
しかし、こうして自分が感情とは別の理由で涙を流す経験を経たことで、ようやく僕も「涙にも色々と理由があるんだな」と思えるようになりました。
もちろん大半の涙は感情が原因だとは思いますが、涙にも様々な理由があることを踏まえ、文脈を読み取りながら共感しようと思います。
「表面的なことだけで物事を判断しない」という学びを得ることができたと考えると、僕の涙が止まらない現象は副作用ではなく副産物となったのかもしれません。