概要
著者は、歌人の木下龍也。今、最も人気のある歌人と言っても過言ではない。1988年生まれで若い歌人だが、文芸誌『群像』で、「群像短歌部」という短歌の投稿欄の選者もしている。
彼の短歌は短歌の定型である五七五七七に忠実な短歌が多く、短歌初心者の人が短歌の定型のリズムを身に染み込ませるための教科書にもなると思う。俺自身も、今でも彼の歌集をよく読んでいる。
この歌集は、依頼者からの想い(お題)をもとに木下龍也が短歌をつくり、封書にして届ける短歌の個人販売「あなたのための短歌1首」から、100首を収録したものである。
100首のなかから、特に印象に残った10首を依頼者のお題と共に紹介したい。
特に印象に残った10首
自分の心のなかから取り出すしかない「切手」。
自分にしか救えない人が、今もどこかで待っているのかもしれない。
想像すると、面白い。俺も、休みの日の夕方くらいに鏡を見て愕然とする時がある。
「たまには」っていうところが面白い。俺も犬を飼っていたことがあるが、本当にそんな感じだった。
ある意味、悩みは炎を出すときの薪のようなものなのかもしれない。
世の中にある「バス」は、一つではない。「私」は、次の朝新しい「バス」に乗りこむのだろう。
確かに、捨てられた空き缶の不規則な動きは「迷子」のようだ。
そう言えば、「まっすぐ」の文字には全部「カーブ」がある。そこに、気付いたところが凄い。
フランスの文豪、アレクサンドル・デュマの名作『モンテ・クリスト伯』のラストシーンで、主人公のダンテスが青年に送った「待て、そして希望せよ!」という言葉を思い出した。
「十二月」がめちゃくちゃカッコよく思えた。
まとめ
短歌への対価は、依頼者からすでに受け取っているという理由で、本書の印税を著者は受け取らず、印税に相当する金額を、全国の書店でさまざまな歌集を購入する費用に充て、その歌集は短歌の普及のため、希望する施設に寄贈するという。
著者はあとがきに書いている。
短歌に対するこの熱い思いと、真摯な姿勢を貫いているからこそ、著者は人の心を動かす素晴らしい短歌を作ることができるのかもしれない。