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おすすめの歌集『サイレンと犀』岡野大嗣著(書肆侃侃房)

歌人、岡野大嗣の第一歌集。著者は、2014年に短歌研究新人賞次席を獲得している。昨年は、NHK短歌の選者も務めていて現代短歌界を代表する歌人の一人と言える。

著書は昔、穂村弘の「短歌ください」に投稿していた時期があった。その時の短歌を単行本で読んでとても面白いなあ、と思っていた。「短歌ください」に掲載されていた短歌もこの歌集に何首か、収められていた。

では、いくつか紹介したい。

特に印象に残った10首

散髪の帰りの道で会う風が風のなかではいちばん好きだ

図書券で買ったジャンプのその釣りを生まれたての犬で返されかける

地下街は地下道になるいつしかにBGMが消えたあたりで               

かなしみを遠くはなれて見つめたら意外といける光景だった

もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい

消しゴムも筆記用具であることを希望と呼んではおかしいですか

生きるべき命がそこにあることを示して浮かぶ夜行腕章

「分かる者に代わりますのでそのままでお待ちください」この体勢で?

トピックス欄に訃報が現れてきらきら点るNEW!のアイコン

春空に千鳥格子の鳥たちを逃がしてつくる無地のスカート 

『サイレンと犀』岡野大嗣著(書肆侃侃房)

二首めの、「図書券で」の歌は想像では書けないような、リアルな感じの歌だと感じた。

三首め。確かに「地下街」だとにぎやかなイメージで「地下道」だと静かなイメージがする。

四首め。「遠くはなれて」は距離のことではなく、時間のことか。その時は、絶対絶命と感じることも10年20年たつと笑い話になることも多いから。

六首め。ユニークな発想の短歌。もし、消しゴムがなかったら失敗してもやり直すことができないからだろうか。

10首め。「春空」に飛んでいく「鳥たち」の姿を想像すると、とてもロマンチックで好きな短歌。

あとがきで印象に残った文章

僕はなぜこの歌集を世に送ろうとするのか。それは、千年以上も前の詠み人知らずの歌に心を動かされることがあるように、自分が「忘れたくない」と思った何かを、見知らぬ誰かにも伝えたいという願いからだと思う。

『サイレンと犀』岡野大嗣著(書肆侃侃房)

ユーモアのある短歌もあれば、考えさせられる哲学的な短歌もあってとても奥が深い、楽しむことができた歌集だった。口語(話し言葉)で書かれているので、あまり短歌を読んだことがない人でも、楽しめる歌集ではないかと思う。

これからも、手元に置いて著者の言う「「忘れたくない」と思った何か」をじっくり味わいたい。

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