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おすすめの歌集『えーえんとくちから』 笹井宏之著(筑摩書房)

概要


今日は、おすすめの歌集を紹介したい。この本は読者アプリ「ブクログ」の友達のまことがすすめてくれて読んだ。いい短歌ばかりで、付箋だらけとなったほどだ。

著者は、歌人の笹井宏之。2009年に病のため26歳で亡くなった。この本は彼のベスト歌集に未発表のエッセイや詩、俳句を加えて文庫化された本である。

2018年に彼の早逝を惜しむ声を受けて短歌新人賞である笹井宏之賞が創設された。では、この歌集のなかから特に印象に残った歌を紹介したい。

特に印象に残った短歌10首

「スライスチーズ、スライスチーズになる前の話をぼくにきかせておくれ」

『えーえんとくちから』笹井宏之著(筑摩書房)

牛から生まれて、酵素が加えられて・・・。そんな話をしてくれるのかもしれない。

つぼみより(きみがふたたびくるときは、七分咲きにはなっていたいな)

『えーえんとくちから』笹井宏之著(筑摩書房)

著者の花への優しいまなざしを感じる。

廃品になってはじめて本当の空を映せるのだね、テレビは

『えーえんとくちから』笹井宏之著(筑摩書房)

著者は、人間に対してだけでなく風やテレビといった無機物に対しても優しいまなざしを向けていると感じる。

ひろゆき、と平仮名めきて呼ぶときの祖母の瞳のいつくしき黒

『えーえんとくちから』笹井宏之著(筑摩書房)

「平仮名めきて」という表現が素晴らしくて、ゆっくりと静かに呼んだのではないかと想像された。

ひきがねをひけば小さな花束が飛びだすような明日をください

『えーえんとくちから』笹井宏之著(筑摩書房)

ささやかな幸せに対する憧れを詠んだのだろうか。

影だって踏まれたからには痛かろう しかし黙っている影として

『えーえんとくちから』笹井宏之著(筑摩書房)

弱い立場や、声なきものへ寄り添うような優しさを感じる。

スプーンに関心のある親指とない小指とのしずかな会話

『えーえんとくちから』笹井宏之著(筑摩書房)

そういえば、スプーンを使うときに小指がスプーンにつくことはない。

「とてつもないけしごむかすの洪水が来るぞ 愛が消されたらしい」

『えーえんとくちから』笹井宏之著(筑摩書房)

もしかしたら、この歌集で一番好きかもしれない短歌。初句の「とてつもない」の字余りは大量の「けしごむかす」を表しているのかもしれないし、四句の「来るぞ 愛が」の字足らずは「消された」愛を表しているのかもしれない。あくまで、推測だが。

愛の大きさを「けしごむかすの洪水」で表現したところが凄いと思った。

風という名前をつけてあげました それから彼を見ないのですが

『えーえんとくちから』笹井宏之著(筑摩書房)

風が著者の短歌にはよく出てくる。病で寝たきりだった著者の、自由への憧れだろうか。

生きてゆく 返しきれないたくさんの恩をかばんにつめて きちんと

『えーえんとくちから』笹井宏之著(筑摩書房)

「きちんと」というところに、著者の誠実さを感じた。

まとめ

あとがきで、著者は次のように述べている。

短歌は道であり、扉であり、ぼくとその周囲を異化する鍵です。

『えーえんとくちから』笹井宏之著(筑摩書房)

今の俺には少し難しい言葉だが、短歌を詠み続けていけば著者のいう「短歌は道であり、扉」という言葉の意味がうっすらとでもわかるのかもしれない。そう思っている。

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