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【追悼:三宅なほみ先生】 ~学びに大事なことは全て、三宅なほみ先生が学ばせてくれた~

【2021/5/13追記】
私の師匠である三宅なほみ先生の7回忌の5/29にメモリアルシンポジウムが開催されます。どなたでも無料で参加可能です。
https://www.kknews.co.jp/news/20210511yt05
教育激動の今こそ学習科学をもっと多くの方に知ってほしい。私も学習科学と出会って、大きく考えが変わりました。

改めて今三宅先生のことを知って頂くための参考記事として、こちらの記事が皆様の参考になれば幸いです。

【本編】
以下は過去(2015.6.4)のFacebook投稿をもとにした記事です。

2015年5月29日のこと

認知科学、学習科学の世界的な権威である三宅なほみ先生が2015年5月29日のお昼にご逝去されました。

最初私はSNS経由で耳にしたため、信じられないというか、全く実感が湧きませんでした。しかし、学会や大学の所属コースのメーリスで連絡があったことを関係者から確認し、ついに私も入っているメーリスでも正式なご連絡をいただきました。
お通夜・ご葬儀はご家族のみで取り行われるとのことで、日程未定ですが近日中にお別れの会が開催されるとのことです。

心から尊敬し、大好きだった三宅なほみ先生のご逝去はあまりに突然でした。とても、とても、悲しく寂しいです。
今、仕事をしながら、教育や学びについて話をする時、必ず三宅先生の顔が思い浮かびます。
本当に、学びに大事なことは全て、三宅なほみ先生から学ばせてもらいました。先生、本当にありがとうございました。

以下、個人的な吐露が多くなりますが、先生のことをよく覚えている今のうちに、思ってることを記録しておこうと思います。
超長文ですので、読み飛ばしてください。
(三宅先生のことを知る著作やwebについては最後の方にまとめていますので、ご参照ください)

先生と最後にお会いした時のこと

先生と最後にお話したのは今年2月下旬のこと。

私が別件で大学に行ったついでに、いつもながらアポなしで(今思うとなんと恐れ多いことか)先生の研究室に行くと、
そこにはいつも通り笑顔で迎えてくださる三宅先生がいました。
「なんだか声が出なくなってしまってねぇ」
とおっしゃっていましたが、
「この声じゃ講演依頼も来なくなるから、今年は物書きに専念できるわね笑」
と体調面での変化はありつつも、これまで同様、先生は先を見据えて、精力的に活動されているご様子でした。
チョムスキーの考えと学習に関するお話や、21世紀型学びの評価のお話など、私のこれまでの考え方が全部ひっくり返されるほど刺激的でした。

以前から、少し先の時期の話が出ると、
「その頃私はもういないかもしれないけどね笑」
と笑っておっしゃられるのですが、
「いえいえ、先生には元気でいてもらわないと困りますよ笑」
とお返ししたのは、いつもと同じやり取りでした。
部屋を出るときに、
「どうも、ありがとう♪」
とやさしい笑顔で送ってくださったのもいつもと同じでした。

その時の先生の声がまだ頭に残っているので、
未だにちょっと信じられない気持ちでいっぱいです。
あれが最後になるとは全く思っていませんでした。
先生に送ろうと思っていたメッセージ、インタビューの内容、
Life is Tech!のご報告、ALの全国的な展開に向けてやりたいこと・・・。
お話したかったことがまだまだいっぱい残ったままです、先生。

三宅先生との出会い

私は2010年に新卒で入ったリンクアンドモチベーションを退職し、東大の教育学研究科に戻りました。
そのガイダンスで、私は衝撃を受けました。
「私がやりたいことを、すでにやっている先生がいる!」
ものすごく興奮したのを覚えています。
協調学習を公立の学校の授業で実施するプロジェクトを始められており、「大学の知を学校現場で活用してもらう」という理想的なプロジェクトでした。これがCoREFのプロジェクトです。
http://coref.u-tokyo.ac.jp/

こういう先生がいる大学院に戻ってきてよかったと心底思ったものです。(なお、私の所属する学校開発政策コースも同様の考え方があるため、三宅先生がいなかったら、大学院に戻っていないということではないです)

私は所属研究室が別にあり、リサーチアシスタントの募集は博士課程からでしたが、ガイダンスの翌日アポなしで研究室を訪ねてみました。
恐る恐る、修士課程からプロジェクトに関われないか先生にお願いしたところ、
「いいですよ。どうぞ!」
と笑顔で二つ返事をくださり、先生とのお付き合いが始まりました。
ちなみに、この頃(約5年前)からすでにガンを患われており、薬を入れながら、世界中を飛び回られる壮絶な研究活動をされていました。

私は一人でいろんな案件を取ってきて、
CoREFの組織人としてはいまいちだったと思うのですが、
「学校の先生たちが想いをお持ちなら、行きますよ!」
と先生はいつも快く講演や研修の依頼を受けてくださいました。

ちなみに先生と一緒に現場に行くと先生も私も現場の子どもたちやそこでの学びに集中してしまうため、今となっては後悔ですが、三宅先生が写った写真がほとんど手元にありません・・・。

三宅先生に学んだこと

三宅先生には本当にたくさんのことを学びました。

私は授業やCoREFのプロジェクトとは別に、
3ヶ月に一度くらい、ふらっと研究室に顔を出しては先生といろんなお話をさせてもらってました。
私にはその時間に味わう知的な感動や興奮が何より幸せでした。

最初は、私が教育に対して偏った考えを持っていることに気付かされました。

「人間はみな、自分で学ぶ力をもっていて、少しでも今より賢くなることができる」

「ジグソー法をいきなり導入できないことはない。事前にやり方を学んだり、段階を積まなくても、子どもたちはやってのけますよ」

「黙っている子も考えてないわけではない、話す子だけ、書く子だけを評価してはいけない」

「子どもたちの成長は階段式ではない。今の段階的な発達説が正しいとは言えないことがある」

とにかく先生は人が学ぶ力をまっすぐ信じられていました。
そして、その力を阻害してしまう行為を、時に厳しい言葉をもって否定されることもありました。

私がある学校の研究授業(一般の先生が自分のクラスで行うもの)で生徒がどう進めて良いかわからず困っているのを見て、いてもたってもいられず、1つのグループに介入してしまったことがありました。
(介入と言っても、少し声掛けをしてファシリテーションした程度ですが)
その時は、いつもやさしい先生にきつく怒られてしまいました。

「あの子達はあの状況から自分で学ぶ力を持っています。その機会を簡単に奪い取ってはいけません」

はっとさせられました。
もちろんもっとスムーズに展開できる授業案もあったでしょうが、そうでないからと言って子どもたちが学べないわけではない。自分で必死に考えようとしている子どもたちの学びを、不用意なやさしさで阻害してしまったと、ひどく反省しました。

他にも研究者として一番印象に残っているのは自分がアクションリサーチの難しさ(アカデミックな論文にすることの難しさ)に
悩んでいた時にいただいた言葉です。

「研究できることを研究するのではなくて
 あなたが研究したいことを研究にしたら良いのですよ」

先生自身が若手研究者時代に同様の悩みをお持ちになった時、当時の指導教官から言われた言葉とのこと。
まずは、自分の意志や、研究する意味が先にあるのであり、研究のディシプリンを前提に考えてはいけない。私の研究者としての原点になった言葉です。
常に、現場や実践とつながっていた先生の研究スタイルは、実践志向の強い若手教育研究者のまさにお手本でした。

今のLife is Tech!の仕事に満足しているのも先生のおかげです。
先生と話をしていて私が特に実現したいと思った学びは
・21世紀型の前向き学び(Forward Learning)
・べライターの提唱した知識構築(Knowledge Building)
・何よりも三宅先生が大事にされた建設的相互作用

を満たしている学びです。3つとも先生から学びました。

私自身は教育事業の内容にこだわりが強いのですが、
Life is Tech!ではこの3つを高いレベルで実現できていると感じています。
私が確信を持ってLife is Tech!にフルコミットできるのは、
どんな学びを実現する意味があるのかを先生から学んだからです。

子育てだってそうです。
自分の娘の学びを考えるときには、常に三宅先生から学んだことを意識しています。

「子どもの学びに大人が低い天井をつけてはいけない」
「学びを引き出す問いかけ、問い立てはなにか」
「子どもは大人の考えを超えて学んでいきます」


子育てはわからないことだらけで暗中模索ですが、
その中で頼りにしている揺るぎない光は、先生から学んだことです。

三宅先生との対話を通じて、私は「学ぶ」という言葉の意味を拡張してもらいました。

・学ぶ=最初に決めた目的(知識・スキル)を習得していくこと
くらいに元々は考えていたのですが、

・学ぶ=新しい物事を習得し、新しい物事を創造すること

くらいに今は考えています。
ここまで来ると「学ぶ≒生きる」なのです。
教育や学習の意義を大きく捉えられるようになったことは、私の人生を変えたといっても過言ではありません。

三宅先生のことをもっと知ってほしい

三宅先生は病を抱えつつも、最後の最後まで、世界、そして日本中を飛び回られていました。時には、携帯型の点滴で薬を入れられながらお仕事をされていました。

先生は、1980年代(私の生まれる前)から多くの学術的な貢献をされ、最近では埼玉県や全国の30以上の市町村と連携した協調学習の実践的取り組みでも日本中に大きなインパクトを残されました。
そして、最期まで、子どもたち・先生・学校・教委etc、教育・学習に関わる全ての人たちのために研究活動を続けられました。
何より、いつも笑顔で快く誰とでも分け隔てなく接する先生は、
心から尊敬できる、素敵な方でした。私の一生の師です。

そんな三宅先生の理論や実践を多くの人に知ってほしい。それが今の私の願いです。
教育や学習は誰でも経験があるために語りえますが、少なくとも21世紀型の「質」の違う学びを実現している人は、相当少ないと感じています。
昨今のEdTechブームやICT機器導入ブームの中でも、新しい学びに対する観点は圧倒的に欠如しています。
また、中教審諮問にも明記されたようにActive Learningの必要性が説かれる中で、見かけだけActiveでも、学びがない取り組みが氾濫する危惧も感じています。

先生のお考えを私なりにまとめていく時間をとっていきたいですが、今日はまず以下の参考書籍やページをあげておきたいと思います。
先生の考えの一端を、教育や学習に関わる全ての人に知ってほしいです。

三宅先生の考えを知ることができる著作や記事

■著作
三宅なほみ・三宅芳雄 著
「教育心理学概論」放送大学教育振興会(2014,新訂版)
http://www.amazon.co.jp/dp/4595314647
先生と旦那様の三宅芳雄先生の共著。
個人的には「学習科学入門」として最高の1冊だと思っています。
具体的なエピソードが多く、とてもわかりやすくて、何より21世紀型の学びを実現したい人が学ぶべき内容が詰まってます。これまでの教育心理学に挫折してきた方にもお薦めの一冊。

三宅 なほみ、東京大学CoREF、河合塾 編・著
「協調学習とは: 対話を通して理解を深めるアクティブラーニング型授業」(2016,北大路書房)

https://www.amazon.co.jp/dp/4762829323
こちらも数少ない、三宅なほみ先生の著作です。先生が実践の中で用いられた「知識構成型ジグソー法」について詳しい解説があります。

また、先生の著作ではないですが、学びについて知る一冊として、 先生はこちらの本をいつも紹介されていました。
米国学術研究推進会議 著・編、ジョン・ブランスフォード、 アン・ブラウン、ロドニー・クッキング 著
「授業を変える―認知心理学のさらなる挑戦」北大路書房(2002)
http://www.amazon.co.jp/dp/4762822752

(2021.5.13追記)
先生の直系のお弟子さんである、白水先生と大島先生の最近の著作もオススメです。お二人については、本だけでなく、各種論文も大変参考になりますので、それも別途ご紹介できればと思います。
白水始 著
「対話力 ― 仲間との対話から学ぶ授業をデザインする!」東洋館出版社(2020)
https://www.amazon.co.jp/dp/4491036721

大島純・千代西尾祐司 編
「主体的・対話的で深い学びに導く 学習科学ハンドブック」北大路書房(2019)
https://www.amazon.co.jp/dp/4762830801

■web
東大CoREF HP

http://coref.u-tokyo.ac.jp/
先生が自治体と連携し取り組まれた協調学習PJTの全てが掲載されています。学校の先生向けには協調学習の授業案もたくさんあります。
特に、毎年の活動報告書は最高の教科書です。なんと無料で全部公開しています。
http://coref.u-tokyo.ac.jp/archives/11519
協調学習についての基本的な考えや、実践事例の紹介、協調学習による生徒たちの変化など、最先端のナレッジが詰まっています。

三宅なほみの研究物語
http://coref.u-tokyo.ac.jp/nmiyake/others/story/index.html
こちらもCoREFページ内ですが、
三宅なほみ先生の研究のルーツを知れる貴重なインタビューです。学習科学の様々な考えを知る入門にも最適です。

研究者の仕事術(三宅なほみ先生)
「あなたの理論は、現場の役に立ちますか?」
http://amphibia.jp/archives/160
先生の研究者としての経験・考えの変遷をまとめた、素晴らしいインタビュー記事です。
研究者としての葛藤、理論を現場につなげるに至った経緯など、
研究者は必読の内容です。

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おわりに

先生にはいろんなことを学びすぎて、書き出すとキリがありません。立ち止まって、先生のことをずっと考えてしまいそうになりますが、

「あなたは自分で学ぶ力を持っているんだから、自分で、自由に進んでいきなさい ^ ^」

と先生から言われそうな気がします。

三宅先生、先生との時間は最高に幸せな時間でした。
本当に、本当に、ありがとうございました。
そして、おつかれさまでした。ゆっくりお休みください。

一生の感謝を込めて

讃井康智

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