まるお食文化エッセイ『玉子が好きすぎて困る』
今回は私の玉子愛について項目別に整理して書いてみる。玉子愛について書く前に『たまご』は果たして『卵』なのか『玉子』なのか?私の考えでは『卵』は絶対的に生卵であり、『玉子』は生でもいいけど基本的には加工してあるものという認識である。なぜこんなに曖昧かと言えば、生卵を使う『卵かけご飯』は『玉子かけご飯』のほうが美味しそうだからである。しかしながら、すき焼き屋で「たまご追加お願いします!」は、『卵』ではなく、『玉子』でもなく、ひらがなの『たまご』の方が愛が感じられる。余計にわからんかも。いずれにしろ、文中には『卵』『玉子』『たまご』が私の感覚で乱れ飛ぶのでお許し頂きたい。さておき、初めにカップ麺の話からしよう。卵好きならカップ麺には当然卵を入れるが、卵の入れ方が間違っている人がいるので私がコツを伝授する。
<カップ麺への生卵の入れ方>
卵は大きいものは熱が通りにくいので、小さめを1個選ぶ。冷蔵庫に保管してある場合は、予め卵を常温に戻しておく。冷たいとスープが冷めるからね。ティーカップなどの小さい器に卵を割り入れておき、カップ麺の蓋を開け。そろりと入れる。直接カップに卵を割り入れると、こぼしたり黄身が破れたりして、残念な結果になりかねないから。卵を入れたら、まずは白身の部分に100℃の熱湯をゆっくり少しずつかける。黄身の上にお湯をかけてはいけない。黄身が破れる恐れがある。どうしても黄身にかけたいのなら、点滴のように少しずつかける。蓋をして蓋の上に皿などをのせて熱が逃げないように保温する。時間が立ったら開けて、黄身を崩さないように麺を天地返しして混ぜる。食べ方は、初め白身と麺をからませて、白身に熱を通しながら白身の爽やか感を満喫する。最初に黄身を崩すとスープが濁るし、白身を単独で堪能できない。麺が残り三分の一になったら黄身を崩し麺と絡める。わかった?では今日からやってみよう。次にすき焼きの食べ方である。
<すき焼き/焼き肉の食べ方>
まず白身と黄身を分ける。白身だけを泡立ててメレンゲにし器に入れ、その上に黄身をのせる。食べる直前に軽くかきまぜて肉をつけて食べる。もの凄く上品な味わいになり、安い肉が高級に感じられる……ということはない。焼き肉も卵が不可欠である。焼いた肉をタレにつけて、さらに溶き卵をつけて食べる。焼肉屋では変人扱いされるので出来ないが、家でやってもやっぱり白い目で見られる。
<玉子を使った丼>
玉子を使った丼でまず最初にあげられるのが、玉子丼と親子丼である。しかし、私はどちらも嫌いである。玉子丼は玉ねぎだけの甘さが目立ち味が単調である。親子丼は大抵鶏肉の質が悪く不味いし、上質な鶏肉を使用していても、あの親子丼だけにみられるヌメッとした鶏肉の食感がどうしても我慢できない。あれは親子で調理された鶏の恨みなのではないか?私の玉子丼の作り方こうである。フライパンでハムエッグかベーコンエッグを作り、仕上げにめんつゆをフライパンに流し入れてひと煮立ちさせて、それをご飯にに乗せて食べる。これは名付けて『ハムエッグ丼(ベーコンエッグ丼)』という。そのまんまやんけ。
ご当地グルメの中で玉子を使用したB級グルメ丼といえば愛媛県の今治市の『焼豚玉子飯(やきぶたたまごめし)』で、玉子を使用した丼の中では他の追従を許さない。これはビジュアル的にも玉子を愛する者にとって魅惑的だし、実際に今治で食べたが超美味い。ご飯の上に薄く切った焼豚(または煮豚)をのせて、さらに半熟の目玉焼き(通常2個)をのせてから焼豚のタレをかけた料理である。今治に行かなくても家でもできる。
<赤味噌と玉子>
赤味噌と玉子の相性を愛する感性は、名古屋人のDNAに深く組み込まれている。小さい頃からおでんに味噌ダレををかけて食べてはいたが、味噌で煮込んだおでんは40歳代になってから初めて出会った。伏見の『島正』や円頓寺の『五條』などで食べたときはそりゃもう感動した。味噌おでんには玉子が必須で、玉子のない味噌おでんは味噌おでんではない。当然味噌カツ丼にも玉子は必要だ。温泉卵や半熟味噌煮卵がついていることが多い。さらに、味噌煮込みうどんの玉子は、最後の締めとして、ご飯に玉子と味噌をかけて食べる。玉子は赤味噌の濃さを和らげる効果もあるが、そんなテクニカルなことではなく、ただただ名古屋人の琴線に触れるものである。
<カレーと生卵>
普段カレーに生卵をわざわざ入れたりしないのだが、最初から生卵がトッピングされているカレーは大好きだ。その店の卵に対するパッションを感じる。例えば大阪の『自由軒』の『名物カレー』は有名だし、名古屋なら栄の『ら~麺や』の『カツカレー飯』は玉子好きの心を揺さぶる。
<焼き鳥>
焼き鳥屋で卵といえば『月見つくね』である。ある店で、月見つくねの生卵が入ったタレが美味かったのでつくね以外の色々なものにつけようと「有料でいいので、タレだけお代わりください」と3回ほどお代わりしたら「タレだけ注文されても困る」と、店の主人に怒られた。店主は知り合いの友人だし、料理も沢山注文しているし、タレを有料で注文しているんだからそんなに怒らなくてもいいのに……しかも3回は出してくれたくせに!その後すぐにその店はなくなってしまった。ざまあみろなんて決して思っていないが、予想はしていた。
焼き鳥屋でうずら串というのがある。うずらの卵を茹でて殻を剥き串に刺して焼いたものだ。しかし、うずら串の一番美味いのは『室蘭焼き』である。生のうずら卵を殻のまま串に挿して、塩を振りそのまま焼いて(タレで焼く場合もある)、殻ごと食べるのがうまい。殻がジャリジャリいいそう……と思いきや、全くそんなことはなく、目からウロコの美味しさなので一度お試しあれ。
<ホテルでの朝食>
浅草雷門の前に『ザ・ゲートホテル雷門』というホテルがある。ここの朝食が評判で、エッグベネディクトが超美味い。エッグベネディクトとはポーチドエッグにオランデーズソースをかけたもので、2013年に放映されたドラマ『シェアハウスの恋人』で、谷原章介が「朝はエッグベネディクトしか食べない」と言っていたのを見て、私は初めてその存在を知った。
私が、これから流行るといいなあと思っているのが『エッグスラット』である。エッグスラットとは、ロサンゼルスで流行っている卵料理で、ガラス瓶の中にポテトのピュレと卵を入れて湯煎したものである。半熟卵とポテトを瓶の中でかき混ぜ、「クロスティーニ(トースト)」にのせて食べる。どうだろう?ホテルの方。朝食のメニューに加えてみては?
<オムライスは嫌い>
実はあまりオムライスは好きではない。大抵のオムライスは、ケチャップやデミグラスの風味が強すぎるのと玉子が少なすぎる。だが、今は無き『勝利亭』のオムライスはそこそこ美味かった。この店のケチャップは、カゴメケチャップの味の元になったといわれているだけあって美味い。オムライスのほかに、この店には卵を使った絶滅危惧洋食があった。東海地方にだけ見られる『ミヤビヤ』という料理で、勝利亭が閉店した現在は、3店舗でしか食べることができない。『享楽亭(愛知県武豊町)』『あじろ亭(岐阜市)』『中津軒(津市)』のみである。尚、中津軒は『メアベア』という名前で提供している。ミヤビアは鶏肉と玉ねぎを炒め、トマトケチャップとデミグラスソースで味付けして盛りつけ、真ん中に生卵を落としてオーブンなどに入れ、卵を半熟にさせたものである。これは勝利亭の名物料理であったが、私としてはメンチカツが一番美味かった。
<どっちの玉子サンドが好き?>
玉子サンドには関東風と関西風がある。関東風はゆで卵をつぶしてマヨネーズで和えてパンに挟む。関西風は出汁巻や厚焼き玉子が挟んである。私はどちらも食べるが、どちらが好きかといえば関東風である。ただし関東風の玉子サンドはなぜかすぐにお腹がゆるくなる。関西風の出汁巻サンドは、柳橋の玉子屋が販売していたからよく食べたし、名古屋駅でも見かけて時々呑み鉄用に買うが、パンと出汁ってそれほど相性がいいとは思えない。普通のちょっと甘い玉子焼きならいいかも。そういえば居酒屋などで、作りたてのアツアツの出汁巻を出すところがあるが、出汁巻は本来冷めてからが味が染みて美味くなるので、温かいのは不味いから私は注文しない。
<麺類と卵>
昔はラーメンに生卵を入れるのは好きではなかった。白身がドロドロするし、黄身を崩すとスープが濁るし、何より労働者の食べ方のようで、いいとこの坊っちゃんの私には受け入れ難かった。しかし、徳島ラーメンの生卵は好きだ。あれはラーメンではない。すき焼きラーメン定食である。黄身を少しだけ崩して、そこに肉をつけて食うのが美味い。かつて錦三丁目に徳島ラーメンの店があったがなくなってしまい残念に思っている。
今池にある讃岐うどんの『麦福』では、必ず『半熟玉子天』をどんなメニューにもトッピングしてしまう。あの外側がカリッとしていて、中から絶妙にとろ~りと黄身が出てきて……、玉子好きにはたまらないのである。また、焼きそばに目玉焼きをのせるのは当たり前である。私は家では焼きそばを溶き卵に漬け、すき焼きのように食うので、またもや家族から白い目で見られている。
<目玉焼きの魅力>
目玉焼きに関する詳しい蘊蓄は拙書『名誉唎酒師のばかやろう!』の『sake16.朝食と酒と玉子愛』に書いてあるから是非読んでもらいたい。目玉焼きの作り方には派閥が有り、片面だけ焼く派と、ひっくり返して両面焼く派など、皆独自の流派を持っている。また食べ方も様々で、作家の森茉莉は、いきなりスプーンで黄身だけを慎重にくり抜いて、醤油を少量かけて食べるという。さすがに森鴎外の娘であってブルジョワな食べ方だ。残った白身はどうするのか大変気になる。
四日市に老舗の洋食店『金鯱山』がある。ここには『ビーフエッグ』という凶暴な目玉焼きがあるのだ。牛肉を軽く焼いてデミグラスソースと合わせ、両目の目玉焼きをのせる。高級な牛ステーキと大衆的な目玉焼きのマリアージュは、まるで王子様に見初められたシンデレラのようであった。
私が朝食で食べる目玉焼きを紹介する。ベーコンかハムをフライパンに敷いて卵を2-3個落とし。マヨネーズとケチャップととろけるチーズをかけてフライパンに蓋をする、白身が全て白くなったら黄身を軽く潰して半分にたたみ、トーストの上にのせて、ナイフとフォークで食べる。トロトロの黄身とチーズがパンにとても良く合う。名付けて『簡単フランセジーニャ』である。フランセジーニャとは、ポルトガルのポルトで生まれた名物料理で 『フランスの女の子』という意味。食パンでハムなど好きな具材を挟んでサンドイッチをを作り、その上からとろけるチーズをどっさりかけ、更にその上に半熟目玉焼きをのせた料理である。ご想像どおり『簡単フランセジーニャ』はかなり太るから注意したほうが良い。夜、ワインやウイスキーのつまみにするときは『ソース目玉焼き』が良い。これはもう30年以上も前に死んだ祖父が、私が小学生の時に時々作ってくれたもので、私も時々作ってみるのだが、なぜか未だに同じ味に作れないでいる。
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