「契約情報の全社活用が事業成長につながる」Sansanがリーガルテックに挑む理由
2022年1月にリリースした、契約DXサービス「Contract One」。急成長中のインボイス管理サービス「Bill One」に次ぐプロダクトとして、Sansanが注力しているサービスです。
リーガルテック領域のサービスが多数誕生しているなか、「出会いからイノベーションを生み出す」をミッションに掲げるSansanが「契約DX」に踏み込んだのはなぜなのか。事業責任者である西村に、その背景と想いを聞きました。
すべてのサービスはミッションの実現につながっている
ーContract Oneの提供を決めた背景を教えてください。
「請求書管理のBill Oneがあるから、その応用編で契約書管理も始めた」と言われることもありますが、実際はそうではありません。私たちは「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションをとても大切にしていて、Contract Oneも含めたすべてのサービスは、このミッションの実現のために存在しています。
私は、Sansanに入社する以前からさまざまなプロジェクトのマネジメントに従事してきました。そのなかで、ビジネスとは一社完結で実現できるものはほとんどなく、企業同士の出会い・繋がりによって成り立っているのだと実感してきました。まさにSansanのミッションの重要性を体験してきたわけです。
出会いをいかに生み出し大切に育て、活用できるか。それがビジネスの肝です。そして、契約書は企業と企業の出会いの証であり、契約書が起点となってビジネスが動き始めます。一般の社員でも、金額や重要性の大小はあったとしても、日々契約書に触れたり過去に誰かが締結した契約書を基に仕事をしたりしているはずです。
しかし実際には、日常的に契約書の重要性を意識しながら仕事をしている人は多くないように思います。トラブルがあったときに大慌てで過去の契約書を読み返したりするくらいしか活用されていません。
出会いの証である契約書こそ、もっと活用できる方法があるのではないか。そう感じて開発したのがContract Oneです。
Sansanだから提供できる「ビジネスを強くする」契約DXサービス
ー リーガルテックサービスは既に多く存在します。法律の専門家が集まる会社でないSansanが提供できる価値とは何でしょうか?
Sansanでしか提供できない価値とは、Contract Oneのタグラインとして掲げている「契約データベースが、ビジネスを強くする」という言葉に詰まっています。
Contract Oneで法務部門の業務改善にとどまらない価値を提供したい、そんな決意がこの言葉に込められています。
先ほどもお話ししましたが、法務部門だけではなく、営業など現場の人たちが契約業務を活用することで、もっとビジネスを成長させることができると考えています。
そのために、Contract Oneでは契約業務の一元管理にこだわっています。Contract Oneを活用することで、過去から現在までに締結されたすべての契約書を正確にデータ化し、キャビネットの中の紙の契約書はもちろん、異なる電子契約ツールで締結された電子契約書まで、各部署でバラバラに保存されてきた契約書を全社で一元管理することができます。
そして、契約業務を一元管理するデータベースを、会社の財産として全社員が活用できるような機能を開発しています。これは、名刺のように、全社で管理するからこそ利便性が増すようなサービスを提供してきたSansanだから実現できることです。
実際にContract Oneは、法務的な知識がなくとも活用しやすいようにUIにこだわっていますし、ユーザー企業の従業員であれば追加費用なしでIDを発行できるサービスにしています。
GPTを活用した「Contract One AI」の提供も始めています。法務担当者に限らず誰もが早く契約書を検索したり、要約できる機能などをアップデートをしていく予定です。
弊社の主要サービスの一つであるSansanとの連携も、全社での活用を促すための取り組みの一つです。自分の業務へのメリットがないと、なかなか継続的に活用してもらえません。Sansanと連携することで、営業担当者をはじめ、ビジネスパーソンの日常の営みに契約業務があたりまえに存在し、活用できる状態を作っていきたいと考えています。
サービス価値を実感した大手配給会社経営層の言葉
ー 契約DXを掲げながら、法務ではなくビジネスに向き合うことを市場に受け入れてもらえるだろうか、といった不安は無かったのでしょうか?
新しい価値を創造し提供するという点では、かつて名刺管理という市場がなかった時代にSansanを立ち上げたこととよく似た状況だと思っています。既に課題が明確で、解決したいと誰もが思っているサービスと異なり、「なくても成立しているけどあればもっと良くなる」というサービスの価値を理解してもらうことはなかなか難しい。
これはSansanやBill Oneなどが通ってきた道でもあります。もちろん今でも日々試行錯誤中で、不安になることもあります。そういうときに思い出すのが、Contract Oneの導入を進めていただいている大手映画配給会社の役員の方の言葉です。
映像コンテンツというのは、原作者から企画、製作、配給さらにはグッズ販売など、一つのプロジェクトでもさまざまな企業や個人が連携しているため、契約業務がとても多岐に渡るのだそうです。シーズン1、シーズン2とも続けば、担当者が変わったりして契約管理がとても煩雑になる。そのため、プロジェクトが始まると、著作権が絡んだトラブルが後を立たないとおっしゃっていました。
「現場の人たちは期限内に良いコンテンツを作ろうとがんばるので、契約期限の確認や、著作権の所在を毎回確認する余裕がないしその習慣もない。直感でやってしまってる部分も多いんです。私たちも良いものを作ろうとしているのを止めるわけにいかないし、ゆっくり作ろうとも言えない。そのリスクの部分をContract Oneが監視してくれて、現場でもすぐに確認できるのは本当にありがたい」
この言葉をいただいて、間違いなく世の中に求められているサービスを作っているのだと実感でき、本当に嬉しかったです。
目指すのは営業が当たり前に契約を活用している世界
ー 最後に西村さんの今後の目標を教えてください。
Contract Oneを世の中に広めることで、ビジネスパーソンと契約の距離を縮めるとともに、法務部門の地位を高めていきたいと考えています。
私は以前、Sansanのユーザー利便性を高めるために、外部システムをSansanに連携させるプロジェクトに従事していました。その外部システムは、世界中のビジネスシーンで活用されているものだったので、連携が実現するとユーザーに新たな価値を提供できるだけでなく、サービスの可能性を大きく広げることができると思っていました。
とても重要な局面だったこともあり、営業や開発、マーケティングに至るまで、一丸となって取り組んでいました。しかし、実装直前になって、外部システムの運営会社との契約内容に不備があることが判明したのです。他事業部の契約状況を確認していなかったために、とても不利な条件で契約を締結してしまうところだったのを、経営層が気がついてくれたのです。締結前に気がついたのは幸いでしたが、契約交渉をまた1から始めることとなってしまったため、サービスの公開が大幅に遅れてしまいました。
たくさんの仲間に迷惑をかけてしまったことで、ビジネスにおける契約の重要性を痛感しました。現場も含めて、契約の重要性を理解し能動的に活用することは、企業が良い製品・サービスをスピード感をもって生み出していくために不可欠であると考えさせられた一件でした。
こういった失敗経験も含めて、これまで数多くのプロダクトに向き合ってきたからこそ、ビジネスにおける契約書の可能性に気が付いたと思いますし、事業に向き合う現場の人たちのニーズも理解できる部分があります。法律の専門家ではない私だからこそ、Contract Oneの事業責任者として提供できる価値、伝えられることは絶対にあると信じて、今後も顧客とサービスに真摯に向き合っていきたいです。