時をかけないタイプの少女
わたしはどうやら、ケガをしたらしい。
それもただのケガじゃなくて、大ケガらしい。
レントゲンでスケスケにされ、MRIで輪切りにされて分かったんだけど、背骨は折れていて、膝は靭帯が切れているらしい。
あぁ、そうか。
だからあんなに。
そのことを人に伝えると、わたしよりびっくりして、わたしよりわたしの体を心配してくれていた。
あぁ、そんなに大きなケガなのか。
晴れた日だった。
わたしは先のことを考えるのが少し苦手で、自分の可能性を信じやすいタイプだった。
ちょっと高いところから飛び降りるくらいなんともないだろうと思って、
ちょっとだけショートカットをするつもりで、
橋の上から飛び降りた。
着地した瞬間、木の枝を踏んづけて折れてしまった時に鳴るような音がした。
立てないくらいの背中の激痛で、それが、自分の背骨の音だと初めて気がついた。
人間の骨ってこんな軽い音で折れるんだ。
5月ともなると地面にはたくさん虫がいたけどそんなこと気にならないくらい痛かったから、その場に寝転んで痛みがおさまるのを待つことにした。
その時の空の青さは一生忘れないと思う。
気持ち悪いくらい気持ち良い青空だったことを、全然おさまらない背中の痛みに戸惑う気持ちより強くおぼえている。
ショートカットのつもりがとんだ大回りになってしまった。
日常生活がこんなに大変だと思ったことはなかった。
ちょっと動くだけでも痛い。
だから起き上がるのが嫌だ。
当たり前にできていたことができなくなった。
折れているという背骨のどこに力を入れていいかわからない。
ちょっとでも体重をかけたら崩れてしまいそうな膝が怖い。
腕の力に頼るようになった。
力の入れすぎで震えている腕が必死でしがみついていたのは、周りにいてくれてる人たちの肩だったり、手だったりした。
その肩は、その手は、
生まれたての子鹿の方がまだましだと思えるほど生物レベルが下がった私をかろうじて人間の生活に繋ぎ止めてくれた。
怪我をしてからというもの、
救急車を呼んでくれたり、
病院に迎えに来てくれたり、
丸一日休みを潰して病院に付き合ってくれたり、
ご飯を作ってくれたり、
歩けない私を介抱してくれたり、
誰かの力を借りてばかりだ。
一人で何もできないことの不甲斐なさの先に、誰かが必ず私を助けてくれている事実があり、
私は生かされてるということに気がついた。
少女には2種類のタイプが存在する。
時をかけるタイプの少女と
時をかけないタイプの少女だ。
私は後者だった。
世界のどこかで高い所からジャンプすることで、時間をもジャンプして過去の後悔をやり直す有名な某少女がいると思えば
高い所からジャンプしたことで、時間をジャンプすることができればと自分の行いで後悔を増やす私がいて。
でも後悔はしたけど、おかげで気づいたことがある。
助けてくれる人がいる。
心配してくれて治った時に遊びたい人がいる。
絶対に早く治したいと思えるほどの楽しみが待ってる。
元気になって恩返ししたい人がいる。
もし人生が嫌になったら死なない程度のところから落ちてみるといいかもしれない。
どれだけ人に助けられているかがわかるから。
もし自分になんの価値もないと思うんだったら3メートルくらいの高さから落ちてみるといい。
普通に歩けて生活しているだけで、すごいから。
でも、
ちゃんと痛いし周りの人がすごく心配するから、おすすめはしないかな。
人間は結構脆いことを知り、
アニメのヒロインみたいな特殊能力がないことを知ったわたしは、
怪我が治ったら柔軟さと強さを鍛えることにした。
もしかしたら、今回の方法がダメだっただけで違う方法で時をかけるタイプかもしれないから、そうなった時のために、準備しておかないと。
もしかしたらは大抵の場合、
もしかしないことが多いけど、
やってみなくちゃわからないことがこの世界にはたくさんあるし、
やってみちゃった経験から成長していく私だと思うんだよね。
⚠️心配かけるようなことはもうしません。
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