「エッセイ」ポケットの中
幼い頃の私のポケットには、綺麗な色のビー玉や飴玉、お祖母ちゃんが作ってくれたお手玉、色とりどりのあやとりの糸、むき出しのティッシュ、お気に入りの貝殻、シャボン玉のセット、ちっちゃなチョコレート……
沢山の夢や希望や可能性が、パンパンに詰め込まれていた。
大人になった私のポケットの中には、片方だけになったピアスや糸くずくらいしか入っていない。
大人になるにつれて夢や希望や可能性は、小さく萎んで狭くなって薄くなった。
でも寒い日には、両手をポケットの中に突っ込んで暖をとれる。空っぽだから、すっぽりと私の両手はポケットに収まる。空っぽだからホッカイロも入れられる。
それでいいんだな
と澄みきった青空を見上げる。
私のポケットの中には、失意や絶望や悲しみが抱えきれないほど詰まった時もあったじゃない。今は、時という薬が私のポケットを軽くしてくれた。
ポケットが軽くなった分、身軽になったから行動範囲も広がった。
一人で電車やバスやタクシーにも乗れる。
自動車も自分で運転出来る。
もう片方のピアスが出て来なくても平気。
空っぽのポケットにスマホだけを突っ込んで、今日も歩いていこう。
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