嘱託産業医の探し方
事例
人事の朝倉も他の長時間労働者に漏れず、残業が続いたある日の夜9時。オフィスで勤怠管理業務を行っていたところ、スマホの画面に以前一緒に働いたことがある田中からの着信があった
朝倉「お、田中、久しぶりだな! どうしたこんな夜遅くに電話なんて珍しいじゃないか」
田中「朝倉こそ元気でやってるか? 実はな、産業医のことで相談があって電話したんだ。朝倉の会社、最近産業医をお願いするようにしたって風の噂で聞いたよ。うちの会社も実は来月には従業員50人を超えそうで産業医を探さなきゃいけないんだ、たしか嘱託産業医とかいうやつ」
朝倉「田中の会社、成長したな〜!さすがだ。そうなんだよ、従業員50人を超えると産業医を選任しなきゃならないし、労働基準監督署へも届け出を出さないといけないんだ。結構大変だぞ。産業医探すのって」
田中「まじか。ネットで “産業医 探す” って検索すると紹介会社とかいろんな記事が出てきて、正直どれを選んだら良いかわかんないし、どんな産業医がいいのかもわからない。朝倉はどうやって探して今の産業医にお願いすることにしたんだ?」
朝倉「実は8月の労働基準監督署の立ち入りで産業医を選任するようにと指導されてな、それからネットで紹介会社に依頼して、今は月一回来社してもらうことになったんだ」
田中「やっぱ紹介会社か、、、一つ良さそうな紹介会社のサイトから資料請求してみたんだけどな、費用高くないか?」
朝倉「まあ、そうなんだよな。紹介料とか毎月の契約料は決して安くないんだよ。そうは言っても一本釣りで産業医を探すコネもないし、そもそもどの基準で産業医を選んで良いかわからないから、その分の費用と時間を考えて紹介会社に頼んで今の先生にきてもらっているよ」
田中「だよな。ちょっとコストがかかるけどやっぱり紹介会社に頼んでみるか、、、朝倉のところの先生どうだ?いい先生?」
朝倉「うちも初めての産業医だから何を頼んでいいのか、どうしていいか迷いながらやっているし、産業医の先生も不慣れな会社の状況にちょっと戸惑っている感じだけど、なんとか頑張ってやってくれているよ」
田中「いいなー。朝倉のところの先生、うちの会社に紹介してくれないないか?余裕ありそう?」
朝倉「どうなんだろう。今月また来社するからそれとなく聞いてみるよ」
田中「おう!ありがとな。朝倉も働きすぎるなよ」
朝倉「田中もな!じゃあまた連絡するよ」
<この記事の事例はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。>
事例の解説
今回の事例は産業医を初めて選任することになった企業の悩みについて現実にありそうな場面をご紹介しました。この記事を読まれている人事の方々も産業医を選ぶことに悩んだ時期があったのではないでしょうか?産業医を初めて選ぶための知っておいた方が良いポイントの一部をご紹介したいと思います。
(1)産業医の選任基準
基本的なところですが、産業医の選任基準をについてその基準とその要求される人数をステップごとに簡単に分けてみました。
ステップ① 事業所の労働者数が50人〜1000人 ・・・1名選任(嘱託産業医)
ステップ② 事業所の労働者数が1001人以上 ・・・1名選任(専属産業医)
ステップ③ 事業所の 労働者数が3001人以上 ・・・2名以上選任
また、特定の業務に常時500人以上の労働者を従事させる場合も専属産業医1名を選任する必要があります。
“特定の業務”の内容ですが、深夜業や有害業務がそれに該当します。詳細については厚生労働省のサイト(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/6.html)をご参照ください。労働者が多くなるほど安全や衛生について扱う事項、解決しなければならない問題も増えます。働くことで健康を害することがないよう未然防止を行うためにもしっかりと産業医を選ぶ必要があります。
(2)嘱託産業医と専属産業医
嘱託産業医も専属産業医も行う業務については大きな違いはありません。嘱託産業医は産業医資格を持つ医師が月1回から数回、毎回数時間程度の訪問で活動することを言います。一方で専属産業医は事業場と契約ないし雇用されている産業医が専らその事業場での産業医業務を行い、他の事業場での産業医を基本的には兼任することがない場合を指します。
(3)産業医の探し方
産業医を探すための代表的な方法をご紹介します。それぞれのメリット、デメリットがありますから、事業所の事情に合わせて検討されるのが良いでしょう。
①産業医紹介会社
ご存知かもしれませんが、多数の産業医紹介会社が存在します。紹介会社のメリットは希望に合わせて登録している産業医の選定を一任できる点にあります。一方で、紹介会社によって紹介できる産業医の量と質に差がある可能性があります(例えば製造業の経験豊富な産業医、外資系企業での経験がある産業医の紹介に長けているか・・・など)。そしてその費用にも大きな違いがあります。事業場が求める産業医の条件が厳しくなるほど、費用も高くなる可能性があります。自社が希望する産業医の質やコミュニケーション能力などを明確にした上で、複数の紹介会社に資料を請求し比較検討していただくのが良いでしょう。
②産業医科大学
産業医の育成を主な目的としている産業医科大学では産業医の紹介や相談を行なっております(リンク)。また今回の嘱託産業医とは異なりますが同じ産業医科大学のラマティーサイト(リンク)では専属産業医の紹介を行っています。産業医科大学の強いネットワークから産業医を専門とする経験豊富な医師を紹介いただける可能性があります。
③市町村区医師会
各地域には医師会が存在し、医師会が産業医の紹介や斡旋を行なっている場合があります(リンク)。医師会には主にクリニックや病院で勤務されている先生が所属されており、その広いネットワークの強みがあります。また、紹介会社に比べて費用を抑えることができる可能性があります。基本的に医師会に所属し産業医資格を持っている医師の紹介となるため、日常診療の合間の訪問となることも少なくなく、まとまった時間での訪問を希望される場合には事前によく協議してから契約されることをお勧めします。
④産業保健総合支援センター
各都道府県には産業保健総合支援センターがあります。産業医の紹介を主に行なっている機関ではありませんが、産業医を探す支援を得られる場合があります。なお、名前が似ている機関として地域産業保健センターがありますが、こちらでは労働者が50人以下の事業所における悩み、相談についてセンターに所属している産業医や保健師からの支援を得ることができます。
⑤自力で産業医を探す
近隣の産業医事務所に直接問い合わせたり、知り合いの経営者や医療関係者などから紹介を受けるパターンです。
紹介料や中間マージンを考えますとおそらく最も企業側のコストが少なく産業医契約に至る可能性があります。また産業医と契約内容について直接協議できますので、臨時の訪問やリモート面談の可否などについても細かな協議が可能です。しかしながら、独立で産業医事務所を経営しているような産業医を除き、産業医と直接コンタクトすることは難しく、また事前情報がない中で産業医の力量を知ることも難しいことがあります。したがって、今回の事例のように、同じ業界での人的コネクションを活用して産業医を紹介してもらうことや、他の事業場の産業医から実務に長けている産業医を紹介してもらうなどが良いでしょう。
(4)産業医契約の方法
最後に産業医契約について簡単にお話しします。労働安全衛生法での産業医の選任(嘱託、専属いずれも)義務と、産業医契約の方法には関連性はありませんので、事業所の雇用(有期・無期契約不問)としての産業医契約でも業務委託契約であっても可能です。前項(3)では①の場合、紹介会社経由での契約となり、直接契約とはなりません。②〜⑤の場合は、産業医との直接契約が基本となります。契約書の作成をどちらが行うかなども二者間で決めていきましょう。
はじめて産業医契約を行う企業の担当者からは、「まず何をしたらよいか分からない、どうやって探すのが良いか分からない、どんな医師なのか不安だ、費用は実際どのくらいかかるのか」という声を聞きます。今回ご紹介した内容を参考に産業医を見つけていただければ幸いです。
本記事担当:@hidenori_peaks
記事は、産業医のトリセツプロジェクトのメンバーで作成・チェックし公開しております。メンバーは以下の通りです。
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現役の人事担当者からもアドバイスをいただいております。