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教室の隅で一人になるための秘密兵器
「スクールカーストの最底辺から青春を歌いにきました。大阪のハンブレッダーズです。」
お馴染みのSEがなり止み、高らかにギターをかき鳴らしながら、ロックスターはそう叫ぶ。僕が愛してやまないバンド、ハンブレッダーズのライブはいつもこうやって始まる。来週、ついに彼らは日本武道館にてワンマンライブを開催する。どんな景色かは想像もつかないけれど、きっと走馬灯に出てくるような夜に違いない。それまでに、ハンブレッターズの出会いについて振り返ってみようと思った。
ライブがいちばん盛り上がるバンド、いちばん命を削っているバンド、いちばん優しいバンド...
かっこよくて大好きなバンドはたくさんいるけれど、ハンブレッダーズだけは、僕にとって替えがきかない、唯一無二のバイブルだ。ハンブレがいなかったら、僕は今でもあの教室の隅に囚われたままだった。8ビートがこんなにも心を揺らすものだと知らなかったら、ライブハウスとかいう暗くて狭くて音がデカすぎる場所になんて足を踏み入れなかった。
そんなハンブレを教えてくれたのは高校の先生だ。「should have 過去分詞 を使って自由に英作文を作りなさい」という問いに、僕はこう答えた。
「Everyone should have listened RADWIMPS」
あの頃の僕にとって"音楽"とはRADWIMPSだけだった。一生RADしか聞かずに人生を終えると本気で思っていた。
なのに先生は「○○くんはバンドが好きなんだ?じゃあこれ聞いてみて欲しい!」と声をかけてきた。いや、RADしか聞いてない….そう言いかける前に
銀河高速/ハンブレッダーズ
と先生はノートにペンをはしらせた。これが、ロックバンドとの出会いだった。RADはロックじゃないとかそういう意味ではなくて、ギターを、ベースを、ドラムを意識して聞いたはじめての経験だった。心がビリビリした。ぼくの人生が、取り返しがつかなくなった。
高校を卒業して大学一年の夏、はじめてライブハウスに足を踏み入れた。そのバンドはハンブレではなかったけれど、ドラムのビートが自分の心臓の鼓動のように聞こえた。ライブハウスの爆音に慣れても、あの感覚だけはいつでも取り出せる場所にしまってある。ライブハウスのバーカウンターだけはまだ慣れないけど。
それから幾度となくライブハウスで爆音を浴びて、フェスに行って、ハンブレも何度も見た。
夜行バスで大阪に向かい、18歳最後の日にハンブレの15周年を祝った。その夜ネットカフェで今度は僕が19周年を迎え、誕生日に一日かけて青春18きっぷを握りしめながら帰路に着いた。人生初の一人旅は、一生忘れられない宝物になった。銀河高速の前にムツムロが吉野と交わした言葉は、絶対に僕に向けての言葉だった。DAY DREAM BEATを聴けばいつでも17歳に戻してやるなんてムツムロは言うけど、欲を言うなら18歳最後の夜に戻してほしい。大阪城ホールでの数時間はけっしてまやかしなんかじゃない。本当に素晴らしい夜だった。
けれどロックスターは、一番素晴らしい夜はまだ来ていないと言う。それは武道館なのか、それとももっと先の景色なのか、今はわからない。わからないなら確かめにいこう。ロックンロールは魔法なんかじゃないけど、なんだかちょびっとワクワクする。もっとはやく知っていればよかったな。
I should have listned to Humbreders sooner.
I should have listned to Rock and Roll sooner.