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『きれはし』/ ヒコロヒー | 超文章上手い人のエッセイ

笑えなくなる事態になり、笑えなくなる日がきて、笑うことでスベるみたいな瞬間がくるまで、いけるうちは、なるべく、抱くべき危機感を左手に、ユーモアを右手に持って、スピッツを聴いていたい。

『きれはし』P134

マジでヒコロヒーってすごい。
芸人としてのヒコロヒーは、正直トークサバイバーで面白かった人、CMに出てる人、くらいのことしか知らなかった。なんかこう、説明しづらいけど、一周回ってオシャレでしょ?みたいな人だと思ってた…でもこの本を手に取るということは、何かしら気になってたんだろうな。

気分転換に芸人の軽めのエッセイでも読むかと思って読み始めると、読んで数分で違和感に気づいた。この人文章うますぎない?

芸人に限らず作家やその他諸々の人たちのエッセイを読んでも、こんなに文章うまい人に出会ったことがない。

文章のうまさもだけど、そもそも話自体も面白い。

「コリドー」という話があって、タイトル通りコリドー街にナンパされに行く話。いい感じの人と出会うけど、ヒコロヒーはノリで自分は中国人と嘘をつき、ズルズルそのまま関係が続き、相手の好きなタイプが「嘘をつかない人」と知り落ち込む…みたいな話。面白い!

そもそもなんでこんなに文章がうまいと感じるのか?

芸人さんのエッセイによくある上手いと思うポイントは、例えのうまさだと思う。日常の些細な出来事でも面白く的確な例えが出てくるんで、読んでて面白いし、上手いな〜とは思うけど、ヒコロヒーの文章は例えのうまさもあるけど、それ以上の何かを感じる…なんだろう。

細かい部分でいうと、句読点の使い方。引用した文章もだけど、マジで上手いと思う。今まで本にそんなこと感じたことないけど。

あとは締めの文章のうまさ。
例えば「チェックリスト」という話がある。辛い日々の中で、ヒコロヒーは「これができたら芸人を辞めていいリスト」を作る。月日が経ち、努力の甲斐もあって、全てのチェックを入れ終わる。その後の文章が、

「私は幸運なことに、もうどんな希望さえ持っていない」

いやー痺れる。落とし方がカッコいい。
あぁ、なんかきっとこの人はそもそも人間としてカッコよくて、それが文章にあらわれてるのかも。この話に限らず、締めの文章を見返すとだいたいすごくいい終わり方をさせている。

舐めた感じで読み始めたけど、一気に全部読み終えた…女性読書が多そうだけど、性別関係なしに、本好き皆におすすめしたいエッセイだった。この本キッカケでやたらヒコロヒーのことが気になってきた…オススメです!

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