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『あの子が考えることは変』 / 本谷有希子 | 邪悪な同居生活会話劇
"あの子の考えることは変。これだけ一緒にいても一度だって共感できたことなんてない。狂おしい性欲もすさまじい孤独も、わたしには分からない。"
いやー変な本!
話の内容うんぬんより、設定だけで常人には思いつかないパーツの組み合わせだな〜と思ってたら劇作家だということを思い出して、すげーと思いながら読んでた。
一言で言うと、いわゆるイタい女2人のワイワイ生活本。そのうちの1人の変な部分として、自分が臭いと思ってることがけっこうあらすじとか帯とかでアピールされてるけど、うーん、そこはあんまりメインじゃない気がする。
この本ですごいと思ったのは、家族の話が全然ないこと。よくあるイタい人の話であるような、家族環境の悪さ話がない。実は虐待されてて…とか両親が離婚して…みたいな同情してしまう話はなく、そこがなんというか、潔くて好きだった。
主人公の巡谷は、付き合ってもない彼女がいる男「横ちん」を自分に夢中にさせたくて、やたらご飯を食べさせて太らせて、彼女に愛想を尽かされることを期待している。そのくせ「横ちん」や、同居している日田を見下している。なんというか、嫌なやつだな〜と思う。ただ、同居人よりは社会に馴染んでいて、バイト先でもうまくやっているっぽい。
同居人の日田は、自分に自信がなくて、自分が臭いと思いつつ、服を買ったらダイオキシンで汚れてしまうと考えてしまうような人間。変人的なエピソードがたくさんでてくる。巨大な煙突から立ち上る煙がダイオキシンと考えていて、そのせいで自分の性欲が強くなってるとか・・・
そんな二人がなぜ同居していられるのかっていう感じだけど、共依存っぽくなってる感じ。読んでいくと、巡谷だけじゃなく、どっちもお互いを見下してるけど、会話としては、不思議ちゃん的な日田につっこむ巡谷って感じで、会話劇としてけっこう楽しく読み進められる。
後半は、「横ちん」が寝てるとき、無呼吸睡眠といびきで唸りまくる声を、巡谷が豚のぬいぐるみに録音して、彼女にばれそうな位置にそのぬいぐるみを隠す。それが「横ちん」にばれ、ボロクソに言われるところから、状況が変わっていく。日田ともがっつり喧嘩して、メンタルもおかしくなっていく。
暗い展開になっていくかと思っていたら、「横ちん」をぶん殴り、ダイオキシンをまきちらすという煙突に無断侵入する。フェンスを破り、日田と登る。頂上で叫ぶ日田と、それを聞く巡谷の描写で話は終わる。2人の会話は酷いけど、疾走感があって好き。
楽しい本だけど、最後はバッドエンドになりそうな展開だったのに、むしろ青春!みたいな終わり方で安心したのと、読後感が意外にも爽やかだった。
こんなドロドロした暗い話なのに…何か教訓めいたものだったり、心を打つセリフがあるわけでもなければ、サブカル女子の楽しい同居生活でもなく、社会に馴染めない人達のひたすらに真っ暗な会話が続くので、どんな人にオススメみたいなものもない。ただ、日田のような、劣等感を持ちつつ、何かに囚われてしまってる人との付き合い方みたいなのは学べる気がする…
とにかく作者のセンスをこんなに邪悪に活かせるとは…という才能に感動できると思います!オススメです!