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ダイナミック寝相
私は昔から寝相が悪い子供だった。
朝起きると枕があらぬ方向に吹っ飛んでいるし、一緒に寝たはずのぬいぐるみはどこかに行っている。毎回、回収しなければならない。
また、起きた時に頭と足の位置がひっくり返っていたこともある。寝る時は窓の方に頭を向けていたはずなのに、起きると足の近くに窓がある。ごく稀に、首を痛めていることもある。
これはおかしい。一体なぜこうなった。
この寝相の悪さは、身の回りのものを吹き飛ばし、起床時の姿勢を真逆にするだけではない。身体にも弊害が出たことがある。
それは、ベッドから落ちたことだ。幼少期の思い出(?)のはずなのだが、記憶がまだ残っている。
現場はとある宿泊施設。あまり詳しくは思い出せないが、部屋には各々のベッド(おそらくシングルベッド?)があった。そこで寝た時に、どうやら私は落ちたらしい。
その時のことを詳細に思い出そうとすると、なぜかベットによじ登る視界(の映像)が出てくるのだ。部屋全体の暗さ、ベッドの白さ、自分の身体の細さや小ささも少しだけ見える。
なお、翌朝「ベッドから落ちたんだって?」と、同室に泊まった方から言われるところまでが1セットである。笑われて少し恥ずかしかった。
寝ている間の私よ、一体どのようなダイナミック寝相をしているのか。
ぜひとも話しかけて、このように聞いてみたい。
…と思っていたが、この寝相は改善されてきた…と最近は感じる。
ある程度身体が成長したせいか、現在が冬で寒いせいか。「あったかい場所から何が何でも動かないぞ」と身体が言っている。
私は以前(とは言ってもかなり前のことである)、雑魚寝を経験した。私以外にも数人の方がいたので、寝る場所を決めなければならなかった。
その際、私は率先してこう言った。
「ごめん、壁際で寝ても大丈夫…?私寝相悪くて。皆の顔蹴っ飛ばしたくないからさ…」
これは本心から放った言葉である。皆が快諾してくれたので、当時の私は安心して眠ることができた。結果、起床時に誰かを蹴ってしまったような痕跡は見られなかった。ラッキーである。
12月の寒さのおかげで身体が動かないせいか、枕がどこかに吹っ飛ぶことも無くなった。
(毛布を丸めたものを枕にしているから、という可能性もある。重みがあるから、吹っ飛ばないのだろうか。)
とは言っても、暑い季節はまだまだ身体が動く。最初に横になった場所とは、また違う場所で起きることもしばしば。
寝てる間も私は動いているんだなぁ…と実感する。(当たり前だろう、生きているのだから。)
しかし、幼少期ほど不思議な寝相では無くなってきたとも思う。
寝相に関しては、これで大丈夫だと思っていた。ベッドから落ちて体を打ちつけることや、枕を回収する面倒臭さからも解放される。そう確信していた。
新たな悩みが待っているとも知らずに。
寝相が改善されたのは良いことだが、現在の私には別の悩みがある。
そう、涎である。
よく、イラスト等で涎を垂らしながら寝ている人の絵を見かけると思う。まさしくあれである。
以前、外出先で寝てしまったことがある。目を覚ましたらマスクの中が濡れていた。
その時はティッシュを持っていたので応急処置を行うことができたから良かった。
もしも拭くものがなかったら、ずっと不快感を我慢しなければいけないことになる。今想像するとゾッとする。
また、枕(っぽい毛布の塊)に敷いているバスタオルが濡れていることもある。いつも問答無用で洗濯機に突っ込んでいるが。
この現象は、主に2つの条件下で起こることが多い。
1つ目は、私が本格的に疲れている時だ。長距離を移動した時、長い時間身体を動かしてヘロヘロになっている時等に多い。
2つ目は、うつ伏せになっていることである。意識を取り戻すと、いつも口がぽっかり開いていることに気がつくのだ。
口元を確認すると、何やら濡れている…と絶望するのがお決まりのパターン。こればっかりは、コントロールすることができない。
コントロールができないからこそ、厄介なのである。果たしてこの記事を読んでいる方は、一体どのような寝相対策を取っているのだろうか。
とりあえずうつ伏せにならないところから…と気をつけながら、寝るのに丁度良い姿勢を探す。
見つけた。横向きで、少し身体を丸めるくらいが安心できる。そう思ってあくびをしようとした。すると、口が下の方を向いており、また涎が垂れそうになった。
慌てて口を閉じる。
うん。もう無理だ。諦めよう。そう思って、素直に欠伸をしたのだった。
涎は垂れなかった。めでたしめでたし。