【Works】「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館 2023」出展作品「Superposition」
背景
「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」は、奈良県南部・東部に位置する奥大和を舞台に長時間かけて歩き、雄大な自然を作品を通して体験する唯一無二の芸術祭です。
舞台となるエリアは、吉野町、下市町、下北山村の3町村。今回SandSの浅見が下北山村のエリアディレクターの一人として参加しました。あわせて、アーティストとしてSandSが参加しました。
作品紹介
舞台となる下北山村は、世界遺産にもなった修験道の聖地・大峯奥駈道の宿場として生まれた村です。その下北山村と修験道の歴史をリサーチし、当時の人々の暮らしと価値観を大きく変える歴史の転換点となった、明治元年の神仏分離令を分岐点とした、あり得たかもしれない別の世界線の可能性をサイトスペシフィックなインスタレーションとして制作しました。
コンセプト
ifの歴史
史実を神道・修験道の変遷を軸に解釈しながらプロットし、明治元年の神仏分離令を分岐点とした別の歴史を「ifの世界線」として描きました。
このifの世界線の習俗を、現実の世界線に染み出した「痕跡」として複数のインスタレーションで表現したものをトレイル上に配置しました。
ifの痕跡 #00 ifの世界線と混じり合う境界
2枚✕2対のストリングスカーテンをトレイルの入口と出口に配し、その内側をifの世界線と混じり合う領域に見立てました。
ifの痕跡 #01 宿坊の幻像
透明のチューブを木々に張り巡らせ、ifの世界線の宿坊の輪郭を、広さ約60平米・高さ約5mのスケールで浮かび上がらせました。
ifの痕跡 #02 祈りのオーナメント
木で作られたオーナメントをトレイル上の木々に吊るしました。このオーナメントには実際にRFIDタグを貼り付けており、スマートフォンをかざすとifの世界線の人々が込めたメッセージが見られるようになっています。
ifの痕跡 #03 ブッシュアーキテクチャ
ifの世界線で一般的に行われているこの野営行為は、「Leave No Trace(跡を残さない)」が原則のため、実際のトレイルには何もありませんが、そう思って見ると、何の変哲もない景色も変わって見えてきます。
プロセス
SandSはデザインワークをメインとして活動しているチームなので、その特徴を活かし、今回のアート作品制作もデザイン的なアプローチで制作を進めました。
1. オリエン確認・与件整理
2. 各自でデスクトップリサーチ
3. テーマ仮説の持ち寄り
4. テーマ決定・制作計画
5. 視察・ロケハン・プロトタイピング
6. 制作・インストール
まとめ
SandSとして今回のような芸術祭にアーティストとして参加するのは初めての試みであり、正直なところ、最初は他の錚々たる参加アーティストの方々と肩を並べることに対して不安やプレッシャーがありました。
特に、普段のデザインワークやクライアントワークのように、ある種の与件やお題に対してアイデアやコンセプトを提案するのではなく、自分たちの中から表現したいことを生み出し、その面白さや強度を自分たちに問うということは難しくもあり、同時に新鮮なプロセスでもありました。
しかし、今回のMIND TRAILのように、ある土地に眼差しを向け、その土地を新たな景色として眺める「レンズ」としてのアート作品を制作することは、SandSが得意とするデザインリサーチやプロトタイピングのアプローチと非常に相性が良かったように思います。
つい「意味」や「なぜ」を考えてしまうデザイン的な思考の癖は、時としてアートとしては無粋さや野暮ったさにつながってしまう場合もありますが、結果的には、その土地や歴史から「問い」を見出し、それに対するカウンターを考え抜くことで、自分たちとして納得のいく強度と思索的なコンセプトを提示することができたと感じています。
SandSが提唱している「純粋三次元思考」は、例えば重力のような当たり前の先入観や固定観念すら取り払い、超観光的かつ超思索的に物事を捉えてみることです。
今回の作品も、「架空の世界」の「未来」ではなく、「実在の土地」の「過去」という、本来不可逆なものを問い直して、オルタナティブな可能性を提示するという意味では純粋三次元思考的な作品だと言えるかもしれません。
今回の「その土地のリサーチを踏まえてあり得たかもしれない可能性を見出し、それを体感する装置として作品をつくる」というアプローチには、場所を問わない可能性と手応えを感じることができました。
ぜひ今後、また別の場所でもこのような取り組みにトライしてみたいと思っています。