act:16-今夜がヤマです【序の章】肺炎を拗らせたらお迎えがやってきた
なんと無様なんだろう
オレはここ何日か高熱を出して寝込んでいた。
オレは自慢じゃないが、
クラスの中では体も大きいし力もある。
あの番長のナガサとも常に喧嘩は互角だ。
だけどさ、実はオレは悔しいけど体が弱いんだ(※1)。
お陰で学校もよく休んだ。
そのせいでナガサや他の連中とも
いつまでも仲良く出来ないのかもな。
‥まぁでも考えてみたら
そもそもアイツらとは仲良くしたくもなかったな
それに今はどうでもいいや。
最初は風邪だと思っていたけど
どうも肺炎を拗らしちゃったようだ。
喉の奥から枯れた重い咳が出て
これがまったく止まらない。
本当に息が苦しいんだ‥
咳ばかりするんで、胸のあたりの筋肉も痛くてたまらない。
でもそれ以上に何日も高熱が続いてるのが辛い。
いつ計っても40度前後なんだ。
意識が半分ふき飛んでるような感じだな
まるでいつまでも終わらない夢の中みたいだ。
そういや昨日は41度を超えてたようで
みんなビックリしてたな
オレだってビックリだ。
その熱のせいなのか
目を開けると辺りの風景が黄緑色に染まって見える。
なにより体中がいい加減ふわふわする。
このままフワリと浮かび上がれそうだ。
そんな熱で虚ろな目を開けるたび
どうもまわりはそれなりに時間が経っているようだった。
今もあらためて周りを見たら
オレの布団の左には父さんと母さん
そしてクニオが並んで座っていた。
右側にはいつ来たのか分からないけど
小高病院の院長先生が
看護婦さんを連れてやってきていた。
さっきまで誰もいなかったのにな
不思議だな。
オレは先生に
「小高先生こんにちは」
‥と話しかけたつもりだけど
何だか呂律が回らなかった。
さらによく見たら今日は人がいっぱいいた。
この狭い部屋に大入り満員だ
いま気づいたわ。
でも何だか変なんだ
先生と看護婦さんの後ろに
ゆらゆらと人影だけが5~6人いて
みんな半分透けているように見える。
オレの調子が悪いからかな?
「小高先生の後ろになんだか人がいっぱいいるけど、みんな顔がボヤけてよくわからないや、お見舞いかね?」
・・と、相変わらず呂律の回らない口で父さんに聞いてみたけど
父さんも母さんも
そしてクニオも答えてはくれなかった。
なんだ無視かよ冷たいなぁ~
オレたち家族じゃないか。
看護婦さんは手際よくオレに点滴や注射をはじめた。
《おいおいオレは注射は嫌いだやめてくれ》
《いいかよく聞くんだ直ちにやめるんだオレは許さん!》
でもなんだかそんな言葉を出す気力自体が全くおきない。
これがマナ板の鯉ってやつだなフフフ‥。
今日はじめて鯉の気持ちがわかったぞ!
ん?小高先生が何か言い出した。
「熱が全く下がらない、何も食べれないし意識もずいぶん混濁しているようです、この一週間の高熱で体力も相当落ちています。」
ほうほう・・
「残念ですが‥」
先生は続けて
「‥今夜がヤマです。」
ヤマってさぁ、あの山のことか?
この病人のオレに我が町の西にそびえる巨峰
伊藤大山(※2)にでも登れというのだろうか?
いつもいつも苦い薬はいっぱい呑ませるし
痛くてデカい注射は散々打つし
いっぱい血も抜かれるし
さらに40度の熱のオレに、今度は山を登らせようとするのか
こりゃ驚いたな相変わらず悪魔のような先生だ。
あぁでも先生
小学校にあるモモトセ山(※3)ぐらいなら登れそうです。
しかし父さんと母さんを振り向くと何だか深刻な顔だ。
父さんは言った
「婆さんが死んでまだ大して経ってない。あっち側に一緒に連れて行こうとしてるんじゃないか」
それを聞いて母さんは
「お義母さんは、ノリユキのことを物凄く可愛がってましたよ、そんなことをするわけがないですよ。」と・・
しばしの沈黙の後にクニオが聞いた
「父さん今夜がヤマって何?人がいっぱいって、アニキは誰を見てるの?」
父は短く答えた
「‥お迎えだよ。多分な。」
「うちは死ぬ前にな、よくあの世からお迎えがくるんだ(※4)」
クニオはそのまま黙り込んでしまった。
みんなの話をオレも聞いていたけど
40度の高熱でのぼせた脳みそじゃよく理解できない
ましてや難しいことを考えたくないんで今は聞きたくもないぞ。
もういいからさ
みんなどっかに行ってくれないかな
オレはくたびれたんで少し眠りたいんだ。
しかし今夜がヤマデス
ヤマかぁ~
山ねぇ‥。
大多喜小学校の校庭のモモトセ山で
みんなと遊びたいよなぁ
ふわふわしたオレの頭の中には『山』が浮かんだ。
空中にふわふわ浮かぶ大多喜の杉山だ。
モモトセ山の櫓と吊り橋も装備されている。
ウゥーーー!ウゥーーー!ウゥーーー!
緊急警報のサイレンが艦内にけたたましく響き渡る
「隊長!敵影多数!オイオイどーすんだコレ?やたら多いぞ!」
操舵手のユーイチ上等兵が叫ぶ。物凄い数の機影をレーダーが捉えたのだ。
敵の総数は凡そ1,000。今日までずっとオレを散々苦しめてきた巨大な敵、ヤリター総統率いる暗黒肺炎帝国と、いよいよ最終決戦の時が迫っていた!
1977年(昭和52年)の冬が近づく11月頃、
肺炎を拗らせた小学5年生のオレの
妄想と悪夢の冒険はいま始まった‥。
次回、act:17-今夜がヤマです【破の章】 ↓
【大多喜無敵探検隊-since197X 今夜がヤマです(序/破/急)Link 】
今回お話が長くなってしまい、3部に分けました。
見づらくて大変申し訳ありません ↓
大多喜町MAP 昭和50年代(1970年代)
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