詩誌「三」73号掲載【始業のチャイム】正村直子
小学生のとき日直で
「気をつけ、礼」の号令が言えなかった
始業のチャイムが鳴ると
鼻の奥がじぃんとして
声はのどの変なところにひっかかって
指先はびりびり痺れていった
わたしは恐ろしかった
わたしはすっかり大きくなって
初対面の人ともそこそこ話せるし
それこそ恐ろしい顔で
子どもをたしなめることだってできる
だけど
傘をさそうと足元を見た瞬間
眠ろうと目を閉じた瞬間に
わたしはあっけなく
何気なく何度でも
できそこないの日直になる
みんながこっちを向いて待っている
とっくにチャイムは鳴っている
わたしはじぃんとしてひっかかってびりびりして
「気をつけ、礼」がいつまでも言えなくて
まだ授業は始まらない
2024年3月 三73号 正村直子 作