三(詩の創作同人誌)

詩やショートショートなどの文芸作品を書いています。 メンバーは現在5人。(メンバー募集…

三(詩の創作同人誌)

詩やショートショートなどの文芸作品を書いています。 メンバーは現在5人。(メンバー募集中!) 愛知淑徳大学の現代詩創作ゼミ2006年卒生を中心に2006年3月に「三」を創刊。 3か月に一度詩誌を発行しています。(3,6,9,12月) 三に掲載している作品をアップします。

最近の記事

詩誌「三」75号 あとがき 正村直子

ただいま締め切り三日前、いまだ作品が完成していない状況であとがきを書いています…。あまりにも詩が書き進まないので、とりあえず苦手なあとがきからでも書いておこうと今ここを書いています。気分的にはまったく「あとがき」ではないですが書いてみます。 締め切りを前に書けない!ということは私にとってままあることなのですが、そういう困った時は夫に何かテーマかキーワードをお願いしています。これまで、「シャツ」や「扇風機」など色々なテーマをもらってきました。これまでそのテーマを活かせているの

    • 詩誌「三」75号掲載【詩のトークバトン】

      飯塚 自分の書いた作品の中で思い入れのある作品を教えてください。複数でも構いません。理由と一緒に教えてください。 私は二つあって「その花がいつも呼んでいる」(31号)と「今夜、きみが魔女になる」(59号)という作品です。 前者は詩を書き始めてから、初めて自分で満足できた作品です。とても個人的な思い出から生まれた作品なので、きっと自分にしか書けないだろうと(その時は)思えたこと、自分の頭の中でイメージした光景を上手く文中に落とし込めたと思ったことがその理由です。そして、満足

      • 詩誌「三」57号掲載【あなた】正村直子

        あなたが父親に冷水を浴びせられた時 わたしはこたつでアイスを食べていた あなたが泣き叫んで助けを呼んだ時 わたしは世界がなくなればいいと歌う声を聴いてい あなたの声を知ることなく わたしはあなたの死を知った ニュースのなかのあなたは笑っていて わたしの頭の中ではうつろな目をしている この世界のはじっことはじっこで おなじギャグで笑ったことも おなじ歌をくちずさんだことも おなじ夕焼けををながめたことも きっとあったのに 一月のしんと静かな朝 わたしはわたしとわたしの家

        • 詩誌「三」46号掲載【握手】石山絵里

          〆切が近いというのに、書き出しの一行目さえ決まらなくて、グズグズしていると、四年前に他界した学生時代の恩師・梅田先生が目の前に現れた。ほほ笑みを浮かべてこちらを見ている。 「詩を書けなくて困っているようだったので、ちょっと様子を見に来ましたよ」 先生に会うのは六年ほどぶりだろうか。つい先日も会ったかのように、ふらりと現れたものだから、こんなこともあるのか、と思ってしまった。卒業後も詩を書き続ける私を、いつも励ましてくれていた。決して人を責めたりしない、穏やかな先生。「僕、

        詩誌「三」75号 あとがき 正村直子

          詩誌「三」59号掲載【今夜、きみが魔女になる】飯塚祐司

          その日、僕は見た。東の空に赤い三日月が浮かぶ夜。隣の家のベランダから、黒猫のステッカーが貼られたスケボーに乗って、幼馴染のあの子が空に飛び出していくところを。 僕がそれを知ったのは、中学校に入ってすぐの保健体育の授業の時だった。男女別々の教室で授業を受けるのは何時ものことのはずなのに、その日は妙に気になったのだ。その日授業をするのが、普段職員室の奥でお茶を飲んでいるだけで、何の教科の先生かも分からないおばあちゃん先生だったからかもしれない。教室を出て行った女子が気になった僕

          詩誌「三」59号掲載【今夜、きみが魔女になる】飯塚祐司

          詩誌「三」31号掲載【その花がいつも呼んでいる】飯塚祐司

          『よろず約束買いとります』 駅裏の煮物の匂いがする路地に、そんな看板を掲げた一軒の古びた店がある。それと知らなければ見過ごしてしまいそうな狭い軒先には、色とりどりの切り花が並び、太った赤茶色の猫が腹を上にして日向ぼっこをしている。店の中ではこれも太った老人が肘をつき、こっくりと舟を漕いでいた。机の上には、三ヶ月を二つ組み合わせたような変わった鋏と、木製の秤が置かれていた。 扉に吊るした鈴が鳴ると、老人はのんびりと目を開けた。そこには一人の女性が立っていた。背中まで届く長い

          詩誌「三」31号掲載【その花がいつも呼んでいる】飯塚祐司

          詩誌「三」75号掲載【ある風景】正村直子

          乗り換えのために降りたホームで 次の電車を待ちながら このホームから一歩も出たことがないと気がついた 線路の向こう側には 雑居ビルと相変わらずテナント 複雑に交差する電線があった 帰宅ラッシュのホームは騒がしいはずなのに 私の周りは曖昧にぼんやりとしている 褪せたオレンジ色のベンチに座る人は 音もなく去っていった いつもと同じ三番乗り場からの 夕方六時すぎのほんの数分 どうやら何年も何年も この街のたったひとつの風景だけを 私は見ていたらしい この風景の向こう側で いま誰かが

          詩誌「三」75号掲載【ある風景】正村直子

          詩誌「三」75号掲載【恋と呼ぶには美しすぎる】飯塚祐司

          結城美春が生まれたのは、東北の小さな町だった。そこは冬は空っ風が吹き、降雪は少ないものの、乾燥して寒さが厳しい土地だった。その年は寒さはそれほどではなかったが、土地の古老でさえ記憶にないというほど雪の多い年だった。美春が生まれたのはそんな冬の最中だった。当初見慣れぬ雪景色に喜び美雪と名付けようとした彼女の母は、あまりに降り続く雪に次第に嫌気がさして、美春と名付けたのだった。もしも美雪のままだったら、違う人生だったかもしれないね。その話をするとき、決まって美春の母は笑いながらそ

          詩誌「三」75号掲載【恋と呼ぶには美しすぎる】飯塚祐司

          詩誌「三」75号掲載【音】石山絵里

          休日の朝のリビングには、テレビの音も、足音一つだって、聞こえはしない。と思ったけれど、耳をすませると、時計の秒針が動く音、雨つぶがアスファルトに落ちる音、食洗機の中で水が流れる音、エアコンの稼働音など、実にいろいろな音があふれている。本当に何の音もしない時間など、一日の中で一秒だって無いのかもしれない。 寝室をのぞくと、娘が静かに寝息をたてている。延々と続くような気がしていた彼女の夏休みも、終わりが見えてきた。遠い日。私が少女だったころ。イヤホンで一人、お気に入りの曲を聴い

          詩誌「三」75号掲載【音】石山絵里

          詩誌「三」75号掲載【しょしょ月 二十七日】水谷水奏

           帰宅。カタツムリが玄関前の門柱のちょうど真ん中にコロンと、お供え物のようだ。門柱がすこし、墓石碑にみえてくる。  暑かろう、不本意かもしれないが、涼しい場所に移動してあげよう。そう思って拾い上げようとしたら、彼は、もしくは彼女(カタツムリは両性具有だっけ?)は、もはや殻だけになっていて、中身だったらしいなにかが不十分な接着材のようにうっすら汚れた白に残り、殻を持ち上げる力にわずかに逆らった。なるほど墓石碑で間違いないのかもしれなかった。    この世では近年「推し」など

          詩誌「三」75号掲載【しょしょ月 二十七日】水谷水奏

          詩誌「三」74号 あとがき 水谷水奏

           一年ほど前から、夜明けに勝手に目が覚めるようになりました。四時半とか、下手すると三時半とか。(もともとはかなりギリギリまで寝ているタイプでした)  不眠でつらいという感覚はなく、調べると、鬱か、加齢か、と出てきてそれなら加齢の方が思い当たるなあとぼんやり感じています。  「でも、仮面うつとかあるんじゃないの?自覚のないうちに疲れてるんじゃ?」などと、優しい友人が声をかけてくれたりしましたが、自分ではよく分からずです。  目が覚めた時に毎朝まず目に入ってくるのは、カー

          詩誌「三」74号 あとがき 水谷水奏

          詩誌「三」74号掲載【世界の終末とチリトマト】正村直子

          世界終末時計が残り九十秒だと伝えるニュー スを聞いたとき、わたしはカップヌードルチ リトマトの三分を待っていた(正確にはタイ マーが残り二分十八秒を示していた。)。チリ トマトを食べる前に、世界は終末を迎えるら しい。もちろん、そんなわけはない。そんな わけはないけれど。急いで誰かに電話で愛を 伝えようか。三分を待たずにチリトマトを食 べようか。ペンをもってメッセージを残そう か。「戦争をやめて」「さよなら」あるいは、 「チリトマト」。 箸でおさえたカップ麺の蓋がほんの少し

          詩誌「三」74号掲載【世界の終末とチリトマト】正村直子

          詩誌「三」74号掲載【時をかける人材派遣会社】飯塚祐司

          本日はご多忙のところ、多くの方に説明会にお越し頂き誠にありがとうございます。後ほど改めて自己紹介致しますが、私本プロジェクトの責任者で本日の司会進行を務めさせて頂きます。短い時間ではございますが、どうぞよろしくお願い致します。 さて皆様は、ギフテッドという言葉をご存じでしょうか。ご存じの方も多いかと思いますが、大雑把に言ってしまいますと優れた才能を天から贈られた人、といったニュアンスとなります。しかし、この贈り物というものが実に曲者でして、贈られる側の立場によってその価値は

          詩誌「三」74号掲載【時をかける人材派遣会社】飯塚祐司

          詩誌「三」74号掲載【詩のトークバトン】

          ーー前号からの企画コーナー、詩の座談会改め「詩のトークバトン」第二回です。詩にまつわる話題を一つ、一人のメンバーが決め、それについてリレー形式で一人ずつ自分の考えを述べていくコーナーです。 石山 教科書で読んだ詩作品で、心に残っているものを教えてください。 私は吉野弘の「虹の足」です。 三で作品を書くようになって随分経ってから、「この作品、中学の授業で読んだけど、吉野弘だったんだ!」と遅ればせながら気づきました。 ある村に虹がかかっているのを、書き手がバスに乗っていて

          詩誌「三」74号掲載【詩のトークバトン】

          詩誌「三」74号掲載【short】石山絵里

          髪を切ろう。短く、バッサリと。数年に一度、なぜか そうしたくなる。決してショートヘアが似合うわけで はないのに。切ったあと、決まって(やっぱりもう少 し伸ばそう)と思ったりするのに。 美容室に入ると、扉にかけてあるチャイムが、チリン と鳴った。すずしい店内。カレンダーには、スイカを 食べる男の子のイラストが描いてある。 先月からエアコンを入れ始めた、と美容師が言う。私 は適当な返事をする。ハサミがリズミカルに動き、ど んどん髪が切り落とされてゆく。美容室にいると、ど うし

          詩誌「三」74号掲載【short】石山絵里

          詩誌「三」74号掲載【おれない】水谷水奏

          わたしは折り紙が うまく 折れない 角と角を よくみて 合わせるだけ が うまくできない できない きっと 何にもきちんとは なのに 誰かに なにかを 言わずにおれない 誰かを ぐつぐつ つつかずには おれない つつきながら ほろほろと 自分のおろかを なげかずには おれない 2024年6月 三74号 水谷水奏 作

          詩誌「三」74号掲載【おれない】水谷水奏