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窓を開けると冷たい風が教室に入ってくる。気が付けば校庭から聞こえる声も小さくなって人の熱も冷めてくる季節になってきた。 真っ赤に色づいた校庭越しに吹奏楽部の笛の音が教室に入ってくる。なんだ、気が付かないうちに物思いに耽るには良い季節にもなったって訳だ。 ガラガラと教室の扉が開く。待ち人来るってね。 「よかったー、まだ居てくれたんだね」 嬉しそうな声を上げながらミサトが教室に入ってきた。すぐに私の机の前に座ると頭を当ててくる。 「今日もお疲れさま」そういうと頭をうりうり
まぁ、地に足が着かないっていうのは落ち着かない事他ならない。 私が死んでからかれこれ五年は経ったけど未だに慣れない、たまに地面に足を着けて歩く振りをしてる。見た目はそれっぽくなったけれども重力を感じないってのは困りものだ。 死んですぐ出会った街角のおじさんは、まず足を透明にしろって言っていた。幽霊の礼儀だと。一理あるしああいう人が居るから日本の幽霊は足無しスタイルが一般的なのかな。それともやる事がなくなって、新人にそう言う事を伝えるのが生き甲斐になっているのかも。 今
峠を越えると何だって楽になる。嵐も痛みも苦しみも後悔も。 じゃあそのてっぺんを決めるのは誰なんだろうか。誰ももう少しで終わるよなんて教えてくれない。最中にいる間はただただ痛みを受け続ける事になる。死は峠を越えたというのだろうか。登り坂の後は下り坂だと相場は決っているが、崖になっている事もあるし、穴に落ちる事もある。線が途絶える。 なんにせよ、死んだら終わり。苦しみや痛みからの解放だ。良い事なんだろう。 煙草に火をつけて石の上に置く。私は同じ煙草に火をつけて深呼吸した
どうしようもねーやと思ったらお酒を飲めば良いと教えてもらった。 今日も下らない誰よりも安いお酒を飲んでいる。喉に流し込まれた安いお酒は一瞬の潤いと長い乾きを私にくれて、駄目なお酒ほど駄目な自分を酔わせてくれる。飲み終わったお酒を落としてそれを空中でキレイに蹴り飛ばせれば、今日の運勢は吉。とか言ってもう今日なんて後何分あるのさ。 投げた缶は私の足をすり抜けて、カランと音と立てて地面に転がっていった。本日の残り十三分は凶という事だ。 駅にでも行こうかそこの公園でボケっとし
独特の浮遊感だなと思う。 部屋に一人浮かび上がっている私は自分の部屋を見ながらそう思った。重力が無い状態っていうのは宇宙に行けば体験できて、ナサだかジャクサだかに行っても多分疑似的な奴は体験できるんだったっけ。 「まぁ、落ち着いてよ」 眼下に移る自分の部屋には女性が二人。女性って客観視してるみたいに言ったがどちらも顔を知っているし、なんなら先週までは良く喋ってた。可愛い胸の大きい方の女性はずっとオロオロしたり泣いたりしている。 一方胸が小さくてあんまりかわいらしくない
真っ暗な部屋で窓辺に座ると月明かりがほんの少しだけ混ざった街灯の光が私に届く。 スピーカーから流れるスクエアプッシャーの音楽は独特な浮遊感を与えてくれた。 理知的でかつ破壊的なリズムと幻想的とは程遠い街灯の柔らかい光の中、私はプシュっと空気感を全て破壊するような音とともにプルタブを開けた。 「駄目だわこれ。先に開けておくべきだったな」 雑にチューハイを流し込むと駄菓子の様なグレープフルーツ味と工業製品の様な取ってつけたアルコールの匂いが鼻を駆け抜ける。 「飲み物も駄目