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ラプンツェル

 窓を開けると冷たい風が教室に入ってくる。気が付けば校庭から聞こえる声も小さくなって人の熱も冷めてくる季節になってきた。
 真っ赤に色づいた校庭越しに吹奏楽部の笛の音が教室に入ってくる。なんだ、気が付かないうちに物思いに耽るには良い季節にもなったって訳だ。
 ガラガラと教室の扉が開く。待ち人来るってね。
「よかったー、まだ居てくれたんだね」
 嬉しそうな声を上げながらミサトが教室に入ってきた。すぐに私の机の前に座ると頭を当ててくる。
「今日もお疲れさま」そういうと頭をうりうりと揺らしてきた。
「ウミがいてくれるから元気補充できるんですわ」
「光栄ですこと」ミサトの頭をなでてあげると猫の様な声を出してくる。
「それにしても、今日はちょっと疲れたかな。委員会で決まらない事があってさ、それについてだけずーっと会議してて、どっちでもいいのさ」
 ミサトは机に突っ伏すと私の髪の毛を弄り始める。私は私でミサトの頭の上から手が離せなくなっているんだけども。
「ねぇ」髪の毛を触りながらふと口を開く。
「なに?」
「ラプンツェルって髪長い娘の話だったよね」
 大体間違ってないけれども、なんかすごい省略の仕方だ。そうだよと相槌を打つ。
「塔の上で髪長くして、はしご作って自分で逃げたんだっけ。誰かに助けてもらったんだっけ」
「自分の髪の毛に上ってきて貰って王子様とセックスしまくる話だよ」
 ミサトはうぇっと変な声を出して私の髪の毛から手を離す。
「なんだ、良い話だったらウミの髪の毛ラプンツェル見たいって言おうと思ったんだけど、駄目だったかぁ」
 直ぐにまた私の髪の毛を触り始める。
「ほれ、くるくるって。ラプンツェルって名前がキレイだからなんかキレイな話かと思ったけど結構下世話だったのね」
「でもなんかリアルじゃない? 初めてセックスをしたラプンツェルはセックスにハマって王子とセックスし続けるの。そしたら妊娠しちゃって魔法使いにバレて髪の毛切られるのよ」
「うーん」ミサトはなんか納得がいかないといううなり声を出しながら私の髪の毛の先端をいまだにクルクルと弄んでいる。
「あなたも付き合ってすぐくらいの頃はラプンツェルみたいだったよ」
 目を瞑りながらミサトに顔を近づける。耳にキスをして、ふぅと息を吹きかけると私の髪の毛をさわる指に力が入るのがわかった。
「ずるくない?」
 ミサトの体温が上がっていくのを感じる。
「これはズルじゃないよ。こうすればミサト喜んでくれるでしょ?」耳の端を一度甘噛みする。
「そういうのがって言ってるの」
 私の髪の毛を触っていた手が頬に触れると、ミサトは顔を上げキスをしてくる。軽く、可愛げのある様な。
「続きは私の家にしよっか。ここ学校だしね。」そういうとミサトはゆっくりと頷いた。
 夕焼けとミサトの顔は今どっちが赤いんだろうか。熱に浮かされた頬を窓から入り込んでくる冷たい風が撫でてくる。
 なるほど、やっぱり良い季節だね。彼女の暖かい手を握ってそう思った。

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