死ぬほど気持ち良い同性同士のセックスの条件

 独特の浮遊感だなと思う。
 部屋に一人浮かび上がっている私は自分の部屋を見ながらそう思った。重力が無い状態っていうのは宇宙に行けば体験できて、ナサだかジャクサだかに行っても多分疑似的な奴は体験できるんだったっけ。
「まぁ、落ち着いてよ」
 眼下に移る自分の部屋には女性が二人。女性って客観視してるみたいに言ったがどちらも顔を知っているし、なんなら先週までは良く喋ってた。可愛い胸の大きい方の女性はずっとオロオロしたり泣いたりしている。
 一方胸が小さくてあんまりかわいらしくない女はずっこけたかの様にだらしなく寝転んでいて、右手には業務スーパーなどで売ってる安い酒を持っていた。
 声をかけたがオロオロしてる彼女はオロオロしたままだ。
「これは良くないな」
 何が良くないかは先の通りで、寝てる方が滑稽すぎた。寝てるのではなく死んでいて、もちろん想像の通り私なんだけど。
「この後死ぬほど気持ち良い同性同士のセックスの本を実践する予定だったのにその前に死んだら元も子もないね」
 加奈の上で天井をみつつクルクル回りながらくだらない事を呟いているとベランダの窓を開ける音がした。
「ちょっとまって、あなたは死ななくてもいいから」
 そう言うと、加奈は私の目を真正面に見据えながら
「私も死なないとあなたとセックス出来ないけどどうする?」と少し笑いながら言ってきた。
「見えるの」加奈の横に立つと、加奈は私に視線を合わせたまま横を向いた。見えてる。
「全部聞こえてたけど」聞こえもするみたいだ。
「死にたい」死んでるけど。
「もう死んでるんじゃないの?」そうだよ。
「なんだかあなたが死んでるのにあなたが居ると悲しいのか悲しくないのかわからなくなってきてさ」
「私は悲しいよ。あなたに触れられないし」
 加奈は一度締めた窓をあけてベランダに立つ。
「ここから落ちたらそれであなたと一緒だけれども。どう?」
「そんなの絶対駄目」
 加奈はこんな状況なのに笑顔で一冊の方を出した。
 タイトルは―成仏するくらい気持ちが良い同姓同士のセックス―
「どう?」
 私は加奈と私の死体がある部屋で考えながら座りこんだ。

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