『現代哲学の論点』を読むためのメモ(第三章 プライバシーは消滅するのか)
p.70
ハンナ・アーレント『人間の条件』(1958) … 「欠如」を意味するラテン語〈privatus〉から派生した〈private〉は、元々は、「公性」が欠如している(=秘密が保たれる)場としての「家」という空間の特質を表す語彙であった
p.73
バンジャマン・コンスタン「近代人の自由と古代人の自由」(1819) … 古代人にとっては、主権の行使に参加すること、公共の場で熟議し、外交や軍事、法や予算に関する決定に関与することが自由であったが、「私的な享楽の安全 la sécurité dans les jouissances privées」を求める近代人にとっては、この享楽のための制度的な保障が自由である、と述べている
ミル『自由論』 … あらゆる問題を政治化しようとする民主主義から個人の自由を守るため、他者に危害を及ぼす可能性がある行為領域(公的領域)と、他人に危害を加える恐れが少ないので、本人の自由に任されるべき領域(私的領域)を区別すべきことを提唱した(=他者危害原理)
p.75
エンゲルス『イギリスにおける労働者階級の状態』(1845) … 労働者用の粗末なアパートの一室に家族全員、場合によっては複数の家族が住み込み、不自由で不衛生な生活
マルクス『資本論』(第一巻、1867) … 同上
p.76
バルザック『ゴリオ爺さん』(1853) … 主人公が貧しい苦学生だが、それなりの身分の出で、下宿でひとり暮らしをしている
ドストエフスキー『罪と罰』(1866) … 同上
ゾラ『居酒屋』(1877) 、『ジェルミナール』(1885) … 貧しい大人数の家族が小さな部屋に暮らしている、マルクス=エンゲルス的な設定の小説
トーマス・マン『ブッデンブローク家の人々』(1901) … 有力なブルジョワの一族の歴史を描いた
p.77
カフカ『変身』(1915) … 主人公グレゴール・ザムザは、自室で虫になっているのに気づき、家族から隔離されて自室に閉じこもることになる
カフカ『審判』(1925) … 主人公ヨーゼフ・Kは、ある日突然、下宿している部屋に侵入してきた見知らぬ男たちに、あなたは逮捕されたと告げられ、日常生活を監視されるうちに、(性的なものも含めて)様々な欲望を暴露されていく
カフカ『城』(1926) … ある人物が一人で閉じこもっている部屋に侵入したり、覗き込んだりすることで、隠された欲望や力関係が露わになり、急展開するきっかけになっている
カフカ『判決』(1913) … 同上
エドガー・アラン・ポー『モルグ街の殺人事件』(1842) … 密室
p.78
アドルノ「キルケゴール──美的なものの構築」(1931) … キルケゴールが、自らの内面世界の構造やそこで生じる出来事を、何を手掛かりに表象し、自己認識したかを論じた
p.79
ヴィクトリア・ロスナー『モダニズムとプライヴェートな生活のアーキテクチャ』(2005) [原書のみ] … 「インテリア」と「内面性」の相関関係に注目しながら、よりポジティヴな側面を取り上げている
p.80
夏目漱石『こころ』(1914) … 近代日本の知識人の内面性を扱った最も典型的な小説
オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』(1891) … 主人公の部屋に掛けられている彼の肖像画を始め、彼が長年にわたって収集した各種の楽器や宝石、刺繍や織物などの芸術作品群が彼の内面を映し出す役割を果たしている
森鷗外『ヰタ・セクスアリス』(1909) … 主人公の内面と私的空間が対応しているように見える場面はなく、強いて言えば、主人公の身体以外に閉ざされた場はないように見える
三島由紀夫『仮面の告白』(1949) … 同上
p.84
ヤン・エルスター『酸っぱい葡萄』(1983) … 「適応的選好形成 adaptive preference formation」
ドゥルシラ・コーネル … 各人が親密な他者たちとの関係を通して自己像を作り直し、アイデンティティを徐々に再構成するための余裕を与えてもらう権利、自己決定のための基礎を獲得するメタ権利としての「イマジナリーな領域への権利 the right to imaginary domain」を広範に認めるべき、と主張する
p.86
アミタイ・エツィオーニ『プライバシーの限界』(1999) [原書のみ] … 西欧では、プライバシーは権利と見なされることが多いが、特定の身体的部位や行為を公の場で見せることを禁じられるという意味での、「義務づけられたプライバシー mandated privacy」もあることを指摘している
p.88
ルイス・ブランダイス、サミュエル・ウォレン「プライバシー権」(1890)[『ハーヴァード・ロー・レヴュー』に執筆] … 名誉棄損や知的財産などに関連する分野で発展した法理を参照しながら、各人の身体だけでなく、知的・情緒的生活の安全をも保障することが、情報が簡単に拡散する社会に生きる現代人にとって重要であるとして、「一人で放っておいてもらう権利 right to be let alone」を主張する
p.89
ウィリアム・プロッサー「プライバシー」(1960) … プライバシーの侵害として、①隔離あるいは孤立した状態、もしくは私生活に侵入すること、②当惑させるような私的事実を公開すること、③公衆に誤解を与えるような形で公表すること、④その人の名前や肖像などを自らの利益のために流用すること──の四つの類型があることを指摘している
p.90
アラン・ウェスティン『プライバシーと自由』(1967) [原書のみ] … 「プライバシー」を、「自らに関する情報がいつ、いかにして、どの範囲で他者日本伝達されるかを自分で決める個人、集団、あるいは機関の請求(権)」と定義。「ビッグ・ブラザー」が現実のものになるのではないか、という懸念がアメリカに広がりつつある、という問題意識の下に書かれている
アラン・ウェスティン編著『自由な社会におけるデータバンク』(1973) [原書のみ] … 上記の請求(権)を現代社会において様々な領域で確立されつつあったデータバンク管理の問題と関連づけた
p.93
フーコー『監視と処罰』(1975:邦訳『監獄の誕生』) … 前近代の権力が公の場での処刑のような形で自らの力を見せびらかすことによって自己を維持していたのに対し、近代の権力は、ベンサムの「パノプティコン」の構想に象徴されるように、「見られることなく、見ること Voir sans être vu」を理想とするようになったことを指摘している
オーウェル『一九八四』 … 姿を見せない全知の独裁者「ビッグ・ブラザー」
p.94
セバスティアン・ハイルマン … 中国では各人の社会的信用を点数化し、就職の際に利用することが現実化しつつあり、それをデジタル・レーニン主義と呼んでいる
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