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映画『テイク・ケア』―アメリカで不法移民として生きること

映画『テイク・ケア』は、「自由の国」アメリカで生きる親子を襲った悲劇を描くシリアスドラマ。

今回は『テイク・ケア』を通して、アメリカで不法移民として生きること、そして高額な医療費の実態について解説をお届けいたします。

ここから先はネタバレを含みますので、よろしければ作品をご覧になってからお読みいただけると嬉しいです!


〈タイトル〉 『テイク・ケア』
〈監督〉 Itamar Giladi
〈作品時間〉24分22秒
〈あらすじ〉
ホテルの駐車場係として働く19歳のメキシコ系アメリカ人、ガブリエル。ある日、母親が転倒し骨盤骨折の重傷を負ってしまう。移民許可証がないために莫大な治療費を請求されたガブリエルは、彼の人生を一変しかねないとんでもない行動に出る。

SAMANSA

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◎不法移民とは


高級ホテルの駐車係として働く19歳のガブリエル。
彼の母親には移民許可証がなく、不法移民であったことが劇中で明かされています。

そもそも不法移民とはどういう定義なのでしょうか?

法務省が定義する不法移民、不法滞在者とは以下のようになっています。

不法滞在者とは不法に入国し、在留資格のないままその国にとどまっている人、または、合法的な在留資格を過ぎ、在留資格を失った後もその国に留まっていること

法務省

アメリカでは現在およそ1,000万人が不法移民として暮らしています。

そもそも20世紀後半までのアメリカでは、人口密度が低く、労働力を拡充するために開放的な移民政策を行ってきました。

しかし、近年では不法滞在者の増加や、テロ脅威に対応するため、
移民の受け入れは制限的に、そして複雑化していったのです。

◎ 母と子の対比

ガブリエルとその母イネスの二人の間にも明確な違いが描かれています。

ガブリエルは高級ホテルに駐車係として勤め、スペイン語も英語も話すことができます。

しかし、母のイネスは製造工場に勤めていて、英語が話せません。怪我をして病院を訪れた際も看護師はメキシコの公用語である、スペイン語で対応していたことがわかります。

また、この職場で怪我をしているという点では、2人の間に共通点がありますが、

ガブリエルは客の家から金目のものを盗むための故意的な怪我、
母イネスは、工場の階段から転落、
と、どちらも実際の作業の場からは離れた怪我にも関わらず…

ガブリエルの上司は彼を心配し、手当を行おうとさえしますが、

母イネスの勤務先の工場長は、怪我と仕事は関係ないとして労災保険を下ろそうとしませんでした。

母と子の間でこれだけの待遇に差があるのはなぜでしょうか?

これから考えられるのは、ガブリエルは「アンカーベイビー(碇の赤子)」であるということです。

アンカーベイビー」とは外国人の母親がアメリカに赴いて出産した子どもを指します。

差別的な意味でも用いられることがありますが、しばしば不法移民問題について議論される際に取り上げられるものです。

実はアメリカで生まれた子どもは、無条件でアメリカの市民権が得られ、その家族にも在留許可が下されます

よって外国、とくに発展途上国の妊婦が不法に入国し、アメリカ国内で子どもを出産するケースが少なくありません。
アメリカと国境にあるメキシコでは、生活苦から逃れようと多くの不法移民がやってきており、この「アンカーベイビー」の割合も多いのです。

しかし、家族に在留許可が下りるのは子どもが成人となる21歳から

つまり本作のガブリエルは19歳のため、彼自身は市民ですが
母親はアメリカ市民とは認められない、ということだったのです。


◎アメリカの医療格差

また不法移民であるということは、その国にとって犯罪であり、不法滞在が発覚すれば、罰則も課せられます。
そして当然ながら市民としての権利もありません。

一般的な市民さえ治療費が高いことで知られているアメリカですが、それは先進国で唯一、全国民へ向けた国民皆保険がないためです。

低所得者や高齢者、障害者へ向けた公的な保険制度はあるものの、他の人々は企業が用意する民間の医療保険に入っているようです。

それでもその保険料自体がとても高く、利用率は3割程度で、市民であっても治療をあきらめざるを得ないケースも多いのだとか。

一方で富裕層は高額な保険料をかけて、世界最先端の医療を受けられるという
累進的な仕組みがとられています。

もはやアメリカにおいては移民、市民関係なく、
医療格差は長年の課題であるのです。


ちなみに日本では基本的に国民全員を公的医療保険で保証し、医療費の7、8割を国が負担していますね。

どのくらい違うのかというと…

例えば盲腸(虫垂炎)の治療費は

アメリカ・・・ およそ300万円
日本・・・ およそ30万円

と約10倍もの差があるのです。


そんな中でこのような状況を改善しようとする動きもあります。

マサチューセッツ州などでは、全米初となる州民皆保険が義務付けられ、これまで保険に加入できなかった人々も対象になるほか、

不法移民たちに対しても、「Mass-Health(マス・ヘルス)」という保険プログラムによってほとんどの医療が無料、もしくは安価で受けることができるようになりました。


不法移民とはいえ、命に関わる緊急時において、彼らを見過ごすことはできません。

これまで多くの移民を受け入れ、
「自由の国」「アメリカン・ドリーム」を掲げるアメリカの裏では、
怪我や病気でも十分な治療を受けられない人々が非常に多く存在します。

それでもアメリカで生きようとする不法移民は後を絶ちません。

格差の根本、そしてその先には何があるのでしょうか?


映画『テイク・ケア』はSAMANSAで公開中です!
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