
あなたは子どものSOSに気づけるか・・・!?ー映画『7回』ー
近年、大きな社会問題となっている児童虐待。今では子どもへの関わり方が変わりつつあります。
そもそもなぜ、子どもへの暴力や虐待への歯止めがかからないのでしょう?
家族の孤立、貧困、社会的環境・・・・。
長年いろんな原因が挙げられていますが、私たちはもっと「根本的な要因」を知らないといけないのかもしれません。
そのヒントとなる作品が映画『7回』です。
子どもへの暴力をテーマにした本作品。きっと、子どもへの関わり方を考えさせられる映画となるでしょう。
【新作】
— SAMANSA【公式】 (@samansajpn) June 3, 2024
大人しくて冒険心を持った少年エリオ。ある日、家庭教師の自宅で待つエリオは、先生の愛人である女性と遭遇する。彼女は、聞き上手なエリオに悩みを打ち明ける。だが、そんなエリオにもまだ誰にも打ち明けられていない話があった。「実は、僕…」
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求めるのは「美」と「自然」
クリスティン・ヴィーダーカー監督
今回まず紹介したいのが、映画『7回』の監督を務めたクリスティン・ヴィーダーカー氏です。

映画学校卒業当初から、発表した作品が高い評価を受け、学生アカデミー賞 (オスカー) の最終候補にも選ばれた実績を持ちます。やがて、彼女はカンヌの若手監督賞にもノミネートされ、今ではEDI(スイスの商業映画の公式賞)の審査員も務めているとのこと。
高い評価の要因となっているのは、彼女が引き出す俳優の自然さと美的センス。演技の自然さをどのように生み出せるかに注力し、映像の美と俳優の繊細な感情を作品におさめることを追求しているそうです。
映画『7回』は、クリスティン・ヴィーダーカー氏がある脚本を手がけている最中に聞いた、実話を基にした話。
だからこそ監督はエリオ役の少年を中心にキャスト陣と向き合うことを徹底しました。彼らに心の傷を負わせないように、キャストが納得するまで何度も説明し、俳優が安心して演技ができる環境を整えたそうです。
長年の社会問題に一石を投じる映画であると共に、彼女の特色も存分に発揮された作品と言えますね。
注目すべきエリオの「家庭環境」

今回、映画のテーマになっている子どもの声や訴え。
実は、冒頭に映し出されたエリオと母親の関係が、重要なポイントになっています。
注目すべきはエリオの家庭環境です。冒頭の話からわかるとおり、エリオの家庭環境は決して恵まれたものではありません。それは、以下の部分から読み取ることができます。
・母は夜勤で忙しい
→親子で会話をする時間が少ない+愛情不足
・電話に出られない
・朝食がウインナーと少しのおかずのみ
・学校に馴染めずに、家庭教師に頼っている
・破れた靴下を履いている
愛情不足で育った子どもは、自分の存在意義を感じるのが難しくなり、心を許した人に依存してしまう傾向があるようです。これは、まさにエリオと家庭教師・ジェラルドの関係といえるかもしれません。

さらに、恐ろしいポイントが一つ。
母親自身は、エリオの様子を見て「エリオとの関係が上手くいっている」と思ってしまっている点です。
母親は大変な夜勤生活のなかでも、確かにエリオを愛しています。母親がエリオを気遣う言葉やスキンシップからも、そんな一面を感じることができますね。
しかし、エリオは間違いなく不満やストレスを抱えています。そして、彼はネガティブな感情を素直に表に出すこともできません。
このように「子どもと親が持つ認識の違い」は、作品が伝えたい怖い部分ではないでしょうか。
きっと現代は、こういった「親の勘違い」がありふれた家族環境が多いのかもしれません。
ジャムとジュースに隠された秘密

冒頭から、作品の世界へ没頭させられる意味深なシーンがありましたね。それが、エリオがハエを捕まえるシーンです。
実はこのジャムとジュース、ハエの関係性がこの映画の世界観を表していることがわかります。
まずは、エリオがジャムを使ってハエを捕まえる場面。
これは、ジェラルドによる性愛という甘い誘惑の中、エリオが秘密に閉じ
込められる境遇と似ています。
しかし、エリオはハエをコップに閉じ込めることを残虐な行為だと認識をしていない様子。それは、きっとエリオもハエと同じ立場だからです。
そして、もう一つ注目したいのがジュース。エリオは、家では簡単にジュースを飲ませてもらえません。しかし、ジェラルドの家では飲みたいジュースを誰にも邪魔されることなく飲んでいました。
そして同時に、ジェラルドの愛人が涙を流していた際、彼女にジュースを勧めていましたね。
このことから、ジャムやジュースなどの甘いものは、エリオに対する甘い誘惑そのもの、そしてまた彼の精神安定剤として描かれていると考えられるのです。
エリオのSOSを察知できるか?

この映画のクライマックスは、間違いなくエリオが秘密を打ち明けたシーンでしょう。
エリオの秘密とは「ジェラルドと性的関わりを持っていること」です。
ジェラルドの愛人に、エリオは遠回しながらも「ジェラルドなんだ!」と打ち明けている場面がありましたね。
ちなみに、エリオがジェラルドの愛人に秘密を打ち明けた理由も「2人が誰からも愛を感じられない宙ぶらりんの存在」である共通項があると考えられます。
また筆者の意見として、エリオが誰かに秘密を打ち明けたのは、おそらくあの場面が初めてだと考えます。
その根拠として注目したいのが、エリオが秘密を打ち明けた瞬間から最後までのくだり。まず秘密を打ち明けたエリオの様子は、笑いながらサラッと発言をしていました。
客観的には「犯罪」とも言える出来事を、エリオは深刻な事態とも思っていないのです。間違ったことをされていると気づいてもいない、でもなんだか変かもしれない・・・。
この発言こそ、子どものSOS(助け)であるということです。
『もし、あなたがジェラルドの愛人の立場にたったとして、エリオの言葉を信じることができますか?』
きっと、子どもの冗談だと思ってしまう・・・。
笑ってごまかしてしまう。

映画『7回』の醍醐味は、きっとここにあります。
実際にジェラルドの愛人は、エリオの発言に対して笑って受け流してしまうのでした。まさに、エリオの言葉を受け入れていない状態です。
仮にジェラルドの愛人が、エリオの言葉を受け入れて信じるのであれば、物語はジェラルド自身が愛人から追求される展開に進んでもおかしくないでしょう。
しかし最後のジェラルドと愛人のシーンは、まるでエリオの秘密がなかったかのように、エリオの存在そっちのけでキスをしています。これこそ「子ども(エリオ)が大人(愛人)に話を聞いてもらえていない」証拠です。
映画の重大なメッセージに「子供が誰かに話を聞いてもらえるまで助けを求める回数は7回」とありますね。
実はこの裏メッセージとして「大人は、子どもから7回も助け(SOS)を示されないと気づかない」があると考えられます。
エリオとジェラルドの愛人に起きた一連の出来事にこそ、本作品の重要なメッセージが隠されているのでした。
『7回』では手遅れ・・・

自由奔放で物事の良し悪しがわからない子ども。もしかしたら、エリオ自身はジェラルドとの関係が、決して悪いものだと思っていなかったかもしれません。むしろ、愛情を感じていたくらいに・・・。
だからこそ、親は子どもに対して真摯に耳を傾けてあげる必要があります。
『7回目』ではなく『1回目』で気づいてあげるからこそ、取り返しのつかない暴力や虐待を防ぐことができるのです。
親の自己満足で愛情を注いであげるのではなく、子どもと真正面からしっかり向き合ってあげること。
映画『7回』は、改めて子どもへの向き合い方を考えさせてくれる作品でした。
ぜひ、大切な子どもへしっかり耳を傾けてあげてください。
映画『7回』はSAMANSAで公開中です!ぜひご覧ください。
https://www.samansa.com/videos/1775/play
<映画ライター/ shuya>
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