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ーインドネシア最恐作品の裏側に迫る・・・!ー映画『体裁の裏に』

近年、着実に成長を続けているインドネシアの映画産業。実は、インドネシア映画では、最恐とも呼べるであろう作品があるのを知っていますか?

その映画とは『インドネシア共産党9月30日運動の裏切り』です。

インドネシア史上、最も驚異的なプロパガンダ映画ともいわれるこの作品。今でも人々に語り継がれるほど大きなインパクトをもたらしました。

実はSAMANSAでは、『インドネシア共産党9月30日運動の裏切り』の制作背景を語ったドキュメンタリー短編映画を配信しています。その作品が、今記事でご紹介するショート映画『体裁の裏にです。

「9月30日事件」の歴史を知るとともに、映画『体裁の裏に』の恐ろしさを感じてみてください。



<作品時間> 10分05秒
<監督> Adlino Dananjaya
<あらすじ>
インドネシア史上に残るプロパガンダ作品『PPG30SPKI(インドネシア共産党9月30日運動の裏切り)』。インドネシア映画の歴史的作品として知られるが、その制作背景は一体どんなものだったのか!?

当時、特殊メイクアップアーティストとして制作に携わっていたスバルカ・ハディサルジャナ氏。大学生の頃、ある一通の手紙を受け取ったことで彼の人生は動き始める・・。

彼はどんな思いで、映画の制作に手を出したのか?
当時の状況と思いが、ドキュメンタリー映画を通じて赤裸々に語られる・・・!


映画『インドネシア共産党9月30日運動の裏切り』がスハルト独裁政権を加速させた?

冒頭でもご紹介した映画『インドネシア共産党9月30日運動の裏切り』とは一体どんな作品なのでしょうか?

作品を知るのにポイントとなる人物が2人。インドネシアを大きく動かした大統領「スカルノ氏」と「スハルト氏」です。

1960年代初頭のインドネシアは、冷戦下にあり国内政治が不安定な状態でした。当時、スカルノ大統領下では3つの主義が対立しており、なかでも共産党(PKI)は急速に力を伸ばしていたそうです。

そんな国内政治のバランスが崩れるなか大きな事件が勃発。1965年9月30日、国軍幹部の将軍ら7人が、共産党(PKI)系軍人に殺害される事件が起きました。この事件が、今でも語り継がれる「9.30事件」です。

そこで名を挙げ始めたのが、後に長期政権を確立したスハルト氏。彼が中心となり「9.30事件」を鎮圧させると、徹底的に共産党主義者を批判しはじめます。

結果、スハルト氏は「9.30事件」を利用することで、スカルノ大統領から権力を奪い独裁政治を確立。

そしてスハルト大統領の独裁政治をきっかけに、インドネシアでは「悪は全員共産主義者だ」「共産主義者を撲滅せよ」という暴論が広がってしまうのでした。

やがて、共産党(PKI)のメンバーやその支持者とされる多くの人々が処刑され、最終的には犠牲者数が約200万人まで増加したと言われています。

wikipediaより

映画『インドネシア共産党9月30日運動の裏切り』は、そんなスハルト大統領の独裁政治で描かれた、徹底的な共産主義を批判するために制作された映画です。

当時のスハルト大統領が、国民に「共産主義批判」を賛同させるために制作したと言っても過言ではないのです。

そこで重要なのは、映画は「政府が認めた正史」に過ぎないこと。
実際「9.30事件が起こった本当の真実」は不明確なままなんです。

何が正しいのかわからぬまま、当時声を挙げたスハルト氏の独裁政権によって「共産主義=悪」と考える国民が増えてしまいました。

そして、映画『インドネシア共産党9月30日運動の裏切り』は「共産主義=悪」を拡散させる手段として利用されたに過ぎない・・・。

後世に語り継ぐべき正史として、インドネシアでは全国民へ映画を見るように義務づけされたことも。今では「あまりにも残酷すぎる」「恐怖に陥る」と世界が注目する凄惨な歴史として人々に記憶されています。

あくなき追究心がもたらした、世間への多大な影響

当時、特殊メイクアップアーティストとして『インドネシア共産党9月30日運動の裏切り』の制作に関わったスバルカ・ハディサルジャナ氏。

映画が「恐ろしいもの」と評されるのも、スバルカ氏が生み出したリアルな死体が大きな要因だといえるでしょう。

映画『体裁の裏に』で見えてくるのは、スバルカ氏の追究心。作中でも「映画が真実かどうかは私にかかっていた」と発言をしているように、彼の追究心こそが大きな映画へ発展させたとも考えられます。

スバルカ氏も「9.30事件」を目撃した人物のひとり。劇中では子どもの頃、もはや原形のない人間の死体を見たと語っていましたね。

そんな、トラウマにもなりかねない光景を目の当たりにしてきたスバルカ氏。しかし、彼はその体験こそが「大きなインスピレーションとなった」と言っています。

彼が本当の真実を求めて制作した死体こそ、人々の間で大きな共感を生み出したのでしょう。

映画『体裁の裏に』で語っているのは監督でも俳優でもありません。制作に関わったひとりの特殊メイクアップアーティスト。

スバルカ・ハディサルジャナ氏の生み出した物が、どれだけ大きな影響をもたらしたのか。

そんな一面を感じることができますね。

「映画」という映像作品の危険性と重要性を知る

今もなお世界が注目する「9.30事件」。
1984年に公開された『インドネシア共産党9月30日運動の裏切り』は、インドネシア国内で、当時約70万人の観客を動員しました。さらには、全国の学校で繰り返し上映会が行われ、毎年9月30日に国営テレビ放送局でも放映されていたそうです。

インドネシアのある調査によると、「9.30事件」についてどこで学んだかという質問に、90%が映画と回答したそうです。さらに、そのうち97%が『インドネシア共産党9月30日運動の裏切り』を観ていたことが判明しました。

この結果からわかるのが「映画」という映像作品の危険性と重要性。「9.30事件」のように、語り継がれるべき歴史を継承できるのは、きっと映画の力でしょう。 

しかしスハルト氏が打ち出したように、自身が思い描くように歴史を歪曲させて映画を作れば、それを本当の真実かのように人々を信じさせることもできてしまう・・・。

また、スバルカ氏からみれば「ただ、良い作品を作るために追究した」ことが、まさか「独裁政治の一端を担っていた」という恐ろしさもあるはず。

映画『体裁の裏に』では、そんなインドネシア最恐作品の怖さが語られているのです。

あなたは、このショート映画を鑑賞して何を感じますか?

<映画ライター/ shuya>

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