読んではいけない本「監視資本主義」を読んでしまった
とうとう読んでしまいました。図書館で借りたので、2週間の通勤時間内で約24時間のオーディオブックを聴くというチャレンジ。物凄い情報量のハーバード・ビジネススクール教授、ショシャナ・ズボフ氏の本を150%のスピードの英語で聴くという無茶っぷり。途中、クラクラ来ましたがどうにか一通りは聴けました。
さて。その内容を超要約してみます。もう返却してしまったので私の記憶ですが。
iPodがデジタル化した音楽を商品にして以来、新たな市場が生まれた。フォードの自家用車が一般大衆に普及していったように。しかしインターネット時代の需要は全く新しいものだった。2000年頃にインターネットバブルが弾け、テック企業の生存競争が激しくなる中、グーグルは広告収入という業務形態を作り上げた。オークション形式でより効果的な広告スポットを売るために、ネット上の個人情報を分析し始めた。2001年の同時多発テロ事件以来、米国政府の各機関はその情報にアクセスするようになった。これで合法的に個人情報が筒抜けになる時代になった。当然、他のテック企業もこれに飛びついた。そしてみんな気が付いてしまった。
個人情報がとんでもない市場であることに。
そして第2章でフェイスブックからルンバからスリープナンバーベッドから…具体的な説明になっていきます。特に印象深かったのがグーグルアースね。ヨーロッパも日本も抵抗したけれど、結局丸見えになってしまった。ドイツはグーグルアースの車がネットワーク情報まで取り入れている事を突き止めたのに。グーグルのウェアラブルを付けた人が歩き回っているわけだから、もう建物の外も中もプライバシーなど無い。家の中も個人情報搾取できるツールだらけ、アプリだらけ。部屋の見取り図から呼吸まで丸見えだと。
私たちの行動は資源みたいなものになってしまった。
コロンブスが勝手に、これは私が見つけた資源!私の物!と宣誓してやりたい放題だったように、テック企業が無抵抗な個人の情報を資源にしてしまっている。
マジやめて。怖い。泣
読んではいけないと言った理由です。
で、仕方ないじゃん。それのどこが悪いの?便利になるじゃんよって思ったあなた。問題はここなんです。第3章。
全体主義というものを思い出してください。イタリアのファシズム、ドイツのナチズム、そして日本もやらかしています。ソビエト連邦や中国のような社会主義国も全体主義と呼ばれる時がありますね。個人は国家のために従事するもの、個人の権利よりも国家の利益という考え方です。全体主義という言葉が出てきたのは1920年代のようですが、この元になっている学問に行動分析学があるんです。バラス・スキナー(B.F. Skinner)というアメリカの学者が築いた理論です。
行動分析学ってなんだというと、人間や動物の行動は条件付けで操れるってやつなんです。
私は実はこの辺はそこそこ詳しいんですよ。自閉症児の母なんで。療育ってこういうのを使うんです。もちろん療育にはポジティブな強化(褒美)を使いますが、昔はネガティブな強化(罰)も割と使っていたわけです。ちょっと怖いでしょう?色んなテクニックがあって、これをマスターしている人は色んな事ができちゃうんですよ。
ズボフ氏の本によると、全体主義の背景にはこれがあると。人間を個として見ていない、操れるものとしてみている。そしてこの流れを引き継いでいるのがMITのメディアラボの科学者、アレックス・ペントランド氏という方だそうです。テクノロジーを使ってスキナーの理論を完成させた社会を模索している方のようです。そして最近のテック企業はこれにかなりの影響を受けていると。ネット使ってシェルどん状態にすることなんて簡単だと。
やめてよもう。
やっぱこの辺、ボストン来たよ。スキナーもハーバードだし。そしてそのスキナーを大批判したのも、MITのノーム・チョムスキーってわけですよ。2人ともペンシルバニア生まれだけれど。
全部繋がってしまった。ズボフ先生助けて。
ズボフ先生は、こういった監視資本主義のテック企業をInstrumentarian(道具主義者)と呼んでいます。そして中国の場合は政府がこれをやっているわけで。彼らは負の強化もするからもっと怖い。
今の若者はもう隠れるところが無いくらい監視資本主義に晒され、精神的に疲弊しています。希望があるのは、少なくとも若者は、アートやファッションで監視資本主義に対する批判を表現し始めているそうです。
私はもちろんチョムスキー派です。人間ってそんなに簡単にコントロールできるもんじゃないです。
自閉症児育ててりゃわかる。
発達障がいはスペクトラムという見方がありますよね。人間って多かれ少なかれ、こういうもんなんだと思います。そしてこのランダムさは予測不能。そしてこれが人間社会で大事な機能の一部なんだと思うんです。きっと他の動物もそう。
つまり多様性。
今の社会が多様性を叫び出したのも偶然ではなくて、自然な防衛反応ではないでしょうか?この本は2018年の出版ですが、ますますこの流れは強くなっている気がします。
さてここでお気づきの方もいるかもしれません。
先日、カマラ・ハリス氏の本とJDヴァンス氏の本を元にした映画を紹介しましたが、今回の大統領選は民主党 vs 共和党、リベラル vs 保守とかいう話以上の分かれ道なのではないでしょうか。
この記事でこの本のポイントが良くわかります。