血の繋がらない保護猫姉妹が、家族になるまで
これは、元捨て猫と、多頭飼育崩壊レスキューされた猫の、血の繋がらない姉妹のおはなしです。
姉をあねこ、妹をいもこ、という仮名にして、少しお話をさせてください。
あねこは、捨て猫でした。
ひとりできょとんと段ボール箱に入っているところを、保護されたそうです。
譲渡時のFIV(猫エイズウィルス)の検査結果は擬陽性。後日、検査をし直して、陽性が確定しました。
FIV陽性の猫は、りんご猫と呼ばれます。
兄弟がいたはずなのに、この子だけひとりで捨てられていた理由は……いえ、これは少し勘ぐり過ぎなのかもしれません。
FIV陽性でも、ストレスなく生活するしかない。それは他の猫と同じだよね。と、変わりなく、日々を一緒に過ごしました。
あねこは野生の目つきをしていました。
神経質で、抱っこも、爪切りもなかなかできない。膝乗りなんて不可能。懐かない。噛まれて痛い。加減が甘い。
1年経って、「この子はもう懐かないだろうなあ。まあいいか」と思っていた頃、急にお尻を上げて「尻を叩け」と訴えてきて、その頃から何故か急に人間に懐き始めました。
さて、あねこがうちに来て1年と少しが経った頃、いもこがうちにに来ました。
いもこもFIV陽性のりんご猫。
何回も何回も譲渡会に参加しますが、その度に人形のように固まって、なかなかご縁がなかったそうです。
うちに来ても、何日間もケージの隅でスマホのバイブレーションのようにブルブルと震えていて、本気で心配しました。
いもこは、多頭飼育崩壊からレスキューされた子です。人間が苦手なようで、あねこにだけ心を開こうしている様子でした。
一方のあねこは……あねこは、猫とのコミュニケーションを知りません。
あねこは、おそらく、乳離れしてから捨てられました。
乳離れするまでは兄弟と過ごしていたはずなのですが、そんな昔のことは忘れて人間と共に育った結果、面白いことに、人間風のコミュニケーションを取ります。
いもこがお腹を出して「あそぼう」とアピールしても、あねこは唸ります。キャットタワーの高いところから、ひたすら睨みつけます。
そんな風に、いつまで経っても、2匹は仲良くなりませんでした。
人間としては、血みどろの喧嘩をしなければ、まあ問題ないのですが……。
いもこは、先住猫がいない家庭では心を開けなかった子だと思います。
猫の中の生活が、彼女にとっての普通なのです。
でも、一方のあねこはこんな感じで――。
あねこもいもこも、人間や親兄弟と共に幸せに育っていたら、こんな食い違いはなかったでしょう。
彼女たちの生い立ちに思いを馳せました。
いもこは、あねこから非常に冷たい対応をされても、あねこと仲良くなることを諦めませんでした。
そっと付きまとい、空気を読んで挨拶して、唸られたり攻撃されたらすぐさま引き下がります。
キャットタワーではいつも、あねこが上、いもこが下。いつもあねこを観察して、さりげなく近くに行きます。悪く言えば、ストーカーです。
耐え切れずアタックして、あねこにしばかれることも多々。
「そんなに冷たくされても寄り添うのか」と、人間はみんなその粘り強さに驚いていました。
あねこといもこが出会ってから、1年と少し経った、今。
あねこは人間が大好き。爪切りも抱っこも嫌いだけど、「仕方ねえな」という感じで、なんとか許してくれます。
相変わらず、人間風のコミュニケーションを得意とします。人間と鳴き声で会話さえします。
いもこが来て大きく変わったのは、噛みつき癖がなくなったこと。
いもことプロレスをして、「噛まれたら痛い」とようやく分かったのかもしれません。
いもこも大分人間に慣れてきました。
あねこが人間と関わっているのを、陰に隠れてそっと見てきた過程があります。
抱っこは恐怖を覚えるようなので、強いません。爪切りは……獣医さんでやってもらいます。
じっと人間を観察するようになりました。撫でられるのが好きで、体や頭を摺り寄せてくれることも増えました。
2匹の挨拶の頻度は上がりました。当初、あねこがすぐに手を出して、挨拶が本当にできなかったのです。
ちゃんと、追いかけっこやプロレスもします。
あねこが、いもこを邪険にしたり、冷たくする頻度が下がりました。
2匹が出会ってから――。
あねこは、ほんの少し、猫のコミュニケーションを覚えました。
いもこは、少し人間に慣れました。
2匹は、今日も、70 cmくらいの距離を取って、寄り添って?います。
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