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CS夏祭り2024の勝手な感想戦 〜エクスパンションに対するCSの役割について〜

こんにちは。UPWARD CPO兼CCOの剣持です。2024/8/26に、株式会社UPDATA様、CSHACK様共催の「CS夏祭り200人大交流会」に参加してきました。当初200人予定だったところ、応募が殺到し最終的に230人まで拡張したとのことで、大盛り上がりでした。コンテンツは素晴らしくCS観点で非常に学びが多かっただけでなく、イベント運営の観点でも大変勉強になりました。

さて、イベントのメインセッションは、山田ひさのりさん、丸田絃心さん、高橋歩さんという豪華な面々で既存顧客のエクスパンション(アップセル、クロスセル)についてのパネルディスカッションでした。

事前アンケートにおいて、既存顧客のエクスパンションを組織運営の課題として回答されていた方が46%と最も多かったことがテーマとして取り扱われた背景とのことでした。昨今、各社のCS組織において定着化や利用継続率だけでなく、エクスパンションへの貢献が求めらるようになってきているのがトレンドですが(背景は割愛します)、CS界隈で実際に意見交換したり公開されているnoteからの印象の通り、具体的な取り組み方については皆様悩まれていると言うことを改めて実感しました。

せっかく参加させていただき、重要な論点に関して考える機会もいただいたので、私もCS業界のナレッジ蓄積に多少なりとも貢献できるよう、パネルディスカッションで取り扱われていた論点のいくつかに関して、考え方、UPWARDでの取り組みをnote化し、共有してみようと思います。

論点1:エクスパンションはCSがすべてやる?どんなチーム体制、役割分担が良いのか?

この後のすべての論点にも共通するのですが、役割分担や、KPI設計といった戦術(手段)の議論の前に、プロダクトをどうエクスパンションしていくかという戦略・方針があるべきであり、これ次第で適切な手段が変わってくると思います。逆に戦略、方針なくして、カスタマーセールスを置くべきか、エクスパンション ACVをKPIにすべきかといった戦術は最適化できないと思います。

役割分担を決定するにあたっては、定着(およびアウトカムの創出)から、戦略的に狙っているエクスパンションへの連続性の強さがポイントと考えています。連続性とはつまり、定着度合いがどの程度エクスパンションに必然的に繋がるかです。山田さんから言及されていた通り、エクスパンションは定着状況が良い程しやすいです。ただし、丸田さんから言及があった通りで、その連続性の強さは、プロダクト特性や課金スキームにより大きく異なります。例に挙げていたような従量課金型のサービスにおいて、利用量が上がることで自然発生的に獲得できるエクスパンションは連続性が比較的高いと言えます。一方で、異なるプロダクトを別部門に販売するようなエクスパンションは、定着状況が良いに越したことはないですが、それだけでエクスパンションするわけではなく、新規コンタクト開拓や新たな価値訴求が必要となるため、連続性は比較的弱いと言えます。

連続性が強いエクスパンションを戦略的に狙うのであれば定着すればエクスパンションするので、あえてエクスパンションに特化した役割を配置する必要性は低いです。一方で、連続性が弱いエクスパンションを狙うのであれば、コンタクト開拓、提案、交渉、クロージングといったセールスファンクションの必要性が高くなり、CS単独で担うには、業務量や専門性といったケイパビリティの観点で難しくなってくるため、エクスパンション担当を分ける必要性が相対的に高くなってくると思います。

UPWARDではどうしているか?

UPWARDでは、エクスパンションについては最終的な売上責任はAE(いわゆる営業担当)が担っており、CSはAEと協業してエクスパンションに間接的に貢献するという役割分担になっています。(具体的なKPIは後述します)

これは、UPWARDが戦略的に狙っているエクスパンションは、エンタープライズ向けのLand and Expandや、未契約プロダクトのアップセル、他部門(他事業)へのクロスセルといった、セールスファンクションを必要とするものが多いためです。

論点2:どんなKPIが最適?

この論点もプロダクトをどうエクスパンションしていくかという戦略・方針による部分が大きいと思います。エクスパンションの戦略、方針をベースに、論点1で言及した役割分担、体制が決まり、役割に求められる成果によって最終的にKPIが決まってくる、というものかと思います。

また、(これはベーシックな考え方になりますが、)KPIに設計に関しては、KGI(ここではエクスパンション ACV)から逆算されておりKPIを達成することによりKGIの達成に寄与するというロジックがあることは大前提ですが、加えて、KPIに基づいて各担当がアクションプランに落とし込めるかや、KPIの達成が一定程度各担当のアクション結果によりコントロール可能であることが 重要です。裏を返すと、KPIを持つメンバーがKPI達成のために何をしていいのかわからないとか、自身のアクション以外の不可抗力で達成未達が決定するような状態であれば、KPIを設定したとてメンバーのアクションに繋がらないので設定の意味がないものになってしまいます。

UPWARDではどうしているか?

UPWARDでは、まず顧客担当を持つ全CS(つまり、CS Opsやテクニカルサポートを除く)共通してエクスパンションのパイプライン(商談)創出金額をKPIとしています。

前述した通り、UPWARDが戦略的に狙っているエクスパンションはセールスファンクションが一定程度必要であり、エクスパンションACVの最終責任はAEが担っています。つまり、商談推進、クロージングに関してはCSMのコントロール度合いは比較的小さいためエクスパンションACVまでは担わせていません。一方で、パイプラインの創出に関しては、定着化の活動の延長で担当顧客からニーズを掘り起こしていくことは可能であり、CSMとしてのアクションプランに落とし込むことができ、達成のコントロール度合いも比較的高いため、このような設計にしております。つまり、パイプライン創出はCSMがコミット、クロージングはAEがコミットという役割分担になっています。

さらに、エンタープライズ担当のCSは、Land&Expand案件のExpand成功率(受注率)もKPIにしています。UPWARDは(一般的ですが)エンタープライズ領域ではLand&Expand(=小規模契約から拡大していく)戦略をとっております。Land&Expandを成功させる、すなわち、狙ったタイミングと規模でライセンスをExpand(拡大)していくためには、Land状態(小規模契約)の顧客の早期定着、サクセスが重要な条件であり、CSMの寄与度は大きいためKPIに設定しています。逆に、そもそもLand案件を創出すること自体はCSMにはコントロールできないため、Land&ExpandもACV自体はKPIにはしておりません。

論点3:どんな人材が必要?

繰り返しになりますが、これもプロダクトをどうエクスパンションしていくかという戦略・方針次第であり、戦略、方針にアラインする人材採用をしていくということかと思います。

CSにどこまでセールスファンクションを持たせるかによりますが、定着と狙っているエクスパンションの連続性が高い場合や、売上責任までは持たせないなど、CSに主に求める役割があくまで定着部分に寄るのであれば従来通りCSとしてのスキルや成長性で判断して良いと思います。つまり、CSのコアコンピテンシーとされている(名著、カスタマーサクセスプロフェッショナルの中で定義されている)、知識レベル、課題解決力、関係構築力の3点において、組織方針やプロダクト特性としてどの観点をどれだけ重視するか、どのレベルで備わっているか、成長が見込めるか、といった観点で採用することかと思います。

一方で、CSにセールスファンクションを求める場合は、定着だけではなく、プロダクト特性に即したセールスとしてのスキルセットが必要となってきます。つまり、セールス部門でジョブディスクリプションに定義しているようなスキルを(も)有している方をCSで採用する、ということになるかと思います。

UPWARDではどうしているか?

UPWARDでは論点2までの通りで、セールスファンクションの踏み込んだ部分まではCSに求めていないので、CSのコアコンピテンシーをベースに採用を行っています。ただし、エンタープライズ領域のLand&Expandに関しては現状特に注力しているため、課題解決力の中に包含される、論理的思考力やプロジェクトマネジメント力を高く持つ方は強く求めていたりします。

最後に(感想)

繰り返し言及していますが、組織、KPI、人材といった、戦術、実行の部分はあくまでまず、プロダクトをどうエクスパンションするのかの戦略と方針ありきということかと思っています。

高橋さんが、カスタマージャーニーの重要性や、顧客の成功状態の定義の重要性について繰り返し説明されていたのも近しい観点かと思っており、そもそもエクスパンションまでの道筋、立っていますか?ということなのかと思います。

さて、当社でもまだまだエクスパンションのやり方については探り探りです。各論点で偉そうにUPWARDはこうやっていますという紹介をさせていただいておりますが、あくまで今はこう考えてこうやっていますということでしかなく、毎年ああでもないこうでもないと議論をしながら各種設計をしている状況です。

各社大なり小なり悩みながら、困りながら取り組んでいる部分かと思っておりますので、このようなイベントを開催いただきCS業界での情報共有、ナレッジ蓄積のきっかけとなる場を作っていただいたUPDATA様、CSHACK様には改めて感謝申し上げます。私もこのような発信を通して業界の発展に少しでも寄与できるように邁進して参ります。


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