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軽出版とやらをススメる人たちに言いたいこと(小声で)

私の記事に「スキ」をしてくれた方の記事をお礼に読みにいったら、
こんなことを書かれていた。

読んで、とても心配になった。
たしか、noteではこうして引用すると、引用元のNuts Book Standさんにお知らせが行く。だからいまから書く記事はNuts Book Standさんに向けて書こうと思う。
Nuts Book Standさんの記事自体はとてもよくまとまっていて読みやすく、素敵だ。いままでに書かれた全記事も読ませていただいた。近い将来、書店を開くという夢に向かって努力されている姿も素敵だ。
どうか夢を実現させて、成功して、幸せになってほしいと心から願う。

だからこそ……
以前からずーーーーっとがまんしていた、仲俣暁生という人の提唱する
「軽出版」
について思うモヤモヤを、とうとう書かずにいられなくなった。

最初に断っておくと、「軽出版」という考え方自体には、私は賛成だ。
というか、私たち文フリ民が長らくやってきたことに仲俣氏が名前をつけてくれて、
「そうか、これ『軽出版』って言えばいいんだ」
と納得できたことに対しては、私だけでなく多くの人が感謝していると思う。

ただし、
仲俣氏ご自身もはっきり書いているように、
軽出版で、基本、儲けは出ない。
そこ期待させすぎたら、罪なんじゃないかと思うんですけどどうでしょう。


モヤモヤその1:ひとりでできるもん?

昨年(2024年)12月29日に高円寺で行われたというトークイベント、
「物書きのための『小商い』の技法」。
私は行っていない。
だからNuts Book Standさんのレポートを、3名の登壇者の方々の発言を記録したものと信じて、ここに引用する。
Nuts Book Standさんが発言者を明記してくれていない場合は、3名のうちどなたの発言か私にはわからない。次の発言もそうだ。

執筆、編集、デザイン、進行管理、入稿、営業、広報、経理(集金)等々をひとりでできれば、中間業者がいなくなるため採算面でも取り分がかなり多くなります。

うん……

これ読んで、そうか! って納得している人、どれくらいいるのだろう。

私は営業・広報のプロフェッショナルを、心から尊敬する。
私にはできないから。
デザインも、私がCanvaで見よう見まねでこしらえるのと有能なプロのデザイナーが創るものは、なんでここまで違うんだろう?!と感嘆する。
まあ、へなちょこでもデザインは楽しい。編集も楽しい。
じつは誤字脱字探しが数独と同じくらい好きだったりもする。笑

でも、営業が辛い。
ものすごく辛い。
吐くくらい辛い。

私が極度に人見知りですぐ心臓バクバクする、という点をさしひいたとしても、
皆さん、自分で自分を売りこむのって、辛くないんですか?
みんなそんなに自分のこと大好きで、楽しいの? こんなに恥ずかしくて苦しいの私だけ?
プラス、本当に不思議なのは、なぜか編集者や書店主という人々は、
原稿や自作の本を持ちこんでくる人間を、
かならず、自分より馬鹿だと信じて疑わない。
のですよね。

「うん、うん」とにこにこされる。何も聞いていない。
幼稚園児か、さもなくば百歳越えの老婆みたいな扱い。
手を引いて横断歩道を渡してやってる、的な。

ここあと30行くらい書いたけど、長くなるから削ります。

そこまで地獄でなくても、例えば通販が、そよとも動かないとき、
文フリのブースの前を、人が目をそらせて通りすぎていくとき、
私は心の中で、頭から手桶で水をかぶりながら叫んでしまう。
「お願い、誰か、私の代わりに売って!」

こんなにボロボロになるくらいなら、プロを頼んで代価を払ったほうが、
少なくとも私の場合、はるかに採算があう。

モヤモヤその2:足は二つ。わらじは何足?

小商いにはたくさんの工夫の余地があるんだなと思いました。小規模だと自分でコントロールできるし、失敗してもいい身の丈チャレンジを何度も繰り返せるのが魅力です。そんな工夫の数々をあげておきます。
《3足のわらじを履く》
稼ぎ口の組み合わせ。まさにそれで悩んでいます。作家や本屋だけで生活のすべてを成り立たせるのは至難の業。何より時間がかかります。仲俣さんは、著者(文芸批評)・編集者・大学教授の3足のわらじを履いているんだそうです。(中略)私はどんなわらじを何足履こうかな。その組み合わせ方に各自の個性が出そうですね。

いや……、
疲れますよ?

個性が出る前に、疲れますよ?

「失敗してもいい、何度も繰り返せる」「身の丈チャレンジ」に、
大学教授が入っている段階で、
かつて大学で教壇に立っていた私としては、絶句です。

大学教授、失敗できないですよ?

ここあと40行くらい書いたんですけど、なんかどうでもよくなったので消します。
ただ、それこそ夏目漱石先生は、どれだけやっても毎週何日徹夜をくりかえしてもどうしても完璧にはならない予習地獄からノイローゼになりかけて東大教授を辞めた(そして作家に専念した)、という話だけ書いておきます。

そもそもその1で、全タスクをワンオペする前提にしてましたよね。
その上副業。
寝る時間、あるかな。

演劇人だと、劇団で夢のアトリエを持ったまではよかったけど、その維持費のためにみんなダブルワーク、トリプルワークしてなかなか公演が打てないなんて小劇団あるあるだ。
人間は基本、二足歩行なので、仲俣先生のようにらくらくと何足もわらじをはきこなせる、なんなら大学教授もちょろくこなせる人をデフォルトに設定しないほうがいいと思う。

モヤモヤその3:文フリでどんどん売る! どの異世界の文フリ?

《即売会でどんどん売ろう》
最近は「文学フリマ」の成長が著しいですよね。(中略)即売会だけで生活していけている人も、もういるのではないかという話題も出ました。

いやいや。笑
いやいやいや。笑
どんどんて。笑

「もういるのではないか」って。
会場の誰も、変だとは思わなかったんでしょうか。
本当にいるなら、ちゃんとその人を探し出して、その人自身に話を聞いたほうがよくないですか。

「宇宙人も、もういるのではないかという話題も出ました」
それで宇宙人がいるってことにしちゃっていいんですか。
それと同じに聞こえます。

仮にいたとして、いや、宇宙人じゃなく(笑)即売会だけで生活していけてる人が。
そんな才能ある人の話、凡人の私に参考になるのかな。

モヤモヤその4:シェア型書店は無料じゃないよ?

《シェア型古書店を倉庫にする》
そうかぁ。自分の本を返品せずに売ってくれる書店ができるわけですね。自宅の押し入れに眠らせたり、倉庫を借りたりしなくていいかも。

これね。これを、ずっとずっとずっとずっと言わずにがまんしてたの私は。
仲俣氏は、無料で借りているんだよね。
それを前提にするのはどうかと思う。
私は月1万とか2万とか払ってます。普通に借りたらそうです。

「麻人」=「マージン」の誤変換

このお店の場合、マージンは15パーセント。
もちろん私も払っています。棚のレンタル料月額プラス、1冊売れるごとにマージン15パーセント。千円の本1冊売れたら、振り込まれるのは850円。

棚の大きさはたいていカラーボックス1個より小さい。1万円の棚だと単行本10冊置いたらけっこういっぱいだ。
さて、1カ月に何冊売れたら賃料とプラマイゼロになるでしょうか。
1,176円の単行本10冊? いえいえ、その本の仕入れもタダじゃないですよね?
それを何カ月、何年続けられるかって話です。
まして、利益を出す? まして、生計を立てる??
ハードル高い、というより、無理ゲー……

仲俣氏は「売れて売れて、どんどん本を補充しなきゃいけないから面倒で、嫌で嫌でしょうがない」ってウハウハな話をあっちでもこっちでもなさっている。
でも、成功体験しか語らない人を、私は信じられない。
以前、渋谷のブックマーケットに参加したとき、同じお店の棚主仲間さんと
「売れませんねえ」
って嘆きあっていたんだけど、同じマーケットに仲俣氏も出店していたはずだけど私の目が悪かったのか、どこのブースにも長蛇の列は見えなかったですよ。

普通って、なに?

もちろん、軽出版に未来はあると思う。
ただ、いまの軽出版バンザイ的な盛り上がりが、どうにも危ういというか、無責任なんじゃないかと私には思えてしかたない。

あと、悲しいのは、
「出版界」の方々って、本当に特権意識が強いんだなあということ。

「分振り」=「文フリ」の誤変換
「分振り」=「文フリ」の誤変換

親愛なる文フリ民の皆さーん!
私たち、「普通の人」って呼ばれてますよ。笑
「ごく普通の人」って。笑

「学生とか主婦だったりサラリーマン、OLだったりする人たちだったりする」(原文ママ)
だったりする私たちは、「普通の人」らしいです。

普通の女性とか、市民」らしいですよ、私たち。
出版界の方々は、「普通の女性」でも「普通の市民」でもないんですね。

仲俣氏にも驚いたけど、
まわりが誰も止めないのにはもっと驚いた。


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実村 文 (theatre unit sala)
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