Beyond the Musicを受講した日のはなし(第一回 音楽と食)

この日のブログを書こうと思いつつ早3か月。そんなヒマないもの。なんて言ってましたが「あの日なにがあったの?」と先日ツイッターのフォロワーさんに聞かれ、何も思い出せず……。鈍った筆と頭ですが書きかけていた記事を投稿してみたいとおもいます。
今回、3月27日に行われたBeyond the Musicという講座について書かせて頂こうと思うのですが、書きたいことが盛り沢山、下手なくせにけっこうな文字数になりそうです。久しぶりのブログなので温かい目で見てやってください。


応募の経緯と神頼み

まずはじめに「Beyond the Music」とは、ということを書いておきたいと思います。パルコ渋谷店にて2021年から10代の若者向けに開催されている講座で、ざっくり言えば音楽と音楽の周辺にある物事を学んだり探索してみよう。という趣旨の講座です。主催されているのは、WONKのキーボードを担当されている江﨑文武さん。そしてこの回のゲスト講師はゲスの極み乙女。の休日課長さんと、WONKのボーカル、長塚健斗さんでした。2022年第一回のテーマは「音楽と食」。
食といえば、我が家にはパティシエを目指している17歳の次女がいます。次女は身体が弱く、中学生のときに徐々に不登校になり、ほとんど家にいるようになった三年生の夏休み頃から本格的にお菓子作りにはまりました。最初は不器用な手つきで泡だて器を握る普通の子でしたが、ある日「マカロンを作りたい」と言い出しました。マカロンは見た目からしてどうやって作るのかわからない高級菓子、というイメージがあり、しかも材料のアーモンドパウダーが高い。最初は片栗粉でも作れるらしいから作ってみようかと絶対失敗するでしょ?という超初心者モードからスタートしました。案の定失敗続きで、二回目には片栗粉を諦めアーモンドパウダー、三回目にはグラニュー糖ではなく粉糖を買い、六回目には本屋で本を購入、その後十回作っても失敗していたので、しっかりした口金やフラットな天板、シルパンというマカロンが作りやすいシートなども買い揃えていきました。用具は高いですが、私自身が凝り性で人形作家などというものをしているので、家にはさまざまな工具や材料があふれています。娘に「材料をケチりなさい」なんてことも言えず、親子で四苦八苦しながらとりあえずの成功まで漕ぎ着けるという経験をして、次女の中学生時代は終わりました。
通信制高校へ進学した彼女は、マカロンは成功したように見えてたけどまだダメだ!と言っていました。レシピを研究し、原因を追究し、理論的なことを勉強し、100の手順のあるレシピを参考にして作ったりもしていました。今振り返るともうこの時点でただ事ではなかった気がするのですが、私も凝り性なのでそんなものかなぁ…なんて思っていました。
お菓子を作ってはラッピングし、先生や友達にプレゼントする毎日。ラッピングの出費もそれなりですし、インスタに投稿しているスマホの写真を見て物足りなくなり、お手頃価格のミラーレス一丸レフを買い与えました。おそらくこの時すでに、次女の手先の器用さと粘り強さを私なりに認めていたんだと思います。

中学生の頃につくったマカロン
最近のもの

高1で製菓専門学校への入学という道がおぼろげに見えてきていて、ホテルのキッチン見学ツアーなどの調理関連のイベントがあると積極的に勧めていました。そんな経緯もあって今回のイベントの募集があったとき、私の好きなバンドの方が主宰されているという理由も多々ありましたが、食のプロとしても大尊敬している長塚さんのお話を娘に聞かせたいと思い、絶対に参加したいと思いました。

応募フォームに書いたことは、毎日お菓子を作っていること。来年は調理製菓専門学校へ進学予定であり、将来は独立して店を持ちたいので、そのときに向けて音楽と食との関連を知りたい。ということです。
あとは本当に神頼みする毎日。締め切りを過ぎて数日経っても当落がなかったので、応募できていなかったんだという誤解と共に激しく落ち込んでいました。その数日後、あきらめてすっかり開き直った日に当選したというメールが届き、見た瞬間にソファーに座ったまま信じられなくてうずくまり唸っていました。驚きを通り越すとこんな状態になるんですね…。
迎えた当日。緊張しつつも会場に一番乗りで着きました。行くと部屋は開いていて、いつもステージの上にいた方々、とても遠い場所から見ていた方が大きく開かれた扉の向こうに居ました。
「うわーいるーーーー!」(パニック)
というミーハー心100%で扉を何度か通り過ぎました…「推しがいるーーーーー!」しか考えられない低俗な人間となりはて、マジ、もう無理。と思いつつ、娘の受付を済ませて送り出しました。毎回内容が違うのでいろんなスタイルがあるようなのですが、今回は保護者は一緒に聴講できないとのことで、リアルタイムでZoomの動画受講があったので、私はWi-Fiのあるスタバへ移動しました。

好きと好きを繋げる


内容としては、オープニングトークと食文化について主催の江﨑先生からの講義が一時間ほど。ここでは食全般の歴史、肉、魚などについて深掘りした内容や、音楽家でありつつ食の研究もしたロッシーニの話がありました。休憩をはさみ、休日課長さんと長塚さんの講義。お二人とも「好きなことを仕事にする」がテーマになっていました。
休日課長さんの話は、ベーシストになる経緯、その後、好きな料理の本を出版するまでになり、奇跡的に本がドラマ化したことを笑いを交えて楽しく話してくださいました。趣味に対するモチベーションの持ち方のお話を聞くと、休日課長さんはもともと器用だったり頭が良いのだろうとは思うのですが、さらに自分の中から素直に出てくる欲求と結び付けてその才能を伸ばされたのだなという印象を持ちました。次に長塚さんのお話になり、かなり内容は似ているけれど……という前置き。そして子供の頃から好きだった調理をどのように自分のものにしていったかを丁寧にお話してくださいました。小学生の頃から料理の本を見ながらまずは中華を学び、高校生では調理系のバイトを極め(これは凄すぎてみんな参考にならない!と思いましたが、マクドナルドのコンテストにて全国レベルで表彰されたそうです)、大学進学のときには調理の専門学校へ行きたいと希望し親から反対され、一週間ずっと大喧嘩した話。大学生になり本格的なレストランで働くけれど、食べている人の顔が見えないという事にとても不満を感じたことなどを、10代の若者に向けて率直に語っていました。
お二人とも、主体となる仕事は音楽ではあるものの、その他の趣味が仕事に繋がっていき、どちらもより良くなっていく、という内容でした。そのために大切なことは、趣味で培ったことを最終的にはアウトプットするということ。多少の痛みは伴うけれど、自分がやったことを人に伝えることが大切!という話です。さらに、趣味を仕事にするために必要なことは、すでにプロとしてやっている人に話を聞くというアドバイスもありました。知り合いって大事ですね…。そして、ざっくりとまとめてしまいますが、いくつかの好きなことを自分で見つけ、それぞれを深めていき、その共通項を探ることで自分の好きのコアな部分が見つかるのではないかという話でした。私も若いうちにこの話を聞いておきたかった、と心底思いました。

大人になった今思うことは、職種や趣味を持つかどうかは本当に人それぞれで、上記の話を聞いたところでまったく響かない人もいるとは思います。好きなものを見たり追いかけることが好き、受動的なことが楽しい!と思う人もいれば、クリエイティブな趣味に邁進する人もいるし、一生懸命働いていて趣味の時間を作る余裕なんてない!という方も大勢いると思います。でも、未来のある学生に向けて、自分の好きを大切にすると仕事の幅が広がるんだよ、というメッセージを発することはとても大切だと思います。本当なら、就職する前に沢山自分の好きを見つけておけば良いんですよね…自分の「得意」と「好き」があってこその進学、就職であれば、もっとみんな生産性向上するのに…と思います。

「趣味は仕事にするもんじゃない」と育てられた世代の私は、自分の子供達には全く逆の「人生は好きなこと探しの旅」と言っています。高校生というエネルギーやアイディアあふれる時期に何をするべきか?という問いでもあると思います。私は自分が進学校でバイト禁止、お金が無いので好きなものを買わずに我慢する生活でした。勉強から学べることはあるし部活動もしていましたが、家と田舎の高校の往復で見える景色は山だけ。いまどきそんな高校生はいないかもしれませんが、ネットで知る情報だけではなく、アルバイトして好きなものを選んで買って、成功したり失敗したり、自分の経験値でもって社会を知ってくれたらよいと思いました。この「自分の好きを考える」タームが大学受験前にあったほうが人生良くなるんじゃないかと。その意味でも、Beyond the Musicはじめ、いろんな講座を10代に向けて発信するGAKUの取り組みは本当に大切だと思います。学外サークルのようでもありつつ、プロの方の意見も聞けたり直接質問することもできる。最高だと思います。今回初参加でしたが、そんな活動をされているところに本当に感銘を受けました。

授業の話に戻りますと、講義が終わりグループでのワークショップがありました。誰かに向けた妄想レシピを作る。というもので、とても奇想天外なアイディアの宝庫でした。ロッシーニに向けたハンバーガー、1000年後の自分に向けた未来の食事など…、発想力が豊かですごい!うちの子の班では、レシピにはならなかったけれど…と言いつつ、音楽が食になり、食が音楽になるもの、という哲学的な回答が!!登壇者も学生達の答えに関心しきりでした。ゲスト講師に来られた休日課長さんと講義後に少しお話できたのですが、このワークショップがとても良い刺激になり来た甲斐があった!と仰っていました。

講義後の質問コーナー


授業が終わり、各々登壇者へ自由に質問できる時間になりました。
ここで、保護者は教室へ向かうことになりました。

また、講師の皆さんほんとに居るーーー!となったのですが、和やかな雰囲気もあって、目が慣れてきました……(ほんとかな……)
娘は、長塚さんへ質問したいことがあるけど人が多くて諦める、もういいや、とつぶやきました。一緒に居た方に「待ってたら空いてきて順番がくるよ!」とアドバイスをもらい、それでもモジモジしていた娘の背中を長塚さんのほうに押し出すと、娘が意外とすらすら喋りはじめました。三メートル後ろから見守る母、私。
娘の聞きたい事というのは、製菓の専門学校選びに迷っていて、製菓を二年間みっちり習える学校にするか、製菓と調理を一年ずつどちらも習う(ホテルへの就職などに強い)学校にするか迷っていることについて。それを相談したようでした。長塚さんが真剣に話を聞いてくれて、娘に長々とアドバイスをしてくれました。家庭料理とお店の料理は全然違って、塩味がどうなる……などという話や、将来が決まっているか否かではなく、調理もよく知った上でその後のスイーツがどうあるべきかという観点で作れるパティシエが大事だよ、などと言ってくれました。そして最後に「良いパティシエになってくださいね」と力強く言ってくれました。
三メートル後ろでそれを聞いた私、号泣しました。。
いきなりで娘には申し訳ないなと思いつつ、これまでのいろんな経緯が走馬灯のように一気に脳内を駆け巡っていました。娘が大変な思いをしつつも菓子作りに励んできたことがこの瞬間に全部肯定され、娘はパティシエになれるんだな。なりたい、じゃないくて、なるんだ!とストンと思えたんです。これはもう、長塚さんの人徳といいますか、僧侶のような癒しパワーのおかげだと思います。
顔がぐしゃぐしゃのまま(怖い……)長塚さんにお礼を言うと、今からやりたいことが決まっているのは良いことですね。専門学校を出ていてもプロの道では使えない人も沢山いますよ。というようなことも言ってくださいました。やる気があればどんな学校を出てもやりたい事は極められると、長塚さん自信が証明しているんですものね。
そして、余談ではありますがその後に私が作ったWONK人形をお見せして、四人まとめてプレゼント(押しつけ…?)してきました。この日お会いした知人に見せるつもりで持って行ったのですが、もし時間があったらこの人形とご本人で一緒に写真を撮ったら?と言われ、なるほどそれはやってみたいかも。と思い、人形と一緒の写真も撮らせていただきました。こんな形で自分の作品をアウトプットする実践することになり、びびりつつも嬉しかったです。そして快く受け取ってくださった長塚さんの優しさ……ありがとうございます。実は試作品のようなつもりで作っていたので、プレゼントするならもっとちゃんと作ればよかったな。

このときお渡しした人形

休日課長さんともご挨拶ができ、その後あまり時間はなかったものの、主催の江﨑さんともお話することができました。実はかねてからお伝えしたいことがありました。2020年のブルーノート東京でのライブのときに、差し入れさせて頂いた人形がありました。憧れのブルーノート東京での記念すべきライブ。ということで、私自身も気合が入ってしまい、なんとなく作りかけていた人形を頑張ってギリギリで仕上げ、当日箱を買いに行き、なんとかブルーノートさんのカウンターに預けたセロニアス・モンクの人形です。

とてもありがたいことに、人づてに受け取って喜んでたよ、というお話は聞いていたのですが、ご本人に直接受け取って頂いたお礼をすることができました。ちなみにこちらは、音楽レーベルのブルーノートから発売されたセロニアス・モンクトリビュートアルバムに入っている「Cyberspace Love」のミュージックビデオ(山田遼志監督)の人形です。この片足出して乗るポーズ、けっこう無理があって苦労しましたが、カートに乗っているところもかわいくて気に入っています。

モンクと同時にこちらのメルロー人形もお渡ししました

新しいバージョンのモンク人形もこの日お見せしてみたところ、欲しい!と言って頂き、それがちょっと前のめりだったことに本当にびっくりしました。めちゃくちゃ地味な作業を積み重ねて数十年の人形作家人生ですが、作ってきてよかった……という瞬間でした。頑張って完成させます。

そのような出来事を目の前で見ていた次女が、後日言っていました。
「私も自分のケーキの写真、長塚さんに見せたかった……!」

講義後の時間で、学生さん達は作った楽曲を講師に聞いてもらったり積極的に話しをしていました。プレゼンも上手でした。作ったものをプロの方に見せるのはとんでもなく緊張しますが、それも大切だと娘に伝えられたのではないかと思います。
日々いろんな楽曲やコンテンツを生み出しているアーティストの方々にとって、ファンアートとはどうなのだろう、と思っていたのですが、意外と面白いと思って見てくれるのだということを感じられた一日でした。
そしてこの体験が、その後同じくこのBeyond the Musicを受講していた方と一緒に「ラブシュープリームの相関図プロジェクト」にも生かされることになりましたが、これはまた別の機会に書くことにします。。

娘のケーキをここでアウトプット

長々と読んで頂きありがとうございました。




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