2020のゆくえ
b:アイツ、元気にしてるかな?
I:え、部長何か言いました?
b:上司の言う事は聞きなさいよ
アイツよアイツ、覚えてるでしょ?
I:あぁ、あの先輩の事ですか…
b:急にいなくなって、どこで何してんだか
I:さぁ、そもそも生きてるかどうかも
わからないじゃないですか
b:さすがにどこかにはいるでしょ、
連絡とってないの?
I:とってるわけないでしょ!
今さら何話すっていうんですか
b:いや、けっこう仲良かったから…
I:もうあの人の話はいいですよ、
酒がマズくなる…
b:そっか、まぁあなたは一番の被害者だからね、
ゴメンなさいね!
I:いや…大丈夫です
――――――――――――――――――――――
I:部長、お先に失礼します、
ごちそうさまでした!
b:えぇ、また明日
b:さてと、アタシも帰る…
いや、1人でもう一杯いこうかな
b:!?
ねぇ、ちょっと待って! あなた…
Z:…部長?
b:やっぱり
久しぶりね、元気にしてた?
Z:……
b:それより、何か言う事あるわよね?
Z:……
b:おい! 黙ってないで何とか言いなさいよ!
Z:……せん
b:え?
Z:すみませんでした!
b:謝って済む問題じゃないのよ!
Z:"何か言う事"って謝れって事じゃないんですか?
b:そうよ!
Z:だからまず謝るべきかなと…
b:確かにそうね!
Z:相変わらずですね…部長は
b:4年くらいじゃ、人間なんて変わらないわよ
Z:あれから4年ですか…不思議な感覚だな
b:それに、アタシに謝ってもらっても仕方ない
一番謝らなきゃいけない相手がいるでしょ?
Z:…はい
b:なら話は早い、行くわよ!
―――――――――――――――――――――
I:なんですか部長?
さっき別れたばっかなのに話って…
b:ゴメンね〜どうしてもあなたに会わせたいヤツを
見つけちゃって
I:会わせたいヤツ?
b:ほら、こっち来なさい
I:…え? 先輩?
Z:……
I:生きてたんですね…
Z:……
I:何黙ってるんですか、何か言う事あるでしょ!
Z:本当に申し訳なかった!
I:謝って済む問題じゃないでしょ!
Z:いや、"何か言う事"って謝れって事だったんじゃ…
I:もちろんそうですよ!
Z:だからまず謝るべきかなと…
I:確かにそうですね!
Z:…ずいぶんと部長イズムを継承したな
I:そんな事より大変だったんですよ!
急に先輩が行方不明になって、全部僕に押し付けられて…
Z:さっき部長から聞いたよ
まさか全てお前がやるって思ってなかったから…
I:普通に考えたらそうなるでしょ!
まったく何の準備もしてなかったのに…
Z:本当に悪い事したと思ってる
でもそんな余裕も無くてさ…
I:何言ってるんですか!
あなたのプロジェクトだったんだから
どんな事があってもやり通すべきだったんだ!
なんで急にいなくなったんですか?
ワケを聞かせてくださいよ、ワケを!!
Z:いや…
I:ふざけんなよ!
言え、この野郎!!
b:待って、落ち着きなさい!
離れて距離をとって
まぁでもアタシからも聞きたいわね
急に消えたワケを
Z:それは…
b:あなたはあの一大プロジェクトをやり遂げるんだって意気込みは半端じゃなかった
それが直前になって急に消えるなんて
想像もしてなかったし、今でも信じられないのよ
Z:……
b:もしかしたらやんごとなき事情があったのかもしれない
でももう4年も前の話
ここで会ったのも何かの縁じゃない
聞かせてちょうだい、
ねぇ、2020
2:直前で消えた事は本当に申し訳ないと思ってます!
できればアレは
自ら開催したかった…
でも無理だったんです
b:なぜ?
2020ならできるって、
やってくれるって皆信じてた
事実もうすぐそこだったじゃない
2:それが…もう少しってところで…
ごめんなさい! やっぱり言えません!
b:なんで言えないの?
彼が、2021がどれだけ苦労したと
思ってるの!
1:そうですよ、2020先輩
アレをやらなきゃいけなくなったせいで
僕がやるはずだった
世界陸上も世界水泳もできなくなった…
少なくとも僕には聞く権利はあると思いますけどね!
2:わかった! わかったよ、言うよ
あれは、年が明けてすぐだったかな
とにかくアレを成功させたいと思って、
焦ってたんだろうな
過労なのかストレスなのか
ぶっ倒れちまってさ
軽い風邪かと思ってたらどんどん酷くなって
1:え、そんな事あったんですか?
2:まぁ誰にも言ってないから知らないだろうな
で、なんかわかるじゃん?
"あ、これヤバいヤツだな"って
もうこのまま…って予感がしちゃったんだよな
1:でも先輩、消える直前まで
めちゃくちゃタフに動いてましたよね?
2:まぁ聞けよ
それで"せめてもう少しだけ生きていたい"
って思ったらさ、出てきたんだよ
1:何が?
2:小人が
1:小人!?
小人ってその、妖精とかそういうヤツ?
2:妖精かどうかはわからないけど
とにかく小さかったな
1:たまに見えるとか言う人いますけど、
大抵ヤバい奴ですよね?
的場浩司とか
先輩そっち系だったんですか?
2:引いてんじゃねぇぞ!
だから言うの嫌だったんだよ〜
的場浩司扱いとか最悪だよ!
1:ごめんなさいごめんなさい
信じます!
的場浩司も素敵な人です
だから話続けてください
2:的場浩司のフォローはいいよ
1:それで、小人はどうしたんですか?
2:"まだ生きたいか?"って聞いてきた
1:小人、しゃべるの?
2:いや、そこじゃないから!
やっぱり信じてないだろ?
1:信じてますって!
信じてる事を信じてくださいよ〜
2:…まぁいいや
それでな
1:先輩!
2:わ! ビックリした
何だよ?
1:小人ってやっぱり
三角の帽子かぶってるんですか?
2:あー完全にバカにしてるな
もういい!
1:すみませんすみません!
もうバカにしないですから
2:やっぱりバカにはしてたんだな!
1:ちょっと待ってください!
こっち来ないで!
僕もさっき部長に怒られましたけど、
距離とってください
ソーシャルディスタンス!
だって急に小人とか言われても
頭がこんがらがって…
2:お前、なんかズルいな…
まぁ気持ちはわかるけど、
本当の事を言ってるんだから
それで"せめてあと1年、いや半年でもいいから"
って言ったら
"わかった、お前の望み、叶えてやる"
って小人が言ってさ、
その瞬間、体が軽くなったんだよ
1:小人が治してくれたんですね
2:何だよ? 急に真剣に聞いてくれて…
1:でも実際に先輩は生きてるわけだし
2:まぁな、その時は助かったと
思ったんだけど…
1:それでバリバリ働いてて、
何で急に消えたんですか?
2:そこなんだよ
3ヶ月くらいは疲れも感じず
むしろ前より調子が良かったんだけど…
その小人がまた現れて
"約束通りお前の大事なものを頂くぞ"
って言ってきてさ
1:大事なもの? そんな約束したんですか?
2:してないよ! いや、正確には覚えてない
1:覚えてない?
2:初めて小人が現れた時は
それどころじゃなかったからな
とにかく"まだ死にたくない"って
気持ちでいっぱいで
1:で、大事なものって何だったんですか?
2:それが聞いても教えてくれないんだよ
でもその時真っ先に浮かんだのが、
家族、アレ、
お前も含めて一緒に頑張ってきた仲間たち
1:せ、先輩…
2:どういう事が起きるかわからない以上
"俺はここにはいちゃいけないな"、と
1:それで急に消えたんですか
結局その大事なものって何だったんですかね?
2:さぁ? そっちで何か変わった事は?
1:先輩がいなくなった事は大変でしたけど、
アレも無事成功したし…
2:失ったのは信用と将来…かな
1:あ…
2:でもそんなもんは今となってはどうでもいい
生きてさえいればいくらでもやり直せる
1:2020先輩…
2:そういえば部長は?
1:あれ?さっきまでいたのに
2:あぁ、聞きたくなかったのかな
部長も実は過去にアレに携わろうと
頑張ってた時期があったから
1:え! そうなんですか?
聞いた事なかった
2:まぁ結局は外資系に横取りされて幻に終わったんだけどな
だけどよっぽど悔しかったみたいで、
俺がアレを担当してた時は何かとアドバイスくれてたから
1:そうだったんですか…
確かに2020先輩が消えて
僕がアレの担当になった時、
色々助けてもらいました
2:1番アレに携わりたかったのは
2016部長だったのかもな…
――――――――――――――――――――
6:結局、2020からは何も奪わなかったの?
小:奪ったよ
時間と自由をな
6:それだけ? ずいぶん優しくなったこと
小:次にアレをやるヤツ
2024っていったか?
あいつには期待してるんだ
6:なるほど、2024に夢中で他は眼中に無いってわけね
今度はどんな方法で?
小:それはいくらお前でも教えられねぇな
まぁでも今回の事は礼を言っとかねぇとな
すべてお前の手引きがあっての事だ
6:礼には及ばないわ
小:まだ目前でアレを逃した事を根に持ってるのか?
6:あなたには関係ないでしょ
結局はあの時も今回もアレは成功に終わって…
あなたも詰めが甘いのよ!
小:そう言うなよ、人間も捨てたもんじゃないって事さ
6:はぁ〜 いいわ
次こそお願いね、小人さん♪♪
小:なんだ、小人って?
6:あら、失礼
"COVID"さん、だったわね♪
C:誰だって名前を間違われたら嫌な気持ちだろ
お前だって"さやか"って間違われたら
"さや香"よ!って怒ってたもんな
さ:さぁ? 覚えてないわね…
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