『残像に口紅を』筒井康隆著
3年前に買って読んだのだけれど
最後まで読了出来ずに断念。
最近また読書をし始めたので
今なら読めるかと思って読み始めました。
あらすじ
「あ」が使えなくなると、「愛」も「あなた」も消えてしまった。世界からひとつ、またひとつと、ことばが消えてゆく。愛するものを失うことは、とても哀しい…。言語が消滅するなかで、執筆し、飲食し、講演し、交情する小説家を描き、その後の著者自身の断筆状況を予感させる、究極の実験的長篇小説。
(Amasonより引用)
もうすでに冒頭から「あ」が消えています。
あが消えると、もちろん【朝】も消えます。
その存在も物体も消えてしまうのです。
でも他の言葉で表現できたら、
まだ存在することが可能になる。
例えば、さっきの【朝】でも
"午前九時"とか、"太陽が昇りはじめ、中天にかかるまでの時間"とか"起きる時間"とか。
こういった感じで別の表現で描かれているので
こんな表現があったのか、と驚きの連続。
そして、話が進むにつれて
どんどん音と共に
存在や実態が消えていってしまうというお話。
お話に入る前に、本の『表紙について』
(いつもの脱線です)
最近、村田沙耶香さんの物語の世界観を現代アーティスト北氏徹平、デイビット・シュリグリーの2人が表現している展覧会が表参道のファッション複合ビル「ジャイル(GYRE)」内の「GYRE GALLERY」で開催しているのを見にいった時のこと。(10/17まで無料で観覧できます!)
コンビニ人間の表紙も担当しているアーティストさんなのですが、表紙一枚にしっかりとアーティストが絡んで作成されてることに、驚いた。
表紙で本を買うことはあるけれど、
誰がデザインしているのか、までは全く視野になかったのだ。今回みたいなアーティストが担当していることもあるなんて知らなかった。
当たり前のように見ていたし、
綺麗な表紙だな、面白そうな表紙だな程度にしか
思わず、調べず、そもそも意識がなかった。
このことから、
これからは買った本の表紙についても調べてみようと思ったのです。
ここから、残像に口紅をの表紙について
お話しします。
この表紙。カバーの内側を見てみると
"カバー画 船越桂" と記載されていた。
調べてみると、どうやら彫刻家のよう。
船越桂
日本が世界に誇る彫刻家、舟越桂。
観音像のような神秘的で繊細な表情と、静謐で瞑想的な雰囲気を持つ木彫半身像が印象深い作品群。大理石でできた玉眼は永遠を見つめるかのような澄んだ眼差しと、誰もが共感できる郷愁感を持ち合わせ、一瞬にてし鑑賞者を引き込み魅了する。
(tagboatより引用)
(こちらから作品を閲覧できます)
作品を調べたところ『冬の本』という作品に似ていたのですが、なんだかみたことあると思ったら一度その作品に出会っていたのでした。
またしても驚きと、運命的なものを感じずにはいられない。
そんな昂りを抱きながら読み始めました。
ようやく本題に、というか感想に。
冒頭からあという言葉が消えています。
作者が【あ】という言葉を使って
言いたかったことを別の言葉に置き換えて
書かれているのだけれど、
別の言葉に置き換えているという感覚は
読んでいて全くしないし、わからないほど
違和感がないのです。
消えたことによって
使えなかった言葉はなんだろう?と
考えて読みたくなるけど、
そこまで気にしてたら全然進まないという
ジレンマを抱えながら読み進めました。
読んでいて違和感がないのは
語彙力の引き出しと、
表現力を兼ね備えている作者の技量が伺えます。
なくなった音の言葉が分かると楽しいので
わかる範囲で考えながら読むのは醍醐味でも
ある気がします。
音がなくなったことで
存在しなくなってしまったものを
別の言い方で表現する為に残像を追うのでしょう。そして違う言い方で表現する。
そういう意味で残像に口紅をというタイトルなのかな、、?
と思ったら、娘の事と書き記してあった。
『意識野からまだ消えないうち、
その残像に薄化粧を施し、
唇に紅をさしてやろう。』p.50
一つの音が消えた時、
その対象を表現するのに
違う言い回しをするというのは
語彙力が鍛えられそうとも思った。
読み進めていくうちに難しい言葉、
意味を知らない言葉が段々と増えてきたので
頁をめくるのに次第に時間が掛かっていった。
何となく感覚的にわかるものもあるけれど、
見かける機会もないだろうし
調べて読んで、調べて読んで、を繰り返すと
全く進まない。
特に佐治さん(主人公)のスピーチに関しては
調べたりしたけどもうよくわからなかったから、誰かに教えて欲しかった笑
(内在律や外在律について、短歌や詩について、等々)
あまりよくわからないなあといった感じで
調べて読むのは途中で諦めてしまった。
詩とか短歌とか、和歌とか、百人一首とか
わかるようになりたいなぁ。
第三章からは、言葉が消えてしまいすぎて
どんどん韻を踏んでるラップみたいだなぁとも思った。
フィクションだけど、ノンフィクションぽい。
物語だけど、そんな感じはしない。
ほんとに実験小説だなぁと思いました笑
調べてみたところ、
約30年前に作られたお話の復刻だそう。
大分昔に書かれたものなのに新鮮でした。
消えていく音の順番も
データをとって考えて決められているようで
よく練られたお話なんだろうなぁ。
と、なんとも歯切れの悪い感想の終わり。
この残像に口紅の主人公が読んでいた
(本棚にあった消えた著者)を調べて出てきたので
いつか読みたい本としてメモ📝
・【フローベル🇫🇷 】写実主義文学(リアリズム)
『ボヴァリー夫人』『感情教育』『三つの物語』
・【ギュスターヴヘールべ🇫🇷】写実主義画家
『石割り』『1853年のプルードン』
・【ギ・ド・モッパーサン🇫🇷】自然主義作家
『女の一生』『脂肪の塊』
・【ミゲル・デ・セルバンデス🇪🇸】
『ドン・キホーテ』
・【ルイ=フィルディナン・セリーヌ🇫🇷】実存主義作家
『夜の果てへの旅』
・【ドナルド・バーセルミ🇺🇸】ポストモダン文学
『雪白姫』
・【夏目漱石🇯🇵】
『それから』