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映画「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」の感想

※ネタバレあり
※映画はあくまでフィクションとして観ています。また特定の思想を肯定または否定する意図はありません

ヘッダーはアプレンティス:ドナルド・トランプの創り方より引用。


予告編

ある日Xで流れてきた下の方の予告編の「俺と結婚したら夢のような生活だぞ」があまりにもトランプのイメージと合いすぎてて興味を持ったので、公開から1週間弱で観に行った。(ここに惹かれて観に行く映画ではない)

映画館で全部を観てみると、トランプの人間性がわりと批判的に描写されていてあまり好感度の上がらない描写のされ方をしていたので、中立な視点を持っている人向けとも言えるかもしれない。


感想

監督のアリ・アッバシはイラン系デンマーク人で、アメリカ人ではないのも納得の内容だった。
トランプ自身この映画を批判しているようだけど、それも無理はないかなと思う。何せこの映画の中のトランプは奥さんへの扱いが悪く、死にかけている恩師に対しての礼儀も忘れる非道な男なのだ。

舞台は1970年〜1980年代のアメリカニューヨーク。この時のニューヨークは、退廃的で今のように洗練されたイメージではなかった。
映画は若き日のトランプ青年がロイ・コーンという敏腕弁護士に出会うことから始まる。このロイという弁護士は、ローゼンバーグ事件(ロシアへのスパイ事件)の際に容疑者夫妻を死刑に追いやったような容赦のない人物だ。

「妻の方は子どもがいることで死刑を免れそうになっていたからそれを死刑に持っていった」というロイ・コーン氏。

トランプはこのロイ・コーンから3つのルールを授けられ、その後はそれを厳守してビジネスを拡大させてゆく。

ルールとは、
1.攻撃・攻撃・攻撃
2.非を絶対に認めるな
3.勝利を主張し続けろ


というもので、確かにトランプはそういったイメージがある。


2人はその後急速にビジネスを拡大させていき、トランプは後最初の妻となるイヴァナと出会う。最初は相手にされていなかったが、トランプが成功してゆくにつれ仲を深めていき、最終的には結婚まで至る。

ここでやばいなと思ったのは、現実のトランプ自身が否定しているけど、奥さんを性的に虐待するシーンがあるのだ。
それが結構えげつないし、最初はあんなに自分からアタックしていたイヴァナに対して豊胸施術をさせ、施術をさせたのは自分のくせにそれに魅力を感じなくなったと言う。さらにその後トランプはハゲ治療とお腹の脂肪吸引をするのだ。自分は良いのかよ!

しかも結婚をする際にロイは「自分の資産を半分にする契約をするのか?」と婚前契約書のサインをイヴァナに書かせている。(離婚後支払う金額の保証は良いとして、プレゼントは返却しろだのとも書いてあり、とても夢のない結婚だったが、イヴァナもイヴァナで最終的に金でOKする)

トランプの妻という立場に嫌気がさしていたであろつイヴァナの「トランプの妻」という役を演じ切るために車から出る瞬間、マスコミ用に表情変えるのが印象的だった。


またビジネスで成功するにつれ、トランプはロイを必要としなくなる。
ロイの手腕に助けられていたが、それを必要としなくなったトランプは、ロイが懇意にしているラッセル(ゲイでエイズ感染により亡くなる)が死にそうになっているところを賃貸から追い出そうとするし、ロイ自身がエイズに感染して免疫不全で死にかけているのにもあまり気にかけない。

死にかけているロイはゲイであることやエイズに感染していることは最後まで隠して肝臓がんだと言い張っていた。これは現実でもそうだったらしい。

映画の終盤、免疫不全で死にかけているロイを59歳の誕生日を祝うシーンが印象的だった。

車椅子でどこからどう見てもやつれているロイ。
このシーンではロイの最初の敏腕弁護士の風情がどこにもないこと、またトランプの最初の気弱な青年感が何処にもなく、今の現実のトランプにそっくりだと思えた所に2人の演技力を実感した。

車椅子のロイに誕生日プレゼントだと言ってティファニーのダイヤのカフスを渡すトランプ。
(ティファニーは、トランプがニューヨークの街に建てたトランプタワーの隣にある。)
トランプの文字が入った2つの指輪を贈られ少し嬉しそうなロイだったが、誕生日会の席に着いてから隣に座ったイヴァナから哀しそうに「ダイヤモンドではなくてジルコニアの紛い物」だと告げられる。

そして誕生日会のすぐ後、ロイはエイズの免疫不全による合併症で59歳で亡くなる。

最後のシーン、トランプは記者に自分のイメージアップを図るような記事を書くように話す。
そのシーンでロイの教えた3つのルールを守りつつ、それが誰かに与えられたものではなく生まれつきのものだと主張するのが印象的だった。


まとめ

妻や恩師に対してもこのような対応をするトランプに、映画を見てトランプの好感度が上がる人はいないだろうなあと思う。映画が進むにつれ、だんだん人間性が失われてゆく。
なので、本人がこの映画を批判するのも当たり前だと思う。

恩師の教えは最後なかったことにされ、奥さんを蔑ろにし、最終的に経済を活性化させるとはいえ市民の税金を自身のビジネスために使用するので、視聴者の視点が恩師でも奥さんでも市民でも納得できないだろうと思う。感情移入して観る映画ではない。

最後に恩師や父親など、自分を創った者などいないかのように振る舞う姿が印象的で、一種の恐ろしさすら感じた。

ただ、フィクションな部分が多いにしてもアメリカ政治やトランプを知るうえで良い映画なので、興味のある人などは一度観に行っても良いのかもしれない。フィクションだけど、トランプの兄がアルコール中毒で亡くなってしまうことや、ロイ・コーンがゲイでHIVにより亡くなることなど、事実も盛り込まれている。

ロイがトランプに教えた3つのルールは社会人になってわかる部分もある。強気でいないと競争が激しいビジネスでは厳しいこともあると思う。ただ出る杭な日本人とは合わない価値観かなあとも思った。

私は政治には明るくないのですがそれでも興味深く観ることができたと思います。

おしまい。


追記 カフスの件

カフスボタンの件。
トランプがロイの誕生日に自分の名前入りカフス(笑)をプレゼントするのだが、その後イヴァナから偽物だと告げられる。

その件が、本物のダイヤモンドだったのにも関わらず、婚前契約の時などの恨みのあったイヴァナが「偽物だ」と伝えた嫌がらせという説があるのだと知った。

トランプに痛い目に遭わされた部分のあるロイに、同じく痛い目に遭わされたイヴァナが同情してたのかと感じてたけど、確かに「言わなくて良いことを伝えるなあ…」とは思った。イヴァナが悲壮感のある顔をしていたのであまり疑いたくなかったのだけど、そういう可能性もあるんだなあ…と。

確かに結婚する前に諸々横槍を入れてきて、しかもある意味自分との間に入ってきたゲイ疑惑のあったロイの存在なんて嫌に決まっている。

これは見る人によって解釈が分かれそうだけども。


参考文献

この記事を読むと映画もわかりやすい。
ロイ・コーンは映画でもこんな感じだった。

ロイ・コーンは味方と見定めた人物にはどんな協力も惜しまず、ドナルド・トランプへの弁護活動においても、自分が資金繰りに困っているときを除いて料金を請求することもしなかったという。そして敵に対しては、相手を見て縦横無尽に戦い方を切り替えた。

トランプに帝王学を授けた男──“悪魔”と取引した弁護士、ロイ・コーン | GQ JAPAN

資格を剥奪されて住む家も失ったコーンにホテルの一室をあてがい、そこに住まわせもした。そうしてトランプの庇護下で、ロイ・コーンは永眠したのである。

それから30年を経て、ドナルド・トランプはアメリカ大統領選に勝利した。「ロイもきっと喜んでくれているよ」と、トランプは側近に語ったと伝えられている。そう言ったとき、トランプは物思いに沈むような面持ちだったという。

トランプに帝王学を授けた男──“悪魔”と取引した弁護士、ロイ・コーン | GQ JAPAN

ここは映画と違うところかもしれない映画ではトランプはロイのことをあまり気にかけていないように自分は思えた。

ロイ・コーン役のジェレミー・ストロングのインタビュー記事。
1人のモンスターが別のモンスターを創り出す、フランケンシュタイン物語とも言える。」って的を得た言い方かもしれない。
あと、演技力相応の努力をされているんだなあ。

公式サイト。トランプの年表が載っていてわかりやすい。

2023年末出版の本だけどこの通りになったし、今のアメリカ政治がわかりやすく書かれている。

アルコール中毒で亡くなったトランプの兄の娘が書く、トランプ家の暴露本。
書いた本人が臨床心理学者とのことで、その視点での分析も取り入れられ、身内ならではの私情も取り入れられ、かなりディープな内容。

演説でも話していた例の射撃事件の画像Tシャツ。若干だけどドラクロワの民衆を導く自由の女神を連想した。

ではでは。

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ばくの子
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