つぶらな瞳が知らない世界へ繋げてくれた
「日本円のコイン持ってないですか?」と座っている女性が、こんな意味合いのことを私に言ってきました。私はこの旅で知らない国への意識が高まったのです。
20代の頃、二度目の海外旅行がインドネシア・バリ島でした。島へ旅行するために経由したインドネシア・マニラの国際空港でトイレに入った時のことです。
トイレのドアを開けると数人の女性が座っていました。日本ではもちろん見ない光景。不思議な気持ちでした。トイレの個室からでるのを待っていたかのように見える彼女たち。私はあまり気にしないようにして、手を洗い始めました。
急に座っていた女性たちが手振りで何かを伝えてきたのです。「ジャパニーズ」という単語は理解できたのですが他はまったく理解不明。
大方しゃべると、彼女たちは持っているコインと、私の日本円を交換して欲しいと手振りで伝えてきたのです。その時、私は「No」と答えました。明らかに自分とは違う世界の人のように思えて怖かったからです。
バリ島到着一日目、バスで島内を観光。バスガイドは声を大きくして島内での注意事項を言っています。「一つ目、公共の道端では子供たちが物を売りつけてくることがあります。不要なものは買わないように。相手にすると次々に売りつけてきます。
二つ目、生水に要注意。ホテルの水道でも飲まないでください。歯磨きでさえも、できれば買ったお水を使うように」。私にとってバリ島は初めての場所。旅への興奮でガイドの言ったことは大きな問題としては受け止めてはいませんでした。
観光名所やお土産屋さんでバスは停まり時間を作ってくれます。私たち乗客は決められた時間内が自由時間。最初に停まった場所で、私がバスを降りた瞬間、小さな子供が私に寄ってきました。手には何か物を持っていてどうやら買って欲しいみたいです。空港のトイレで見た女性たちの目と、目の前の子供の目とよく似ていました。目の奥から訴えているというか、懇願という言葉がぴったりなのかもしれません。
この時にガイドの話を思い出しました。子供の目からは想いが伝わってきて、買うか買うまいか、揺れ動く私の心に子供の瞳からの心が突き刺さるのです。
でも「ごめんね。次にね」と小さな声で呟きました。。追いかけてくる子供を後に店の中に入ろうとした瞬間、子供の母親らしき人が赤ちゃんを抱いて立っていました。この地域では、子供に商売をさせているとガイドが言ったことを思いだしたのです。
子供は自分の物を売るために店の中に入ることはできません。だから店に入るまでの観光客に物を売るのです。
子供は遊び、大人は仕事をするという日本の常識のようなものが私の中で崩れ始めていました。
次に、ホテルで蛇口からの水を確かめました。コップに溜まる水は普通の水のようも見えましたが、光に翳すとほんのりと濁っています。
「飲まないでください」とガイドが言った言葉が頭の中で繰り返されています。
空港のトイレから始まったこれらの体験が私の旅への興味を奮い立たせたのです。自分の持っている常識はほんのわずか。初めての場所で初めて経験をすることで知らない世界を見ることができる、これが旅がきっかけとなり私の海外へ行く気持ちがますます高まっていきました。