例えば、海が見たい。
そう思った時、
私は真っ直ぐ、海へと向かうだろうか。
私はこの街が好きだ。
緑樹の青い香り。
花々の囁き。
五感で感受しながら、
お気に入りの喫茶店へ入る。
そして、風に揺れる木々を見ながら、
珈琲を飲もう。
そしたら、今度は自転車を借りて、
ゆったり漕ぎながら、
優しい風を浴びる。
潮の香りがしてきたら、
全速力で漕いで、
目的地へ一直線。
光る海が、
目の前に広がっている。
でも、ひょっとしたら、
途中でふと雑貨屋に立ち寄るかもしれない。
少し山道を登りたくなるかもしれない。
もし通り雨が降ったら、
傘を挿さずに歩くだろう。
道に迷ったら、
笑ってほしい。
私はこの街が好きだ。
私が産まれてから、少し大人になるまで、
この街は冬だった。
心踊る晴れの日もあれば、
胸が締めつけられるような吹雪の日もあった。
幼い頃は、
人のいない空き家に入って出られなくなったり、
吹雪の日に外に出て道に迷ったり、
あまりの寒さに癇癪を起こしたり。
でも、そんな時は、
必ず誰かが助けに来てくれた。
季節は冬でも、温かい。
ここはそんな街だ。
私が大人になってから、
街の季節は春を迎えた。
積もった雪は少しずつ溶けていき、
寒さに身を強張らせることはなくなった。
そしたら、
気づいたんだ。
前を見て、この街を歩いていることに。
見たことのない景色が広がっていた。
こんな所もあったんだ。
今度はそちらに行ってみよう。
まだ知らない場所が沢山ある。
また道に迷ったら、誰かに聞こう。
いつも誰かが教えてくれた。
ここはそんな街だ。
雨の日。
晴れの日。
雪の日。
吹雪の日。
数え切れない日々を、
この街で過ごしてきた。
昔は憂鬱だった雨の日も、
今は少し、愉しみ方がわかってきたよ。
きっとこれからも、
数多の景色が待っている。
この街の
どんな日も、
どんな場所も、
愛おしい
私は、この街が好きだ。
私は、
私が創った、
この街が好きだ。