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キウイのためのオートクチュールレシピ 〈菓子四季録 vol.3〉
出来上がったのはまるであつらえのドレスみたいなデザート。
これは私とキウイが仲良くなるまでの物語です。
私とキウイの物語(プロローグ)
この菓子四季録は先にその月のフルーツを決めてメニューを考えます。「7月はキウイで」と決まった瞬間に「困ったな」と思いました。キウイが主役のお菓子を何ひとつ、即座に思い浮かべることができなかったからです。
私はフルーツが大好きでとにかくよく食べます。頻度も量も平均よりかなり多いはず。私が育った家では「フルーツは好きなだけ食べていい」みたいな雰囲気がありました。みかんもりんごもぶどうも箱買い。デザートといえばフルーツだったし、今もフルーツを食べない日はなんだか落ち着きません。いつでもその時期のフルーツを追い求め、常に何かしらのフルーツが家にストックされています(例えば、今、家にはオレンジとパッションフルーツとメロンがあります)。
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キウイは馴染みの深いフルーツです。仕事でもよく使います。入手しやすい(通年ある、どこにでも売ってる)、価格がリーズナブル、色がきれいと、使わない理由がないくらい。実際けっこうな数のキウイをいつも購入しています。でも、それは仕事のため。逆をいうと仕事で使わないときはほとんど買いません。あの酸味のせいなのか、酵素を感じる味のせいなのか。とにかくそんなにキウイには惹かれないのです(ごめん、キウイさん)。
昔から存在はよく知っているし、頻繁に顔を合わせてはいるけれど、深く知ることがないままで、今まできてしまいました。苺のときも、レモンのときも作りたいお菓子が瞬時にたくさん浮かんだのに、キウイは皆無(ごめん、キウイさん再び)。そんなわけで、私とキウイさんがはじめて本気で向き合う時がやってきたのです。
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one of themには成り下がるな
言い訳みたいになりますが「キウイを使ったお菓子」はたくさん思いつくのです。程よい酸味と鮮やかなグリーンはいろんなお菓子にもよく合います。でも、どれも「キウイじゃなくちゃダメ」という決定打が見つかりません。例えばキウイの酸味はチーズやヨーグルトにもよく合うし、ジャムやソースにしてもいい感じ。でも、それらは「キウイもいいよね。でも苺でもいいかも。アプリコットもよさそう」というone of themなんです。
しばらくは寝ても覚めてもキウイのことを考えていました。キウイ、キウイ、キウイ。とりあえずジャムを作ってみたけれど、なんか違う。悪くはないけれど、絶対にキウイじゃなくちゃ!感は全くない。考えれば考えるほど、キウイが主役って難しい。
そして、ずっと考えているうちにある事実に気づいちゃったのです。キウイが合うお菓子は大抵、苺にも合う。この菓子四季録は各月のフルーツが主役になりうるお菓子にしたい。だけどキウイじゃなければ、みたいな理由がどのお菓子にも見つからない。合うレシピがあっても、それは苺にも合うレシピで、そうなると苺には勝てない。あああああ、どうしよう。
知ってるお菓子を順に思い出しながら、ふと思いついたのがパブロヴァでした。パブロヴァはオーストラリアやニュージーランドでよく食べられているメレンゲ菓子です。
パヴロヴァ(pavlova)は、オーストラリアまたはニュージーランドが起源とされる菓子である。一般的な製法は、焼いたメレンゲをベースにしてホイップした生クリームを詰め、さまざまなフルーツを飾り付けたものである。その名称は、ロシアのバレエダンサー、アンナ・パヴロワに由来すると伝わる。
パブロヴァってまだまだそこまで世の中に浸透してはいませんが、個人的にはあの唯一無二の独自食感はけっこう好きなんです。
キウイのためのレシピが誕生
思いつくと同時に「これは絶対合う!」と確信しました。そういう時は、次から次へとアイディアが降りてきます。何かがスパークする感じ。こうやって一気に広がっていく瞬間が本当に楽しいし、うれしい。
ひらめきがなぜうれしいかというと、そこに最大の不確実性があるからです。
(中略)
何かがひらめいたとき、神経細胞は一斉に活動をはじめます。ひらめいた瞬間の脳の目的はただ1つ。ひらめいたことを確実に記憶に定着させることです。その瞬間を逃さないために、脳の神経細胞は0. 1秒くらいの時間で一斉に活動を開始するのです。
これは普段の脳の神経細胞の活動の様子から見ると、きわめて驚異的な動きです。それだけ、神経細胞もひらめきを逃さないために必死なのでしょう。
まさにこれです。細胞が一斉始動。私の意識全部がそこにいく感じ。思いつくままに、わーっとレシピを書いて材料を買いに行って、一気に試作。今回は初回の試作でピタッと決まった感じです。
一般的なパブロヴァのレシピは砂糖の量が結構多め。食べて一口目に「甘っ!」ってなります。お菓子はちゃんと甘い方がいい、と前回書きましたが、甘すぎるのはNG。パブロヴァを含むメレンゲ菓子は甘すぎるお菓子が多いのも事実。けれど今回のレシピはほどよい甘さに調整してありますので安心してください。
砂糖を減らして変わるのは味だけではありません。よりソフトな食感に仕上がります。この食感がまたおいしさの秘密。まわりはサクッ、中身はふんわりマシュマロみたい。クリームをのせるとまた変わります。サク、ふわ、しゅわ、のコンビネーションがいいのです。
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クリームには水分を切ったヨーグルトを加えます。クリーミーさはありながら、爽やかで軽やかな仕上がりに。パブロヴァがしっかりと甘いのでクリームには砂糖はいれません。
ここでぜひ加えて欲しいのが「コアントロー」というオレンジのリキュールです。これが本当にいい仕事をするのです。加えることでこのヨーグルトクリームがパブロヴァとキウイとを包み込んで一体感が生まれます。このコアントローを加えることで、キウイを主役にしたデザートが爆誕するのです。
さ、レシピを見ていきましょう!
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キウイとヨーグルトクリームのパブロヴァ(レシピ)
【材料】(直径約15cmのパブロヴァ1台分)
卵白(M) 2個分(約70g)
グラニュー糖 70g
コーンスターチ 大さじ1と1/2
プレーンヨーグルト 200g
生クリーム(脂肪分40%以上) 100ml
コアントロー 大さじ1
キウイフルーツ 2〜3個
ミント 適量
*コアントロー
ホワイトキュラソーと呼ばれるオレンジのリキュールの一種。無色透明。まろやかな甘さと爽やかな香りが特徴。クリームや冷菓と相性が良い。
【作り方】
1.ザルにペーパータオルを3〜4枚重ねて敷き、プレーンヨーグルトをのせ、重さが半量になるまで水切りする(約2〜3時間)。
2.オーブンを120度に予熱する。ボウルに卵白を入れてハンドミキサーで泡立てる。やわらかく角が立ってきたらグラニュー糖を3回に分けて加え、さらにしっかり、ハンドミキサーの羽根に詰まるくらいかたく泡立てる。
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3.コーンスターチを2にふるい入れ、ゴムベラで底から切るように混ぜ合わせる。
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4.オーブンペーパーを敷いた天板の上に3をのせて直径15cmを目安にゴムベラで形を整え、予熱したオーブンで3時間ほど焼く。焼けたらそのまま庫内で冷まし、冷蔵庫で冷やしておく。
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5.キウイフルーツを好みの形に切る(半月切りやいちょう切り、薄い輪切りなど)。ボウルに生クリームとコアントローを入れ、ボウルの底を氷水につけながら泡立て、八分立てにする。1を加えてよく混ぜる。
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6. 5のクリームを4のメレンゲの上にのせ、キウイフルーツを飾り、好みでミントを散らす。
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ゴムベラでラフにのせていきます
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*時間が経つとメレンゲとクリームが馴染んで食感が変わっていくので、仕上げ後は早めにいただきましょう
作り方のさらなるポイント
ヨーグルトの水切りは2〜3時間が目安です。もっと早く!!!という方は下に敷くキッチンペーパーをこまめにとりかえてみてください。さらにヨーグルトの上にもキッチンペーパーをのせて、何か重石になるものを置くとさらなる時短に。もともとゆるめなテクスチャーのヨーグルト(「小岩井 生乳100%」ヨーグルトとか)は水を切っても柔らかすぎてしまうので、ごく普通のプレーンヨーグルト(明治ブルガリアヨーグルト的な)がおすすめです。
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ふわふわのパブロヴァ生地に仕上げるポイントは卵白をしっかり泡立てること。卵白の中に卵黄が少量でも混じるとかたく泡立たないので、卵白のとりわけ時には注意しましょう。
砂糖を加えるとメレンゲは安定しますが、粘度が上がり泡立ちにくくなります。角が立ってから砂糖を数回に分けて加えるのはこのためです。砂糖を全部加え終わったら、指先で泡がつまんで持てるくらいにしっかり泡立てます。
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天板の上で広げる時はラフな感じで大丈夫。心配な人はオーブンペーパーに直径15cmのガイドラインを引いておくといいでしょう。時間をかけてしっかりと焼きます。パブロヴァ生地は湿気やすいので、冷めたらラップに包んで、保存袋へ入れて、冷蔵庫で冷やします。あれば乾燥剤もぜひ一緒に(こういう時のために、おせんべいを食べ終わった後の乾燥剤を保存袋に入れてとっておくのもおすすめです)。
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キウイを切るのにはコツがあります!
パブロヴァ生地が焼けたら仕上げていきましょう!ついにキウイさんの登場です。キウイは皮を剥く時に2つのコツがあります。1つ目は「ヘタをくるっと回す」です。これ、知らない人もけっこういます。キウイってヘタのところに固い部分があるんです。専門用語で果梗部(かこうぶ)といいます。この果梗部はヘタの付け根にあって、枝についていた時に実を支える役割をしています。ここは硬くて食べられないので、厚めに切り落とす人も多いのですが、いい方法があるんです。実はヘタの周囲に切り込みを入れて(切り落とさないように注意)手のひらでくるっと回すと、ここが取れるのです。本当にポロッと取れるので、やったことのない方はぜひやってみてください。
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あとは皮の剥く方向。縦にではなく、りんごを丸く剥くみたいに剥いていきます。こうした方が切った時にキウイの形が丸くなります。今回は半月に切っていますが、いちょう切りでも。このあたりはお好みでどうぞ。
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そしてキウイは水分が意外と多め。薄く切った後に一度キッチンペーパーの上に置いて水分を軽く取ります。ひと手間かけることで、パブロヴァの良い状態をキープすることができます。
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キウイの飾り方は自由演技で。このお菓子に関してはキウイはたくさんのせた方がおいしいので少なくても2個、個人的には3個分どーんとのせるのがおすすめです。ミントもお好みでどうぞ。ミントは見栄えが上がるだけじゃなくて、一緒に食べると爽やかさがプラスされておいしいんですよ。
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いちょう切りのキウイがたくさん
コアントローが全体のまとめ役
コアントローは入れなくても作れます。でも今回のレシピは入らないと成立しません。そのくらい、大きな仕事をしています。アップルパイのシナモンくらい存在感があります。コアントローが入ることによって、キウイフルーツのためのonly oneレシピになっています。
リキュールを入れなくてもできますか?という質問は今回だけでなくお菓子作りの中でよく出てくる疑問です。使うのは少量だし、購入するとなると、そこそこのお値段です。でも、それでも、できれば入れて欲しいです。リキュールって本当に入れると底上げされるんですよ。
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左からキルシュ、コアントロー、ブランデー、ラム酒
お手軽版としてはサントリーのケーキマジックシリーズのオレンジキュラソーがおすすめです。今回だけでなく、生クリームを泡立てた時に加えたり、バター系のケーキを焼く時に加えたりと使い勝手のいいリキュールです。お酒好きならば、バニラアイスとかにたらしてもおいしいですよ。
私とキウイの物語(エピローグ)
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このレシピが気に入りすぎて何回も作っています。このお菓子にキウイの酸味が本当によく合うのです。苺ではダメです。もっと酸味が欲しい感じ。そうなるとラズベリーだったら?という疑問が出てくるかもしれません。確かにラズベリーの酸味だったら合います。でもこのクリームには断然キウイです。オレンジの香りがする爽やかなヨーグルトクリームにはキウイの方が合います。「キウイでもいい」ではなくて「キウイじゃなくちゃダメ」なのです。今まで距離があった私とキウイの距離もだいぶ縮まりました。
よくよく考えたら、キウイって言えばニュージーランドだし、パブロヴァはニュージーランドが発祥(オーストラリアという説もあり)で、きっとオセアニアでは定番の組み合わせなんだろうなあと思いました。
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この「キウイとヨーグルトクリームのパブロヴァ」はすっかりお気に入りのお菓子となりました。毎回食べながら「本当によくできている」と自画自賛しています。味もだけれど、見た目もお気に入り。ヨーグルトクリームに大量にのったグリーンのキウイをみているとドレスみたいだなって思います。パブロヴァ、クリーム、キウイのシンプル構造。でもそのグラデーションが味わい、食感、見た目的にも美しく、これはまさにキウイのためのオートクチュールレシピだなと思うのです。
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【Photos : Sayaka Sawada】
同じレシピをグラフィックデザイナー 澤田清佳さんが絵で紹介しています。絵のかわいさもさることながら、手順の流れがとってもわかりやすいです。
清佳さんがこのお菓子に不意にときめいた理由とは?そしてキウイのまさかのクラスメイト化!少女漫画のようなたとえに胸キュンです。そんなキウイとヨーグルトクリームのパブロヴァのもう一つのストーリーも、ぜひお楽しみください。