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短編小説

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これまでに書いた短編小説をまとめています。
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#オールカテゴリ部門

ショートショート|泉に恋して

泉に一滴の水が落ちた。 小さな円が広がって、 やがて泉を満たしていった。 それは雲のしわざだった。 泉に雲が恋をして、 雲は一滴の水を垂らしたのだ。 どうかぼくに気づいてほしい。 ぼくは空を漂ってるよ。 小さな一滴が泉に落ちて それは泉を満たしていく。 小さな円が大きく広がり 眠っていた泉が蘇る。 そこから美しい女性が現れ やがて夜が訪れた。 女性は長い髪を揺らしながら なめらかに体を動かした。 指先まで美しいその人は ときどき空を見上げては 漂う小さな雲を

掌編小説 | 雪が降った日

線のように月が細くなる夜だった。 リサが月に座っていると 彼がまたやってきた。 「今日は少しひんやりしてるね。」 リサがうんとうなずくと、 彼はこっちを向いてニコッとする。 「今日はたくさん雪が降ったんだね。 夜がこんなに明るいなんて。」 昼を過ぎたあたりから 雪がたくさん降り始めた。 リサは慌てて窓を開けると 冷たい風を顔に受けた。 大粒の雪が空から降ってきて リサの鼻や額にひんやりと当たる。 「これが雪なのね。 なんて素敵なの!」 リサはしばらく空を見な

掌編小説 | ピエロ

たばこを吸っているピエロのところに 一人の男の子が近づいた。 西には太陽が沈みかけ、 ピエロは売れ残りの風船を持っていた。 風がときおり吹いてきて、 そのたびに風船はゆっくり揺れた。 公園にはもうあまり人がいない。 先ほどまで騒いでいた子供たちも みんな家へ帰ったのだろう。 丘にある公園からは街を一望することができ、 沈む太陽もまた、見ることができた。 ピエロは今日もたばこを吸っている。 毎日この時間になると ピエロはたいていここにいた。 男の子はそれを知って

ショートショート | としろう

みんみんみんみんみんみぃ〜。 みんみんみみみんみんみぃ〜。 みんみんみんみんみぃ〜。 としろうは7年越しに地上に出てきた。 やはり外の空気はたまらない。 土の中は狭苦しくて仕方がないんだ。 むぃんむぃんむぃんむむむぃんみみぃ〜ん。 としろうは、オリジナリティを求めた。 新人たちはマニュアル通りに鳴いているが、としろうは途中でこぶしを利かせる。 みんみんみみみんみみみぃぃぃ〜ん。 ちょっとやり過ぎてしまったかもしれないと反省したときは、少し姿勢を正してから大

ショートショート | 田中くん

1年5組の田中くんは、みんなに怖がられる存在だった。 家柄が家柄だけに、誰も田中くんに近づこうとはしなかった。 誰も、田中くんと目を合わせない。 田中くんは、話しかけられることもなければ、 いじめられることも当然なかった。 教室の窓際で堂々とタバコを吸っていても、 それをとがめる先生もない。 クラスメイトたちは何も気づかないふりをしながら 田中くんに目をつけられないことを常に気にした。 しかし、当の田中くんは誰かに目をつけようなどという 気持ちはさらさらなかった。

短編小説 | 海賊船

クラシックバレーの発表会終了後、振り付けを間違えてしまった妹のもとへお兄ちゃんはすぐさま駆けつけました。 そして妹にこう言ったのです。 「お前が一番綺麗だったよ!」と。 * 郵便局で働くフェルナンドは、残業の依頼を進んで引き受けました。 今度の週末は土曜日も日曜日も働く予定です。 すべては美しい恋人ルイーゼのため。 あのダイヤモンドの指輪を購入し、ルイーゼにプロポーズするのです。 ルイーゼはなんと言うだろうか。 ダイヤモンドの指輪を見た時にどんな顔をするだろ

【短編小説】 ぼくのマリア

わたしは、小さいときからおばあちゃん子だった。 おばあちゃんの家は、わたしとお父さんとお母さんが住んでいる家の近くにあったから、よく一人でおばあちゃんの家に遊びに行った。 おばあちゃんはとても素敵な人だった。 髪の毛はグレーで、髪はいつも耳にかけていた。 そうすると、耳にいつもしていた上品なゴールドのイヤリングが光るのだ。 それは、おばあちゃんのセンスの良さを物語っていた。 おばあちゃんの部屋はいつもきれいに整えられ、無駄なものが一切なかった。 テーブルの上には