ショートショート | としろう
みんみんみんみんみんみぃ〜。
みんみんみみみんみんみぃ〜。
みんみんみんみんみぃ〜。
としろうは7年越しに地上に出てきた。
やはり外の空気はたまらない。
土の中は狭苦しくて仕方がないんだ。
むぃんむぃんむぃんむむむぃんみみぃ〜ん。
としろうは、オリジナリティを求めた。
新人たちはマニュアル通りに鳴いているが、としろうは途中でこぶしを利かせる。
みんみんみみみんみみみぃぃぃ〜ん。
ちょっとやり過ぎてしまったかもしれないと反省したときは、少し姿勢を正してから大事な心得を思い出すようにした。
セミたるもの、夏の風情に合う音色を響かせなければならない。
全体にはまとまりが必要である。
そのためには皆が一定のリズムを刻むことを忘れるなかれ。
みんみんみんみんみんみぃ〜。
マニュアルのリズムにはマニュアルなりの良さがある。
としろうは、みんなの献身的な響きに酔いしれた。
右を見て、左を見ると、仲間たちは汗を流しながら懸命に鳴り響いている。
としろうもまた、汗をかいた。
みんみんみんみんみんみんみぃ〜。
みんみんみんみんみんみんみぃ〜。
み〜んみみみんみんむ〜。
むぃ〜んむぃんむぃんむぃんむぃ〜。
としろうが死んだ8日目の朝も、仲間たちによる懸命な合唱は続いた。
よく聞くと、その中にはとしろうを継ぐ者もいる。
むぃ〜んむぃんむぃんむぃんむぃ〜。
こぶしを利かせたその声は誰よりも力強く、入道雲が高くそびえ立つその日に、遠くまで響き渡っていった。
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