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胸キュンというポルノ【『なのに、千輝くんが甘すぎる。』映画感想文】

 まず失恋の心の傷を上書きするために片思いごっこをするという目的設定に乗れるかどうか、ここがこの映画という船の大きな分かれ道である。仮にこの目的に乗れたとして、次々に展開される片思いの概念を揺るがす、完全両思い胸キュンシチュエーションの嵐に合い、映画は転覆する。その後、沈んだ映画の中でとんだデフォルメがされた謎のシチュエーションが展開され続け、恋は成就し幕を閉じる。
 胸キュン映画というジャンルが出来て久しいが、このジャンルの映画は数分に一回胸キュンシチュエーションが配置され、それを気持ちよく消費するために関係図が作られキャラクターが作られる。この胸キュンシチュエーションこそがいわばポルノの機能を果たす。かつてのポルノ映画と近しい構造である。原作漫画の方がよりこの構造が強い。胸キュンというポルノを無理矢理に貪る様は無自覚な女子の性欲の発露である。
 明るく影を一切感じない無菌室のようなスカスカの画面で写されるヒロインカップルの顔の造形はとても美しいが、この垢抜けたヒロインをもって物語の中でブスとするにはあまりに苦しい。せめて黒髪には出来なかったのか。
 お百度参りまでして執拗に写される走る運動は、つまり片思いとは追い追われる運動の事かと一応納得してみるが、好きである事を隠して「俺に片思いして失恋を忘れなよ」なんて言ってくる男、後々冷静に考えると気持ち悪くないかと思ってしまった。

#映画感想文

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