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発達障害の女子高生がファッションショーに挑む青春ヒューマンドラマ【『BISHU〜世界でいちばん優しい服〜』映画感想文】

 外れの多いご当地映画にも関わらずかなりの傑作である。決してリアリティレベルが高い訳ではなく、ともすればご都合主義的な話にもなりそうな際どいシナリオなのだが、ギリギリのところでこれを回避している。しかもその方法が大胆な飛躍や、突飛な振る舞いなどでは無く、丁寧さと愛嬌を持って優しく包み込むという大変バランス感覚の要求される難しい方法で持って正々堂々と描き切っている。監督のこの懐の深さには素直に賛美を送りたい。キャラクター配置も絶妙でどのキャラクターもシナリオラインに対して上手く機能している。特に黒川想矢演じる中学生の存在は大きく、主人公よりもより症状が重い障害をもった存在がいる事で、主人公を相対化し特権的な存在になってしまう事を回避している。後に若干あざとい役回りを担うが、それも物語の構造上必然を感じさせ、むしろご愛嬌の範囲で許せるところに留めているのが、この映画の強さである。
 ファッションショーを歩く事で変わる話なのだから当然歩く事が主題なのだが、主人公以外の様々な人物の歩くまたは走る姿をバックショットも含めて丁寧にカメラに納める事でキャラクターの個性を定着させている。チープなアニメーションとスローモーションに頼り過ぎなきらいもあるが、このしつこさがラストのファッションショーの引き伸ばされた体感時間に対する抵抗感を薄めている。ましてや、たいした動きを生みにくいファッションショーを題材にしながら、崩し過ぎずにここまでドラマを生み出せているのだから、試みは成功と言える。服から変化する鳥なんて直球な比喩を繰り出しつつ、名古屋テレビ塔をエッフェル塔に見立てるなんておふざけをさらっとやってくるが、上品さを保っているため嫌味がない。
 ウェルメイドな作品ゆえに古びないというか、むしろ最初から古びているから普遍的な強度があるともいえる。キャラクター描写や地方の善的な部分を写し取られたロケ地も相まって、80年代〜90年代ジブリ作品の雰囲気がそこかしこに伺えるが、これはおそらく子供の頃からジブリ作品に触れてきた作り手の根底が露出しているのだろう。そうした世代がこういったエンタメを作る主体となった証でもある。ジブリ自体が善性の強い作品を作らなくなった今、こういう作品の監督が現れた事は良い事であろう。大袈裟だが日本人にはいつの時代もこの手の作品が必要だと思う。


#映画感想文

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