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なんでも忘れる女と赤い帽子【『SUPER HAPPY FOREVER』映画感想文】
全体的にカメラのフレームの外を感じさせる演出が良く、世界の広がりを感じさせる。そこに収まる芝居も感じが良い。帽子探しから死んだ妻への目的の転換も小気味良く、回想の終わらせ方も気が利いている。携帯を捨てるアクション、風呂場、嘔吐など要所を抑えつつ、帽子や指輪、カップラーメン、ハイライトといったアイテムの使い方や、男女の恋の始め方も丁寧で、その上登場する映画のタイトルやミャンマー人のキャラクターなどへの目配せも効いている。途中語られるアルツハイマーのエピソードも含めた忘れる事と、忘れない事、探し続ける事の対比が程よく映画の中を流れている。編集で削られたであろう、指輪を捨てるシーン、帽子をなくすシーンがない事の効果も十分で見事な編集である。
夜アイスを食べに行く事で締め出される件のもたつきや、ミャンマー人が帽子をもっている事へのフリが妙に長いなどの点はあるが、総合的にかなり高いレベルで作られた映画である。ゆえに友人との別れ方、映画の終わり方が気になってしまう。あれでは友人は救えないし中途半端さが目立ち、帽子とミャンマー人と海での終わりも腰が弱い。タイトルの皮肉な回収にまで成りきれてない印象だ。
映画的記号の運用に作り手が重きを置き過ぎた結果、キャラクターの弱さや内実の描写不足が露呈してしまった。世界を開いた終わり方と言えなくもないが、芯をあまりに齧らなすぎて、映画全体が薄味に感じてしまう。そこは勇気を持って一歩踏み込んで欲しかった。実に勿体無い。