胸キュンとの板挟み【『あたしの!』映画感想文】
ジャンルからの逸脱を試みているのは感じる。広告やMV的な所謂綺麗でエモい画面作りは、胸キュンジャンルの予定調和から抜け出すための戦術として有効である様に思えるし、胸キュンポルノ仕草も抑えめに設計されている。主演の様々な顔芸でキャラクター描写が進んでいくが、バリエーションは限られるため、脳内世界の人物達は役者を変えて、負荷を減らし差別化を測ったのは結果的に良い判断であったと思う。
しかし逸脱を試みながらもギャグの処理でトンマナを乱してしまう。完全にボケにいくギャグが作品のジャンル性を思い出させるが、ノイズになってしまっている。また室内ロケでは恋愛リアリティー番組の様なカメラ位置へと変わるなど、ジャンルの逸脱がジャンルの表層的な混乱となって出力されてしまった。
板挟みと恋の対立がこの映画の主題であるが、それを表現するショットがない事もこの映画が表層的な部分に収まってしまっている事の証左である。