「わたしのおうち」だけの味、ベジブロスカレー
カレーに何入れる、と聞かれたら。
母ならきっと、肉じゃがの材料。と答える。我が家ではいつも肉じゃがを余らせ、それから色々をドバドバっと足してカレーを作る。和風のだしとその汁の染み込んだ野菜で作るのでコクがあって美味しいのだ。
一方で、私の祖母ならきっと、なんでも!と答えるだろう。
ベジブロス、というものをご存知だろうか。
野菜の皮やヘタなど、料理に入れるには向かない端材をまとめてとっておいて、それが貯まったらお湯で煮込んで濾す。
そうしてできた野菜の旨味の凝縮された出汁こそがベジブロスである。
祖母のカレーは水の代わりにベジブロスを使った、本当になんでもかんでも入っている、食べ応えのあるカレーだ。
味はというと、マイルドである。肉じゃがカレーよりもコクがある。深みがある。
…というふわっとした感想で勘弁してほしい。
なんでそんなことになっているかというと、
答えは「毎回味がばらばらだから」だ。
私たちには勿論、祖母自身にも同じカレーの味は2度と再現できない。
大抵の場合、ベジブロスに何を入れたか覚えていないからである。
祖母が作るメニューは季節や気分によってまちまちで、そうなると、たまっていく野菜くずの配分もまちまちである。そのうえ、祖母の中では私も母もいつまでもいっぱい食べる元気な若者なようで、祖母が適当に冷蔵庫の中からチョイスしたであろう固形の食材がこれでもかと入っている。それはもう沢山。
牛肉豚肉挽肉がごちゃ混ぜな「ミートカレー」、ほうれん草やかぼちゃ、アスパラが入った「とにかく緑カレー」などなど、色んなカレーが毎回届く。
全体にカレーがまとわりついているせいで、口に入れるまで自分が今スプーンに何を乗せているのか全くわからない時もある。
セロリやしいたけ、レーズン…少量ならいいが、時にはそれがごろごろ入ってカレーの味の濃さで相殺しきれていないような、個性が強めなとんでもカレーが送られてくることも。
そんなこんなで、その時々によってカレーの味わいは全く異なるのだ。
祖母カレーのわくわく感がとっても好きだった私は、祖母宅からの荷物の中に冷凍されたカレーが入っているたびおおはしゃぎ。
カレー、また送ってね!とお礼の電話口で元気に答えていた。
母は、数回に一度のとんでもカレーのたびにリメイクに苦労しているため、苦笑いだった。
面と向かっては恥ずかしくて言えないためここにこそっと書くのだが、
私にとってあれはただの野菜くずカレーなんかじゃなかった。
祖母が家で日々作っている食事の積み重ねで生まれる、色々な味。複雑で深い時もあれば、あっさり、さらっとしている時もあったり。
母と一緒に届いたばかりの祖母カレーをせーので試食して感想を言い合ったり、これなんだろ?あ、豆苗入ってる!なんてやりとりをするのは、本当に楽しかった。
同時に、長期休暇の時しか会えない距離に住んでいる祖母の生活を感じとって思いを馳せ、大好きな彼女に気軽に会えない寂しさを紛らわせていた。
家族とのコミュニケーションの時間を作ってくれる、大好きなカレーだった。
そんな日々から数年経った今現在、私は母や祖母とは離れて暮らしている上、最近はコロナ禍でなかなか彼女らと会う機会が無い。
ふと思いついた。もし、私が祖母と母に自作のベジブロスカレーを送ったら?
料理がそんなに得意じゃなくて正直自炊はあんまりしていないのだが、私の毎日の生活が作りあげる「わたしのおうち」の味のカレーを二人に届けたら、どんな反応をしてくれるのだろうか。
私の生活は、どれくらいの深みをカレーにもたらしてくれるんだろう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?