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【超全訳】 『孫子』 ①始計篇

世界最古にして、史上最高の兵法書。

それが『孫子』です。

人類史に輝く、数多くの偉人に愛読されてきたこの書物。

単なる軍事戦略書にとどまらず、現代ではビジネス戦略やリーダーシップ、自己啓発の分野においても広く応用されています。

そんな『孫子』十三篇の全文を、できるだけ原文の意味を保ちつつ、わかりやすさを重視して現代語訳いたします。


参考文献として、以下の3冊を使用します。


『孫子』は、これらの権威ある文献においても解釈がわかれています。

そのような箇所についての現代語訳の方針としては、曹操の注釈(魏武注)を優先いたします。

曹操は三国志における実質的な覇者であるため、その注は机上の空論ではなく、自らの実戦経験に基づいた説得力あるものと考えるからです。


原文である漢文と、その読み下し文は省略いたします。

篇中の段落は原文にはありませんが、読みやすいよう適当に切り、番号とタイトルをつけています。

全十三篇で構成されており、1つの記事で1つの篇を扱います(全13回)。


初回にあたる「始計篇」は無料で読むことができます。

その他の記事は各¥100ですが、『孫子』マガジンでは全13記事を¥600で読むことができます。

6記事以上のご購入を考えている方は、マガジンをおすすめいたします。



『孫子』は、古代中国の叡智の結晶であり、その深遠な洞察と実践的な戦術は、今なお多くの人々に影響を与え続けています。

さて、そんな世界中で最も影響力のある兵法書に触れて、その叡智を受け継ぎましょう。



孫子

始計篇

1 兵とは国の大事なり

孫子はいう。戦争は国家の命運を決する重大ごとである。民の生死が決まり、国家の存亡のわかれ道であるから、慎重に考えねばならない。そこで、5つの基本事項を適用し、7つの目算で比べ合わせて、敵味方の実情を求めるのである。

5つの基本事項の第一は道、第二は天、第三は地、第四は将、第五は法である。

「道」とは、民と君主の心をひとつにすることである。すると、民は生死をともにして疑わないのである。

「天」とは、陰陽や気温や時節などの自然界のめぐりのことである。

「地」とは、距離や険しさ、広さや高低などの土地の情況のことである。

「将」とは、頭の良さや誠実さ、優しさや勇敢さ、それに威厳といった将軍の素質のことである。

「法」とは、法令や規則などの制度のことである。

以上5つのことは、将軍であれば知らない者はいないが、これを深く理解している者は勝ち、そうでない者は勝てない。

そして、深く理解した者は、7つの目算で敵味方を比べ合わせて、その時の実情を求めるのである。すなわち、

①どちらの君主が人心を得ているか
②どちらの将軍が有能であるか
③自然界のめぐりと土地の情況についてどちらが有利であるか
④法令はどちらが遵守されているか
⑤どちらの軍勢が強いか
⑥どちらの兵がよく訓練されているか
⑦賞罰はどちらが公正に行われているか

私はこれらのことによって、戦う前にすでに勝敗を知るのである。将軍がこの5つの基本事項と7つの目算に従う場合には、彼はきっと勝つので留まらせる。従わない場合、彼はきっと負けるので辞めさせる。

これを理解しこれに従うなら、戦う準備ができたわけであるから、そこにせいを加えて戦いの助けとする。勢とは、有利な情況を見抜き、それに基づいて臨機応変の権謀をとることである。


2 兵は詭道きどうなり

戦争とは詭道(欺くことを原則とするもの)である。それゆえ、強くても敵には弱く見せかけ、勇敢でも敵には臆病に見せかけ、近くにいても敵には遠くにいるように見せかけ、遠くにいても敵には近くにいるように見せかける。

利益を餌に敵を誘い出し、敵が混乱すれば攻撃して戦力を奪い、敵が充実していればそれに備え、敵が強大なら回避し、敵が怒りはやっていればわざと挑発して態勢をかき乱し、自らを弱く見せることで敵を驕らせ、敵が安楽であるなら利益をちらつかせて疲れさせ、敵が親しみあっていれば間諜かんちょう(スパイ)を使って分裂させる。

敵の備えのないところを攻め、敵の不意をつく。これが兵法家の勝ち方であるが、それは敵の情況に応じて生み出す臨機応変の勝利であるため、こうして勝つと具体的に予告することはできないのである。


3 いまだ戦わずして勝つ

戦う前にすでに勝つというのは、5つの基本事項と7つの目算に従って考えた結果、その勝ち目が多いからである。戦う前にすでに勝てないというのは、その勝ち目が少ないからである。勝ち目が多ければ勝つし、勝ち目が少なければ勝てない。ましてや勝ち目が全くないというのでは話にならない。

私は、このような方法で戦いを観察することで、事前に勝敗をはっきりと知るのである。


解説

以上が、『孫子』の第1章にあたる「始計篇」です。

現代語訳の後に、その章の解説を毎回設けます。


「始計篇」の主旨は、戦いが始まる前に自国と敵国の情況を比較し、いずれに勝算があるかを知ることの重要性を説くことにあります。

戦争は、数多くの要素が複雑に絡み合うものであるため、偶然に左右される側面も当然つきまといます。

しかし大局的に観れば、総合戦力で優勢な側が勝利を得る可能性が高く、その意味で戦争の勝敗とは、事前に察することのできるものだと孫子は考えています。


こうした戦争観のもと、孫子は5つの基本事項と7つの目算(五事七計ごじしちけいを、勝敗を予測するための指標として導入したのでした。

こうして確実な勝算が得られた場合に限って開戦に踏み切り、すでに約束された勝利をぬかりなく実現するのです。


そして、戦争の本質は、いかなる形式とも倫理とも無縁な、ルールなき騙し合いにこそ存在する、と孫子は断言します。

そのため戦争では、徹底して敵の裏をかかねばなりません。

敵情を正確に把握したなら、それに応じて臨機応変の対策を立て、敵の良いところを削ぎ、敵の弱みにつけ込んで、巧妙に罠にはめます。

こうして生まれた敵の隙をついて戦力のバランスを崩し、勝利が確実な態勢を作り出す、というのが兵法に通ずる者のやり方だといわれます。


次回、「②作戦篇」に続きます。


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